マンション管理
お盆の週は東京の妻実家に帰省(寄生!?)中。帰省のために夜中に飲み歩くこともなく、昼間は子どもを連れて出歩いてるのでまあそれなりに健康的な生活ではあるのだけども、子どもと一緒に夕食のあとすぐに寝てしまうことが多くなるのでこれは体に悪いような。とはいえ休み最終日の今日は子どもが二人とも熱発して当初の予定はキャンセルに。
というわけで突然の空き時間を利用して、持ってきてた竹井隆人『集合住宅と日本人』を読む。内容は、形式的な「コミュニティ」―とくに集会場のようなハコに規定されるようなコミュニティ―なんていうのは建築工学者の幻想に過ぎなくて、住まいの中で共同性を見出すことは政治の問題であり、その共同性のガバナンスをどう構築するかを考えるのが重要だ、というような話。時折ちょっと飛躍じゃないかなあ、という部分もあるものの、政府系金融機関の職員として集合住宅建設のプロジェクトにも携わった経験などを踏まえつつ、「集合住宅」(「集住」というべきか)をいわば私的政府とみなしてそのガバナンスについての論点を提起しているのは興味深い。個人から集住、そして地方自治体や国との連続性は、私自身『地方自治論入門』の第2章「選挙と代表」/第7章『地方財政と予算管理』でも一貫して意識していたところなので、海外も含めてこういう事例がありうるのか、と興味深く読むことができた。
- 作者: 竹井隆人
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 作者: 柴田直子,松井望
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2012/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 38回
- この商品を含むブログ (95件) を見る
その観点からは、以下の主張は、分譲マンションという「社会契約」と、国家や地方自治体のような「社会契約」の関係について、連邦制・地方分権的な権限配分の議論を考えるものとしても非常に興味深い。
「私的政府」の効用は、既存の「公的政府」(引用者注:国家や地方自治体など)よりも、共同利用する空間や施設への共有の認識を強め、直接民主制によればその為政に対する疑問を反映させる度合いも高められることにあるだろう。そして「私的政府」ならば、より他者の自由や権利を「制限」する政治機会への発言権も高まるために、その政治的な「責任」も重くなる。けだし、「公的政府」による統治は、夕張市の財政破綻に見るがごとく、分不相応な公共施設について共有意識や熟議を欠き、いたずらに「公的政府」に依存するパラサイト(寄生)さえも透けて見える。このような「自立」を欠く地方行政における病理にとって、「私的政府」はいわば「究極の地方分権」として救いの一手となるやもしれぬのだ。
このような分譲マンションにおける共同性というのは、政治学などの研究では割と看過されていて、都市社会学なんかで議論されているように思うけども、最近では法社会学者である高村学人先生が、都市のさまざまな共有資源(あるいは実質的に共同体)をコモンズとして分析する中で分譲マンションの管理についてアンケート調査や聞き取りなどから迫る研究をされていて勉強になった。ディベロッパーと共同研究なんかをさせてもらえると、非常に興味深い分析ができるのではないかと思う。中長期的にはそういうデータをつかんでいくことが重要になるだろうと思うし、ぜひやっていきたい。もしこのエントリをご覧になって心当たりのある方はぜひご連絡ください。
また、以前にツイッターで書いたことがあったが、最近であれば、東洋経済がマンション管理というテーマについて精力的に取材をしているのが興味深い。「マンション時限爆弾」も「マンション大規模修繕」も、分譲マンションという、共有/総有という性格が強いのに「区分所有」という微妙な所有形態をとっている集住で、その管理をきっかけに共同性が出現する/しない事例をいろいろと紹介している。こういうのを読むと、そのうち地方自治研究はよくわからない地方議会なんぞではなくマンションの管理組合を研究し始めるようになるのではないかと思ったところ。
- 作者: 高村学人
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2012/11/01
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2013/06/03
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2013/08/05
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (3件) を見る
*1:平易なものとしていえば、たとえば杉田敦『政治的思考』