第94回会合(2009/8/25)
9月の分権委は政権交代の影響もあるのかやや少なめ。7日に行われたあとは24日で,それも既にかなり短時間で終わることがウェブサイトで出ているので,久しぶりに追いつけそう。いつ以来かわからないところですが。しかしこのまま委員会がどういう終わり方を迎えるのかということはかなり難しい。民主党は「出先機関の原則廃止」とか無駄にハードルを上げていて,分権委の二次勧告では不十分みたいなノリになってるし,一方で予定されている第三次勧告における義務付け・枠付けの見直しは評価している方向らしい。ただ民主党は地方分権というのをパッケージでどう考えているのだろうか。出先機関の廃止をするということは,中央と地方の機能が今まで以上にきちんと分化できなくなるわけだから(本来中央の仕事,というのを地方がやることが多くなる),現在手こずってる八ッ場ダムみたいに中央と地方の利害が非常に錯綜する状態はどうしても維持されてしまう。一方で,現在の義務付け・枠付け見直し路線を維持するという方向と出先機関の原則廃止を組み合わせると,大きな役割分担には手をつけずに,地方の仕事を増やしつつ裁量は緩和,ということになるのかしら。それって極めて総務省的な解,のような気がするわけですが,そうしたときに地方からの財源拡張要求にはどう対応するか,というのがポイントになるところか。そうすると,税財源の議論に何らかのかたちでコミットする必要は出てくるのかもしれないが(って情報がないのでほとんど妄想w)。
さて夏休み中の分権委は,一応税財源の論点整理を一通りこなして,94回のメインイベントは地方団体の代表との懇談。ですがその前に,総務省ヒアリングで前回の会合で委員から質問が出た決算乖離の是正に関する取り組みと,特別交付税の説明について。決算乖離の是正に関しては,論点7で共有税の重要な議論をしているときに突然委員長が持ち出した話の後処理で,普通に計画に見込んだとおりの額が現実に歳出されているかは地方自治体の自由な判断によるからズレるんだ,という説明。これは結局ここまでにもさんざん問題になっている,「一般財源」とは何かという話で,この総務省の説明に対して井伊委員などは,そもそも積算の根拠自体がよくわからないのではないかと批判的。また,特別交付税については,前回出てきた地域手当の減額の話の説明があったあとで委員とちょっと議論がありますが,要はどこまでが特別交付税で充当される「特別の需要」で,どこまでが普通交付税で充当される「普通の需要」かはなかなか難しいところですよね,という話。この回は横尾委員から出てきた鳥インフルエンザがどうか,って話だったわけですが。
そのあとで地方団体の代表との懇談,ということで,知事会・市長会・町村会の会長が出席。地方団体の代表が言っていることは基本的に同じで,(1)国税と地方税の比率を5:5に,(2)交付税の復元=交付税の増額,(3)国と地方の協議の場を通じて地方の意見を反映,ということ。それに加えて地方の裁量を増やすべき,ということで義務付け・枠付けの見直しを評価するという意見が出るかたち。従来通り委員は基本的に好意的なかたちで発言することもありますが,やはり何だか異様にイケイケドンドンっていう感じだなぁ,と思われるところが。民主党は消費税増税を言ってないけど地方消費税は結局引き上げないといけない,とか,国の特別会計は無駄が多くてたくさん削れるとか,地方が起債で使ったものはきちんと査定して資産が残っている(だから元利償還の制度は問題ない)とか。ただ興味深かったのは出席者の多くが来るべき総選挙で民主党が勝つと思って発言している感じを受けるところか。今までの審議会ではもちろんそういうのなかったわけで,その微妙な空気がなかなか面白い。
全体的にはまあ地方の意見ということなんでしょうけど,国税と地方税の比率を5:5にしてかつ交付税を現行より増やすということはだいぶん地方の「財源」の方は増えるのではないかというところ。「財源」を増やさないようにするなら補助負担金を削減,ということになるのかと思いますが,現在の負担金は社会保障財源がらみばっかりで減らせないという話だし,何より負担金を減らすと三位一体みたいに格差が広がる,という話になるのではないか。だからこそ,(現在「本当は地方自治体がサービスを供給できる水準じゃない」ということで,消費税増税でその分をちゃんと積み増すんだ,ということなんでしょうけど,民主党はさしあたり消費税を上げないということになっているわけで。仮に消費税を上げるにしても,結局のところ,こういう風に財源が拡大すると,例えば税源移譲で不交付団体になるようなところは出てくるだろうし,また不交付団体が増える(=交付団体が減る)中で交付団体に配分される交付税が増えるわけで不交付団体になるための水準が高まるわけだから,それなりの財源増になることは予想される。そこでの問題はやはり,「地方自治体がサービスを供給できる水準」がどの程度か,裏返して言うと「いかに無駄がない(少ない)」かをどのように明示的に説明するかということになると思われる。あとは井伊委員が指摘していたところだが,「国の財政政策で地方がネガティブな影響を受けるべきではない」というときに(例えば交付税の法定率の話とか),「国の財政政策で地方がポジティブな影響を受ける」ことをどう考えるかというところかな。この話は地方の側は聞かれてもあんまりまともな答えではなかったと思うのですが(なぜか音まで小さくなるしw),中央地方関係のあり方としては重要なポイントだと思われる。まあ国というものが存在する以上,どんなときだって最終的に責任を負わなきゃいけないんだ,という考え方も当然ありうるとは思いますが,制度デザインとしてはそれならそれなりの地方自治体に対する規律付け,というものをセットで考えるべきだと思われるわけで。
さて最近改めて政治に関するインターネットメディアの反応というか,インターネット上の言論活動が非常に興味深いように思われる。個人的に一番はまってるのはTwitterで,まあ誰も僕のつぶやきを見たい人はいないと思われるのでほとんど見る専門なわけですが,報道されているように民主党の有名な議員がネットメディアについて呟いて,その後いろいろな反応があったのをリアルに見れるのは興味深い。というか,リアルに何か変化が起こっていることを感じさせるものがある。あと最近よく見るのはこのブログ。元民主党参議院議員(現みんなの党衆議院議員)の秘書をしていたMITの院生さんが書いているそうで,その分析は割と古風な感じがするものの,やはりリアルタイムで自分の周りの研究者とは異なる視点からの理解を読めるのは非常に面白い。朝日新聞GLOBEに載っていた本人談によれば,民主党がどんな政党か,というテーマについて英語で書かれているものがほとんどないために,様々な大手メディアから引き合いがあるらしい。それは日本の研究者にとっても(もちろん僕を含めて…)改めて重要な課題なわけですが。