災害に立ち向かう自治体間連携−東日本大震災にみる協力的ガバナンスの実態

大西裕先生が編集された本が発売になります。ひょうご震災21世紀記念機構で実施された科学研究費助成事業の成果となっています。私は,大阪大学大学院の小林悠太さんと共著で「災害対応をめぐる行政組織の編成―内閣府兵庫県の人事データから」という章を寄稿しています。書いている人は,関西大学の永松先生を別として,基本的には政治学行政学を研究している人たちで,必ずしも防災や災害の話に元から通じていたとは言えないと思いますが,もともとの専門から理解可能な関西広域連合やその他の広域連携という観点から東日本大震災への対応を(再)検討するという造りになっています。国際比較も含めながら*1,災害に対して行政組織がどう設計されてきたか,どう設計するかを考えるということが主要な関心になっていると言えるのではないでしょうか。私のところは現在進行形の災害対策関係の人事データを扱っているところで,直近の状況を改めて見るとやや微妙だな…と思うところもありますが,そんな変化が見えるのは,この分野が政治化しつつあることの影響なのかもしれません。

*1:私もこの調査でワシントンと台湾に行きました。

BC州選挙

5月9日はBC州選挙。韓国大統領選と同じ火曜日だけど,向こうとは違ってこちらでは休日になるわけでもなく,普通に仕事や学校はある*1。子どもの学校が投票所になっていたので,送りがてら投票所を見学するなど。しかし平日に学校で選挙があるというのはなかなか悪くないと思われる。僕が投票所に見学に行った時も,恐らく高学年と思われる小学生たちが選挙の見学に来ていて説明を受けていた(その後ろでちょっと聞いてたけど,後ろの方だと断片的にしか聞き取れず断念…)。身近に選挙を感じるというのは重要だし,やっぱり実際に見て「こうやってるんだ」と思うのは,政治教育としても意味があるのではないかと思う。
投票所は非常にシンプルなつくりで,入場すると担当者がいて住む地区によって来た人を振り分けて,投票場所に誘導する。日本の場合は,ID(というか入場券)チェックのところで住所を確認して投票用紙を渡すけど,ここの選挙の場合は住む地域によって投票するテーブルが違うという感じ。一応覆いがかかっているところで投票用紙に記入して投票箱に入れるスタイル。さすがに投票用紙貸してとまでは言いづらく,見てるだけだったが普通に記号式で電子投票ではなかった。興味深いのはAbsentee Voting(たぶん不在者投票)というしくみがあって,指定された投票所じゃなくても投票できるというもの。あら選挙事務大変そう,と思ったけど,前回選挙の時の記事を読むと,電子投票でもないわけでやはり集計には2週間ほど時間がかかる模様。Close votesだとその頃まで結果がわからないし,反対に大差がついているようなところだとその集計に意味があるのか…みたいな気もしてくるかもしれませんが。ダウンタウンみたいなところだと利用する人は多くて1時間くらい待つみたいだけど*2,うちの子どもの小学校のところはガラガラでした。
事前のニュース報道見てると,基本的にはNew Democratic Partyが勝って政権交代を起こしそうだけど,かなりの接戦ということなので情勢を読むのは難しい*3。今回は第三党のGreenが今回はかなり支持率が高くて(20%弱)FPTPで議席を獲得するのは難しいにしても,選挙結果に影響を与える可能性は高いと考えられているようだけど,普通に考えたらもっとも左寄りのGreenと左派のNDPが票を食い合って中道右派Liberalが有利になりそうなところ。現職首相のChristy Clarkに対する批判票が多いと思われるわけですが,これをどのくらいGreenが持って行くのか,っていう話になりそうです。

*1:Elections BC(選挙管理委員会に相当すると思われる)によれば,投票日には投票時間(8時−20時)中連続4時間の自由時間を与えなければならず,使用者が拒否すると罰せられるらしい。もちろん,必ず休業(有休?)というわけではなくてシフトが12時からとか16時までとかであれば問題ないらしい。

*2:上記のtime off work for voting使って家帰ればいいような気もしますけど,仕事に戻ったり,off workしてから遊びに行くこともできるのかもしれない。

*3:地元紙では人気のないリーダー(Liberal)とみんな知らないリーダー(NDP)の戦い,とか悪いこと書いてたw

『徹底検証 日本の右傾化』

塚田穂高先生に『徹底検証 日本の右傾化』を頂きました。どうもありがとうございます。もう3刷りなんですね!主に社会学者・政治学者が書かれたところと,塚田先生がご執筆のところを中心に拝読いたしました。ジャーナリストや運動家の方々のところも興味深いのですが,読んでる印象としては,少し結論を急ぎ過ぎていて,ちょっとついていけないところを感じたのも事実です。14章で右派の「陰謀論」について書かれているところがありますが,「自説に対する反論があること」と「自説が広く受け入れられないこと」が陰謀論の特徴であるとすれば,それがそのまま当てはまるような章もないわけではないように思ったり…。しかしそういった方々も含め,多様な角度から議論できる執筆者を広く求めて一冊の本にされた塚田先生のご尽力はとても優れたものだと思います。
個人的には,竹中先生の議論(第6章)に近い印象を持っています。つまり,政治家の方は先走って「右傾化」しているところはあるけれども,有権者がついてきているわけではないという現状があるのではないかと。政治家がそういう志向を持つ理由としては,中北先生が本書(第5章)でも『自民党』の中でも,民主党への対抗ということを中心に論じておられます。私の感覚から言うと,選挙制度そのものというよりは,自民党内の総裁選出プロセスの変化や,地方の選挙制度と地方組織の影響力拡大といったところも重要な理由になるように思いますが。もちろん,仮に有権者の選好の大きな変動を伴わない政治家の活動だとしても,軽く見てよいというわけではなく,政治家が中道を狙う(狙わざるを得ない)制度設計こそが重要だと思います。
竹中先生の分析したイデオロギーの調査では「右傾化」の傾向が観察できていないとしても,気になるところは宗教的な伝統回帰みたいな動きだろう,ということで,本書では宗教についての分析が厚くなされています。読んでいて思ったのは,宗教と重なるかたちで重要になってくるのはやはりナショナリズムで,グローバル化が進んでいる中でナショナリズムを重視するようになるというのはまあ割と自然だと思いますが*1,日本の場合は本質主義/伝統主義的なナショナリズム天皇制や神道と結びつきやすいので,宗教の問題として一部捉えられることになるのではないかという印象を受けました。塚田先生のご論考は,以前のご著書と同じように類型化を図りつつ分析的に議論を進めるものです。他のご著書でもそうですが,宗教を分析的に議論するのは簡単なことではないと思いますが,非常に興味深い議論だと思います。気になったことを言うとすれば,類型化を行うときに,基本的に日本社会を前提とされているような感じがあるので,例えばアメリカの宗教右派とかはどういう風に関係づけられるかなどはちょっと見えにくいということです。
もうひとつ,問題をナショナリズムの方から考えると,やはり不思議なのはなんで「左派ナショナリズム」みたいなものはない(見えない?)のだろうか,ということがちょっと気になりました。一国社会主義論を持ち出すまでもなく,国民に対して平等な福祉を提供するという発想は,ナショナリズムと結びつきやすい(排外主義的になりやすい)ように思いますが,そういう(再)分配志向が直接出てくることはあんまりないような気がします。あるいは,すでに左派ナショナリズム国家社会主義的に「右派」の方にからめとられているという理解なのかもしれませんが。もしそうだとすると,対抗軸としては「自由」の強調になるように思いますが,これも新自由主義への嫌悪感で難しい,というと,やや辛いところです。…とまとまらないことを書いてしまいましたが,色々な思考を刺激される本であるのは間違いないと思います。

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

*1:いわゆる再国民化,というやつですね。関連研究としては,高橋進・石田徹[2016]『「再国民化」に揺らぐヨーロッパ-新たなナショナリズムの隆盛と移民排斥のゆくえ』法律文化社など。

自民党−「一強」の実像

一橋大学の中北浩爾先生(と中公新書編集部)から『自民党』を送っていただきました。どうもありがとうございます。ストレートなタイトルからも非常に意欲が伝わってきますが,選挙制度改革以降の自民党について,最近の研究成果を踏まえて書かれている,新たなスタンダードになりうる本だと思います。個人的にもいろいろと新しい知識が広がったと思いますが,特に政策過程を扱った第3章と地方組織を扱った第6章が勉強になりました。
自民党というと,中北先生の前著である『自民党政治の変容』も含めて,中選挙区時代の組織構造について説明されることが多かったと思います。しかし本書では,以前の派閥,後援会,族議員政調会を中心とするような自民党の組織構造が,執行部への集権を軸にどのように変化したかを描き出しています。重要なのは,変化の過程にあることを論じているのではなくて,ある程度固まったかたちとして現在の(「一強」の)自民党の組織構造を議論しているところだと思います。とりわけ興味深いと思ったのは,第3章で,自民党の政策がボトムアップ+コンセンサスを重視して決定されていた手続きを換骨奪胎して,トップダウンで決められた政策に党議拘束をかけるようなところが見られるという指摘でした。また地方組織についてまとめられた第6章では,国会議員よりも地方議員の方が有権者との強い関係を築きやすくなっていること,そして地域によっては県連単位での統合が強まり,執行部と対立しうることが議論されています。これは私が重ねてきた研究でも同じような知見を得ることができていて,近く単著を出版する予定ですが,意を強くすることができました。
その他に議論されているのは,以前は利益配分にも積極的に関与してきた派閥が国会議員の人的ネットワークの場になっていること(1章),総理を中心とした人事権者の人事権が実質化していること(2章),自民党公明党とどのように選挙協力を行っているか(4章),自民党国会議員が強い地盤を持つものと「風任せ」の二つに分かれていること(4章),経団連など友好団体との選挙や資金面での関係(5章)です。いずれも,最近の実証研究に依拠しながらも,これまでの自民党研究とはやや異なるパッケージでまとめて提示されていると思います。2000年代から2010年代にかけて,これが「安定」していた時期というべきなのかわかりませんが,自民党としてこの時期に進めた制度化を理解するために必読の著作になるのではないでしょうか。

自民党―「一強」の実像 (中公新書)

自民党―「一強」の実像 (中公新書)

自民党政治の変容 (NHKブックス)

自民党政治の変容 (NHKブックス)

その他,大学に以下の本を頂いているようです。
まず,慶応SFCの松浦淳介先生から,『分裂議会の政治学』を頂きました。ありがとうございます。松浦さんが長く取り組んでこられた「ねじれ」についてまとめられた博士論文を基にしたものですね。自民党「一強」という中で「ねじれ」の問題はやや後景に退いている感じはありますが,また同じように起こりうる制度配置ですから,きちんと考えておくべき問題だと思います。津田塾大学総合政策学部に移られた森田朗先生から『新版 現代の行政』を頂きました。もともと放送大学のテキストであったものを改訂されたということです。中医協や社人研などでのご経験を反映されて,いわゆる番号制度や人口減少問題についても目配りされているようです。
新版 現代の行政

新版 現代の行政

早稲田大学の稲継裕昭先生からは,テキストブック政府経営論を頂きました。Jan-Erik LaneのState Managementの翻訳ですね。Laneの議論は昨年の村上裕一さんのご著書でも参照されていましたが(本は違う),Principal-Agentモデルで見た政府についての概説書ということになると思います。目次を見るとわかりますが,市場化テストや規制の話など,私自身が『公共政策』で扱ったような話とも近接しているようで,公共政策のテキストとしても使えるように思います。
テキストブック政府経営論

テキストブック政府経営論

『市民社会論』

関西大学の坂本治也先生から,『市民社会論』を送っていただきました。どうもありがとうございます。市民社会論というこれまで教科書が書かれてこなかった分野での新しい教科書として書かれていて,何というか非常に野心的な企画だと思いました。関西大学法学研究所のシンポジウムなどすでにいろいろなところで書評などの企画もあるようですが,やはり編者の坂本先生が,この分野ならこの人,という感じでお願いしていった(らしい)という成果なのだと思います。積極的に分野を超えて「この人」という人にお願いするのは編者冥利につきますよね(やったことないけど)。しかし他方で,たとえば「本書には「NPO」という言葉が出てこない」(理由は本書参照)みたいなところもあって(索引で拾ってるのもそれを書いた一か所だけ),実は坂本さんのエディターシップが効いてるということが端々に感じられます。
(1)それまでにない新しい企画で,(2)各分野の第一人者と考える人にお願いする,という企画である以上,本書が市民社会論における様々なトピックについて議論を深めるものになるということはよくわかります。それは,たとえば私みたいにやや距離がある人間からすると*1,非常に便利なカタログとして利用できるということもあります。他方で,体系的に考えようとすると違う構成もあり得たのではないかと思うところがあります*2。私が読んでて思ったのは,もっと(市民社会における)組織を前面に出してもよいのではないか,ということです。坂本さんが書いてる1章だと,「市民社会」を考えるときに中間団体のような組織と切り離しては考えにくいように印象を受けるわけですが,その直後は田村先生の熟議民主主義の話で,これは組織というよりも市民社会のアリーナの話だと思います。市民社会において,「市民」の参加がなぜ起きるのかという問題と,参加する先であるところの組織のどちらに注目するのかというのは簡単に決められる話ではないと思いますが,しかしこういうかたちで新しい教科書が編まれたことで,却って市民社会というものを意識的に組織を中心に考えてもよいのではないか,と思わされることがあったような気がします*3。部外者の勝手な感想で話半分,みたいなものですが,しかしそれでも新しいタイプの教科書が生まれるというのは非常に面白いプロセスなんだと思います。

市民社会論: 理論と実証の最前線

市民社会論: 理論と実証の最前線

その他に,この間以下の本を大学にお送りいただきました。まず宮崎公立大学の有馬晋作先生から『劇場型ポピュリズムの誕生−橋下劇場と変貌する地方政治』を頂きました。前著に続いて,橋下前大阪市長をはじめとした地方政治でのポピュリズムの研究ということだと思います。補論では,トランプ大統領の話も同じような枠組みで議論されているとのこと。清水直樹先生と藤井禎介先生からは『「やらせ」の政治経済学』を頂きました。科研の成果ということのようですが,魅力的なタイトルですね。地方政治におけるクライエンタリズムも分析の対象になってるようです。よく考えると,中選挙区制衆議院総選挙で社会党がそもそも過半数に必要な候補を立てていないような状況も,「やらせ」だったといえばそうかもしれません。
「やらせ」の政治経済学:発見から破綻まで

「やらせ」の政治経済学:発見から破綻まで

創元社からはパットナムの『われらの子ども』を送っていただきました。話題になった本でもありますし,現状の日本を考えても非常に意義深い翻訳ではないかと思います。
われらの子ども:米国における機会格差の拡大

われらの子ども:米国における機会格差の拡大

神戸大学の同僚の増島建先生と大西裕先生から,それぞれ『開発援助アジェンダの政治化』と『選挙ガバナンスの実態 世界編』を頂きました。いずれも新しい分野を切り開かれているようで非常に励みになります。

*1:しかし実は公益法人についての論文を書いたことはあるのです(宣伝)。砂原庸介,2012,「公益法人制度改革 : 「公益性」をめぐる政治過程の分析」『公共政策研究』 12: 17-31.

*2:この辺の議論については,加藤雅俊,2017,「新しい政治学(の教科書)には何が不足しているか : 政治学におけるメタ理論的基礎の必要性」『名古屋大学法政論集』269: 75-102.などどうでしょう。

*3:本書でいえば,4,5,11−15章あたりが組織の話をしていて,2,6−8,10章あたりがその周辺の環境,3,9章が中間という感じがしました。16章の位置づけは難しそうですが。

『公共政策』

本日付だと思うのですが,分担執筆しました『公共政策』の教科書が刊行されました。編著者である御厨貴先生のほか,片山善博先生・増田寛也先生というお二人の知事・総務大臣経験者に加えて,手塚洋輔さんと私で書いてます。この教科書を使った放送大学の「公共政策」のラジオでの講義が,2017年度から始まることになってまして,私も声だけお邪魔します。正直一回目については緊張しまくってちょっとひどい収録だったんですが(泣)。
一応手塚さんと私の二人が「理論編」のようなところを分担して担当しており,私はそのうち「公共政策と統計」「公共政策の手法(1)−政府の介入」「公共政策の手法(2)−市場をつくる」というところを書いています。あとの二つについては,まあ行政学の授業でもそれなりに時間をかけてやっているところで,たとえば保育の話などと絡めてそれなりに親しみがあるものなのですが,一つ目については自分で書こうといったものの,あまり似たようなトピックを扱う教科書がなくて苦労しました…*1。国家(あるいは協会など)が管理のために統計を取っていたというCensusの話から始めて,実際に統計の数字を扱うことがどのような困難を抱えているか,そして最近統計調査が難しくなる中で,人々の行動を記録するかたちの統計が改めてクローズアップされていること,そこからビッグデータの話やそれを国家ではなく企業が作成していることに関わる問題などを書いてます。多岐にわたっていて一つ一つやや浅い話かもしれませんが,個人的にはこの章が一番気に入っております(苦労したので)。

公共政策 (放送大学大学院教材)

公共政策 (放送大学大学院教材)

*1:個人的には,William Alonso and Paul Starr, 1987, The Politics of Numbers が面白かったし参考になりました。

The Politics of Numbers (Russell Sage Foundation Census)

The Politics of Numbers (Russell Sage Foundation Census)

『貧困と地域』

関西学院大学の白波瀬達也先生から(中公新書編集部経由で)いただきました。どうもありがとうございます。
重い話ですしとっつきにくいテーマだとは思いますが,非常に読みやすいものになっていると感じました。まあもちろん,私自身が一応は前提知識を持っているからということもあるのだとは思いますが。個人的に興味深かったのは,住宅を扱っていた3章と,西成特区構想の5章ですね。5章の方は,いろいろとお立場も難しいであろう中で,かなり踏み込んで書かれているところに好感を持ちました。白波瀬先生は以前からソーシャルワーカーとしてあいりん地域にもかかわっておられて,以前にブログでも紹介した,『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』で出てくる会議にもファシリテーターとして参加されていたわけですが,その時の逡巡とか,現状を踏まえたうえでのこれからの方向性とか,現場をよくご存知の方としての苦悩がありつつ,構想の進め方について比較的ポジティブにとらえられているように思いました。もちろん,箱物づくりの話になってしまうのが困るとかそういうことはあるわけですが。
特に現場に参加しているわけではないですが,私も個人的にはほぼ同じような印象を持ちました。ただ,議論が難しいかなあと思ったのは,ジェントリフィケーションとあいりんからの貧困の「拡散」をどう考えるか,というところでしょうか。私自身も『大阪』で少し触れていたと思いますが,この問題の蓋を開けてより広い範囲での解決を図るとすれば,「拡散」のようなものはある程度仕方がないような気もします。ただ,現行制度のもとで,議員が「地域代表」としての性格を強く持ち続けるとなると,結局これまでと一緒で「拡散」の先がないNIMBY問題となってしまいますが。もちろん,そうなると,今救貧/福祉の資源がある程度集中しているあいりんから人を「拡散」させるのは好ましくないというのはその通りだと思います。
住宅について書かれている3章を読んでいても思ったのですが,結局支援のあり方をどうするのかという問題に行きつくように思います。今はどうしてもあいりん地区という地域にある住宅とか病院とかそういう現地・現物とリンクさせた形での支援が中心になるところがあるわけで,それを移動する個人の方にどうやって転換させるか,ということでもあるような。まあ一気にいろいろ変更できると楽なんでしょうけど,実際そういうわけにもいきませんから,どういう順番で議論していくかというのが大事になるのだと思います。いずれにしても長期的なゴールの共有というのが前提になるのだとは思いますが。

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

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大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書)

大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書)