第97回会合(2009/10/7)

廃止?という話も出ていた分権委ですが,結局11月9日に会合を行って,その場で第四次勧告をまとめてしまうようです。読売新聞で,9日に勧告をまとめて総理に提出することが報道されています。これが最後の勧告になって,その後分権委を廃止し,「地域主権戦略局」ができるとか。この中では,交付税の法定率の引き上げを求めることとか,暫定税率廃止について慎重な検討を求めることなどが勧告の内容として報道されているところです。しかし分権委が税財源について委員間の議論をしたのは夏休みに宮脇事務局長が出した「論点整理素案」についての討議のみ。そこから他の勧告のように素案→委員間の討議という過程を経ずにいきなり勧告をするというのはどうなのかなぁ,と。民主党の新政権に配慮したということなのかとも思いますが,その議論の過程が全く明らかにされないままに勧告が出てくると,その勧告の正当性というか,どのような賛成意見や批判を汲み取って最終的に勧告の案となったのかをきちんと説明することができなくなるわけで,逆に分権委にとって自殺行為になるような気がするのですが。

暫定税率廃止は「慎重に」…分権委勧告素案
政府の地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)が、国と地方の税財政改革を提言する第4次勧告の素案が明らかになった。
所得税など国税5税を地方交付税に配分する「法定率」について、現行の約3割からの引き上げを勧告するほか、軽油引取税などの暫定税率の廃止については地方の財源が減少するため、慎重な検討を求めている。
また地方消費税の充実を求めたが、そのための消費税増税は明記しなかった。消費税増税に否定的な鳩山首相に配慮した。9日の会合で勧告内容を最終決定し、鳩山首相に提出する方針だ。
4次勧告は「当面の課題」と「中長期の課題」の2部で構成。当面の課題のうち、「法定率」の引き上げは、民主党が掲げる「地域主権」の確立に向け、原口総務相が強く主張している。
このほか、地方自治体が自由に使える一括交付金の制度設計についても留意点を勧告する。同交付金は国庫補助負担金を廃止して創設するもので、鳩山政権は2011年度からの導入を検討している。
中長期の課題では、国税地方税の税源配分を、現行の「6対4」から「5対5」に見直すよう明記した。
分権委は2007年に設置された。鳩山政権は第4次勧告後に分権委を廃止して、「地域主権戦略局」(仮称)を設置する方針だ。

さてそうなると97回の会合は最後から2回目の会議となります。結局100回までは残念ながら(?)あと2回届かなかったということになりそうです。で,この会合は結果的におそらく今回の分権委の目玉となるであろう第三次勧告をまとめるものになりました。この勧告には今まで長く議論してきた義務付け・枠付けの見直しに関する部分に加えて,地方自治法制(教育委員会・農業委員会・財務会計制度)と「国と地方の協議の場」についても含まれることになるようです。義務付け・枠付けの部分については,小早川委員がこれまで用意されてきた素案に最後のところで「今後の見直しに向けて」として今回の見直しの意義,政府・自治体が留意すべきこと,今後の「条例による上書き権」に関する通則規定や政省令の見直しなどの今後の課題を盛り込んだ部分を加えた修正がなされています。地方自治法制と「国と地方の協議の場」については,前回の会合の最後で丹羽委員長が西尾代理に素案の作成を依頼してましたが,その案が具体的に出てくることになります。
西尾代理による勧告案ですが,まず地方自治法制のうち教育委員会・農業委員会については,地方自治体の選択の幅を広げることを目指すという意図が強いものとなっています。教委については引き続き行政委員会にしてもいいし,長の部局で仕事をするのもありだと。また,農業委員会についてもその仕事を市町村の首長部局に置くことを可能にするような勧告となっていると。この辺りは委員間の議論でもわりと賛同が得られていたところだと思いますが,西尾代理が自身で指摘されているように,例えば教委に関して「長による教員任用の適否を事前に審査する専門的な審査機関」を設置するなど,地制調などより踏み込んだ内容が盛り込まれているところがあります。この辺は,僕が分権委の会合を聞いている限りでは全く出てこなかった話なわけで,それがいきなり勧告に盛り込まれてもいいものなのだろうかと思うところはあります。ただ,その後の委員間の質疑応答ではぜんぜん議論になっていませんでしたが…。地方自治法制についてのもうひとつのポイント,財務会計制度については,そまずの見直しが行われるとすれば総務省が研究会を立ち上げて議論したうえで,地制調あるいは正式のその他の諮問機関にかけるなど,時間をかけて法改正に臨むだろうという西尾代理の見通しが示されます。それに対して勧告では,あまり明確に細かなことは書いていないものの,制度の抜本的な見直しをすべきとしていて,最後のところでこれまで所管だったはずの地制調にやや不満を表すかたちで「地方自治体の監査機能のあり方について明確な改革方針を打ち出すべき」と述べられています。実はこの点についても,分権委の中で地制調の議論に対する評価ってほとんど出ていなかったので,委員会の総意としてはどうなのかなぁ,というところがあったのですが,やはりこの点についても委員間の議論はほとんどなし。
最後の「国と地方の協議の場」については,新政権はこれをやろうとしているものの,地方六団体その他とイメージが共有されているわけではない現状において,一定の中立的な立場にある委員会として見識を示すべきという立場から,「叩き台として参考に」して欲しいというかたちで勧告するとしています。また,制度化するかどうかは別に,国と地方の間で実質的な協議を始めて,細かいところはその場で詰めていって欲しいという希望も示されています。その「叩き台」の内容ですが,名前は「国地方調整会議」として,対等の立場にある国・地方が協力して調整を進める場にして欲しいと。あまり関係者を拘束したくない,という立場から,議論できるテーマはできるだけ広範なかたちで提示され,構成についても国・地方ともに柔軟に解釈できるかたちになっています。特徴としては両者の権限配分や合意の拘束力についても当事者同士の扱いに委ねられているところで,特別の提案権・同意権/拒否権は設定されず,両者が誠実な事前協議を踏まえて真摯に議論し,その結論を誠実に履行する,ということを強く期待した感じになってます。
以上の説明を受けて委員間の議論に入るのですが,実質的に多少なりとも議論があったのは教委の選択制のところについて。露木委員は今の枠組みの中でがんばっている人もいる中で必置規制を外すのにを外すのに抵抗があったそうですが,自由度を与えることで各地域にあった教育行政を開く端緒であるということなのでこの記述は了解する,という趣旨の発言をされています。もうひとつ,小早川委員から教委を存置する場合にも更なる柔軟性という意味で公選制のようなかたちはありうるのか,という質問をされていますが,それに対する西尾代理からは,公選制を明記するべきと言う意見にシンパシーを感じるものの,委員会できちんと議論してないし,公選制をいうと文科省の抵抗が強くなるので今回の委員会ではそこまで触れていないという答え。そうなると,じゃあ上述の「専門的な審査機関」の方はどうなるのだろうか,という気もしないわけでもないのですが。
まあこんな感じで一応第三次勧告がまとまることになりました。これを受けて経産省で5項目,環境省で3項目を見直し,というのも出てますし,総務省が103項目を優先見直しとかいったかたちの具体的な動きも出ているようです。委員会でもたびたび指摘されていたように,これはまさに出発点ということなので,これから具体的な見直しを行うことが重要になるわけですが,実はこのような性格を持った第三次勧告は,政権交代を起こした民主党の「見直し」姿勢とはかなり整合的なところがあったのかもしれません。