第98回会合(2009/11/9)

もはや旧聞に属する話となってしまいましたが,11月の頭に分権委の最後の(?)98回会合が行われ,第四次勧告がまとめられました。第四次勧告の内容とそのメディアでの評価については,既に松井望先生がまとめられている通りで,基本的には地方六団体などの要望に沿った形で「当面の課題」と「中長期の課題」を中心に整理されることになりました。分権委の勧告が一通り終わったことを受けて,政府の地方分権改革推進本部と分権委を統合するかたちで新たに地域主権戦略会議という組織が内閣府の中に立ちあげられることになったようです。で,その事務局が「地域主権戦略室」(今後「局」に改組予定)となっていて,その室長には逢坂誠二衆議院議員が就くようです。ただ今のところ,「戦略室」については機構的にどんなもんになっているのか,内閣府ホームページではよくわからない状態ではありますが。
さて,98回,事実上最後の分権委ですが,冒頭から勧告案が出されることになります。前回10月7日に行われた97回の会合で第三次勧告が出され,その次の会合で突然第四次勧告が出されるというのはどういうことだ,という話ですが,夏休み中に論点整理について議論した内容を踏まえて,この一月の間に委員間のインフォーマルな意見交換を行ってきたという説明がなされます。西尾代理の説明によれば,勧告原案の作成についての依頼があったので,少なくとも一回目は非公式にして欲しいと要請したということですが,結果的にはその後も非公式の打ち合わせ会議が続き,また新政権と委員会の関係について議論が行われたと。そして,委員の間には意見の幅があり,委員の間での合意の幅を広げるには率直な討論が必要で,全て公開されることは必ずしも適当ではないという結論に達したとのことでした。個人的には,今回のように政権が代わってどうなるかわからない,というときの方がむしろ時間をかけて本質的な議論をできるような気もしますが,まずは勧告を出すことを優先すると非公式な会合を通じてまとめる,というかたちになるのかもしれません。
勧告については,基本的に代理が草案を書き,非公開の意見交換での委員の意見を取り入れて形にしていく,というプロセスで,これまで税財政の議論の素案を作ってきた宮脇事務局長はほとんど登場しません。内容についての西尾代理の説明によれば,「当面の課題」の方については,これまで委員会でもあまり議論されてこなかったこと*1も入っており,民主党が出している政策について何か述べないといけないのではないか,という問題意識があったとされています。一方,「中長期の課題」の方はこれまで委員間で議論してきたテーマが基本になっていますが,こちらの方は必ずしも委員間で意見に幅があります。西尾代理の説明では,少数意見の付記を行うのが正確なやり方かと考えたものの,それでは全体として何を言おうとしているのか不鮮明になることから,4・5名以上の同意を見込めそうなところについて,過去の論点整理を踏まえつつ,この委員会の意見として書くという方針にしたということになります。論点ごとに少数意見が誰か,というのは変わるものでしたが,重要な意見について常に少数意見を述べていたのは井伊委員だったので,こういう方針でまとめると,井伊委員については常に意見が反映されていないことになると。そのために調整を行って井伊委員がまとめたものを「意見」として勧告本文に添付することになったという経緯が説明されていました。
西尾代理からの説明のあとは,その井伊委員の意見ということになります。井伊委員は冒頭で,多くの部分で修正に応じてもらったことを述べつつ,分権改革というのは役割分担の見直しであって,分権改革によって国・地方の借金が増えるのはおかしいという主張をされています。結局,地方の財源不足を解決することがこの委員会の目的ではないという点で勧告とは本質的に異なる意見をもつために文書を出すことになった,という経緯を説明されていました。
委員間の議論は,もう勧告本文が変わらないということもあるのか,基本的には井伊委員からの意見についてのコメントが中心になっていたと思われます。まず露木委員からは,中長期にわたって法定率の引き上げを行うことについて反対するのはどうか,というコメントが出ていて,これはあまりうまくかみ合ってませんでしたが,井伊委員の意見からは現行の交付税制度自体への批判が強いので,中長期での法定率の議論がそもそもはまりにくいことがあるような気がします。横尾委員・小早川委員からもコメントが出ていましたが(猪瀬委員は欠席),その趣旨としては地方財源の維持だけを目的とするのではなくて,国の財政も同様に重要だろう,というもの。勧告だけでは地方財源の重視という傾向が見えるとしても,分権改革のトレンドの中で仕事を移す条件整備ということで,国に仕事だけ残して財源だけむしりとるというわけではない(小早川委員)という理解をされているようです。
議論としてはそんな感じでしたが,個人的にやや残念だったのは,最後の方の委員長の発言で,各委員の議論も気持ちの上では,いずれ消費税・地方税のあり方を中心に税制全体の抜本的な改革が不可避だと考えているだろう,というものでしょう。だとすれば,むしろ民主党の新政権が出てきたからといってとにかく勧告をまとめるというよりも,十分な議論を踏まえて必要であれば増税も含めた勧告をするべきだったのではないかと思いました。これまで長い議論を見てきた身としてとても残念な話ですが,分権委の勧告が出てから二週間くらいしかたたないうちに,「事業仕分け」で交付税は見直しという判定までされているわけで,四次勧告が新政権に尊重されているようには見えません。記者との質疑の中で丹羽院長は「民主党政権になったから特別にこうしようということはない」と述べているわけですし,(それこそ残念な言い方ですが)どうせ軽視されてしまう勧告であれば,なおさらきちんと議論をすることで注目を集めつつ問題の理解を深めることが出来た方がよかったのではないか,と思うわけですが。
最後の記者質問は基本的に委員長に感想を聞くコーナーでしたが,前の地方分権推進委員会の諸井会長が「今次の分権改革の成果は,これを登山にたとえれば,まだようやくベース・キャンプを設営した段階に到達したにすぎないのである。」と述べたことを踏まえて質問を受けているわりに,実行するための「麓」に来た,という表現で返したのはやや残念だったかな,と。まあ比較してほしくないということはあろうかと思いますが,それなら山の表現を使わなければいいのに…と思ったり。あと記者質問で興味深かったのは,日経の磯道記者の質問で,「起債の自由化については,赤字地方債のところまで意味するのか」というものがありました。これは確かに重要なポイントですが,いままで全然意識的な議論がされていないところでもあります。西尾代理の返答は「意味していない」というもので,「協議の必要がないという余地を開いてもいいのではないかという趣旨と考えている」という発言でしたが,このあたり現行の「不同意債」の制度(使われてないけど)と結局どう違うのか,というのは不明なところです。この磯道記者は以前にも書きましたが,分権委の観察を通じて実質的に意味のある質問をしていた唯一の記者さんのような気がします。他は答えようのない政局話ばっかりでハッとすることはなかったですが,(コメント自体はそんなに多くなかったと思いますが)磯道記者のコメントには気づかされるところが多く,勉強になりました。
さて,これで分権委の観察記録も一応終わりになります。今後フォローアップがあるとかいう話もあるので,その場合にはこちらの観察記録もフォローしていきたいとは思いますが。思えば2007年の4月にはじめてみて,当初は動画の公開というのはこの審議会が初めてとされていたわけですが,その後税調や国家公務員制度改革推進本部顧問会議労使関係制度検討委員会でも動画の公開がみられるようになりました。そしてつい先日の事業仕分けは生中継で,まさに衝撃的なかたちでの公開だったと思われます。公開性への圧力が高まる中で,分権委の試みは非常に先駆的なものとして評価されるべきでしょう*2。当初は,研究者はいつも「公開が重要だ」というわりにモニタリングをどのくらいしているかはわからない,という問題意識から軽い気持ちでやってみようと思ったわけですが,さすがに三年となると長かったです(途中から一月遅れが常態化してしまいましたし…)。とはいえ,公開されていない非公式会合やWGの審議内容などのフォローはできないわけで,このあたり審議会の公開性とその審議の方式などもいろいろ考えさせられるものがありました。まあそれを公開されてたら,逆に早い段階で観察記録を諦めてたかもしれませんが…。今まではなるべく議論の様子をまとめることを考えてやってましたが,これからは,ボチボチと観察してきた印象をまとめてみる機会も作りたいな,と思うところです。

*1:法定率の問題とか,国庫補助負担金の一括交付金化,国と地方の「事実上の」協議の場の議論などがそれに当たるとのことです。

*2:ただ,なぜ一月程度で動画が非公開になるのか,また途中でよくわからないかたちでファイル形式を変えたのかは疑問が残りますが