建築と権力のダイナミズム

分担執筆しました『建築と権力のダイナミズム』(御厨貴井上章一編、岩波書店)が出版されました。私は「庁舎と政治−都市の中心をめぐる競合と協調」(第5章)を担当しています。政治と建築というテーマは、日本ではそれこそ御厨先生が意識的に分析をはじめられているくらい*1でなかなか冒険的(!)なところのあるテーマではないかと思います。ふつうに書いている論文のように、きちんとした枠組みがあってその中で論理的に展開するというよりは、資料をまとめていく中でなんとなく「ダイナミズム」が見えてくる、というような感じがします。個人的にはあんまりそういうの書き慣れないので大変でしたが、私の場合、書いている中で都市と庁舎の「相関関係」がなんとなく見えてくるようなところがあったように思います(成功しているかどうかはわかりませんが)。
おそらく、何が書いてあるかイメージがつきにくい論文集だと思われるので、御厨先生の「まえがき」から内容を簡単に紹介しておきます(なお本文では数字はローマ数字になってます)。

1「議事堂」は、佐藤論文、奈良岡論文ともに国会議事堂を対象とする。国会議事堂の生成過程と議場構造論をめぐって、議事堂ならではの権力との相関関係がそれぞれ明らかにされている。
「議事堂」の次は行政機構だ。そこで、2「庁舎」がくる。手塚論文は、霞ヶ関官衙街の計画と建設をめぐって、小宮論文は、戦後改革の中での三人の相関と権力の館との相関関係をめぐって、砂原論文は、都市化の進展の中での府県庁舎の位置のあり方をめぐって、各々これまでの議論では見えなかったダイナミズムを導き出す。
「権力の館」のオンパレードに続き、3「権力者の邸宅」が姿を現す。牧原論文は権力者の館として著名な吉田茂とその邸宅との相関関係を、位置取りの政治学として解き明かす。そこに「権力者の館」研究のいっそうの深まりを見出だせる。
「建物」からの広がりは、4「権力と都市空間」へと連なる、五十嵐論文は、政治家との関数関係にある建築家の存在、そして建築家の権力と都市空間への構想と抗争を語って余すところがない。中村論文は、幕末の武士の「居所」の選択と「場」の論理について、歴史地理学の側から迫る。幕末期の武士の移動の政治学がそこに伺われる。朴論文は、大韓帝国期の近代化改革の都市空間への反映と、道路網と丘壇の変化、それらの大日本帝国の植民地下でのさらなる変化を、丹念に追究する。
建築と権力の織りなす相関性は、5「権力と意味空間」へと拡大する。実は政治家の館ばかりではなく、彼の持つ書と漢詩の教養から繰り出されるもう一つの権力の意味空間を、松宮論文は追う。副島種臣に即しての分析である。

個人的には、小宮先生の「三人の総監=警視総監・消防総監大阪市警視総監」とそれぞれの「権力の館」に注目した分析は、警察・消防と地方分権についての歴史的研究としても非常に面白いと思います。小宮先生は、「大阪市警視庁の興亡−占領期における権力とその「空間」」『年報政治学』2013−1号でもこのプロジェクトでの研究成果を発表されていて、こちらも一緒に読むと、警察・消防と地方分権というテーマの広がりがより感じられるように思います*2

*1:御厨貴[2013]『権力の館を歩く−建築空間の政治学ちくま文庫

*2:小宮京[2013]「大阪市警視庁の興亡−占領期における権力とその「空間」」『年報政治学』2013−1号

宗教と政治 (年報政治学)

宗教と政治 (年報政治学)