ダブル選挙についての3つの解釈

ダブル選挙のあとに,ちょっと研究者の間でFacebookで盛り上がったネタについて。橋下徹氏が明日から市長に就任される中で,「どのような支持があったのか」を考えることは,今後の市政を考えるにあたっても重要なところなのかな,と。
3つの解釈のうちひとつめは,今回の選挙で,橋下氏・大阪維新の会は,どちらかというと所得の高い層の支持を受けたんじゃないか,という解釈です。次の図は,横軸に大阪市各区の財政力指数(大阪府自治制度研究会第9回資料5,p.22より),縦軸に橋下徹候補の区ごとの得票率をプロットしたもの(図1)。北区(財政力指数3.951)と中央区(同6.620)が外れ値になっていてちょっとわかりにくいですが,財政力指数の高い区で橋下候補が高い得票率を獲得している傾向がみてとれます。まあ外れ値と言っても,北区・中央区ともに西区についで高い得票率となっていますが。ちなみに,この2つの外れ値を取ると,その傾向はさらにはっきりします(図2)。


次の解釈は全く逆です。つまり,大阪維新の会は,所得の低い層からの支持を受けていたのではないか,という解釈。これは,こちらのブログ記事で指摘されていたもの。府内各市の平均所得と松井一郎氏の得票率をプロットしてみると,平均所得が高い自治体で松井氏の得票率が低くなる傾向があると議論されています。詳細についてはそのブログ記事をご覧頂ければと思いますが,一応見やすさのため,提示されているデータから同じものを作って提示します(図3)。ただし,同じものといっても横軸と縦軸を入れ替えています。それは,「平均所得が高い自治体で松井氏の得票率が低くなる」という解釈の裏付けとしては,横軸に平均所得を持ってきたほうがいいと考えたからです。で,図3をみてもらえればわかるように,まあ右下がりの回帰直線を描けるような気がします。なお,この図では,元のブログ記事と同様に,池田市能勢町という倉田候補が過半数の得票を獲得した町は外れ値として除いています。

最後の解釈は,上述のような因果関係ってそもそも無いんじゃないのか,というような話です。実は今回はやや不思議な選挙で,松井候補の得票率が高い地域で逆に投票率が低いというところが結構あります。典型的には泉佐野市で,ここは最も松井候補の得票率が高いのですが,逆に投票率は一番低い,というような感じになっています(図4)。これはなかなか興味深い結果で,おそらくさらにふたつの理解がありうると思われます。

ひとつは,投票率が上がった地域,つまりより多くの有権者が関心を持ち投票所に向かった地域では,大阪維新の会以外の候補に入れる有権者が多かったという考え方があり得ます。反維新の会の陣営が追い込みを掛けて,少しでも多くの有権者を投票所に呼びこむことができれば,ひょっとしたらもっと接戦になっていたかもしれません。このような理解のインプリケーションは維新の会としては厳しいもので,要するに今回のダブル選挙がある意味で目一杯,維新の会の支持者はほとんど投票に行ったんだ,というようなものになるかもしれません。
もうひとつの理解は,次の図5に示したような絶対投票率を見るものです。ダブル選挙があった大阪市と,あんまり注目されませんでしたがもうひとつのダブル選挙があった田尻町で松井氏の絶対得票率が伸びている以外では,どの地域でもだいたい25%から30%くらいの得票率になっていると。これは世論調査が出るたびに思うことではありますが(2011年1月2011年11月),やはりかなり固いコアな維新の会支持層というのが全体の3割くらいいる感じがしていて,その3割(=絶対得票率)がきちんと投票に行っているのかもしれない,という解釈もあり得るかなと思います。その場合,今回の結果は,維新の会が今後コアな支持層以外にも支持を広げることができれば,さらに伸びる可能性がある,ということを含意しているかもしれません。

まあこんな感じの解釈があり得るように思いますが,それぞれ一長一短あります。はじめのふたつの解釈は,やはり社会科学で言うところの生態学的誤謬ecological fallacy,つまり集計した傾向性をミクロの傾向性と取り違えている可能性があります。残念ながら有権者へのサーベイをしているわけではないので,ここのところはわかりません。いくつかサーベイが回っているようですので,今後の検証に期待したいところではあります。
次にふたつ目の解釈に特に当てはまりますが,所得は関係なくて地域差なんじゃないの,という可能性はあります。図3の右下は基本的に池田に近い北摂地域で,そのデータを取ってしまうと残りのデータでの相関というのはあんまり認められないような。つまり,本来は地域差の影響であるのに,所得差の影響として取り違えている可能性があります。
最後の解釈の問題点は,因果的な推論が全く無くて,それ自体の検証のしようがないというところでしょうか。「3割」といってもどんな3割なのか全く分からないし,本当にコアじゃない支持層が松井氏に投票していないのかということは検証の余地がありません。ただ,投票率と得票率の負の相関というのは,今後の検証課題としては重要なのかな,と思います。どちらかというと無党派層が維新の会を支持したというような理解が流通しているように思いますが,投票率が高い=無党派層が投票所に行った地域で,維新の会が相対的に得票できていないわけですから,ここについてはその要因もじっくり考えてみるというのは意味があることかもしれません。