3月−4月に頂いた本

新学期の準備や自分の著書の関係で,この間慌ただしくしていたために,なかなか頂いていた本の紹介ができませんでした。3月から4月にかけて,ふだんよりも結構たくさんの本を頂戴しておりました。昨年の終わりにも書きましたが,出版不況と言われているにもかかわらず,政治学系の本の出版(特に単著の出版)がむしろ活況になっているという状況が続いているのかもしれません。
まず,原田久先生の『広範囲応答型の官僚制 ―パブリックコメント手続の研究』です。最近は中央の省庁のみならず,地方自治体においても「パブリック・コメント」手続きが導入されていますが,その制度について分析したものはほとんど無かったのではないかと思います。本書は,パブリックコメントのような新しい制度を対象としたチャレンジングなご研究であるということはもちろん,(だからこそでありますが)かなり最近の先行研究まで踏まえて議論をされているなど,非常に勉強になります。お忙しい中でも最近の研究を追って,新しいトピックの分析を行う,というのは本当に見習いたいところです。

広範囲応答型の官僚制 ―パブリックコメント手続の研究 (学術選書64)

広範囲応答型の官僚制 ―パブリックコメント手続の研究 (学術選書64)

御厨貴先生からは,以下のご著書を頂きました。『知と情 宮澤喜一竹下登の政治観』は,宮澤・竹下両氏の政治観を福本邦雄氏の話を補助線に議論する,という方法が新しく,非常に興味深く読ませていただきました。インタビュー調査を用いた方法論というと,たいていの場合ひとつのインタビューに寄り添いながら,そこで得られた情報の裏取りをする,というかたちが多いかと思いますが,複数のインタビューを組み合わせてその背景を探る,というのは今までもあまり試みがなかったのではないかと思います。この手法は,『後藤田正晴と矢口洪一の統率力』でも用いられているものですが,まさに政治史と現代政治に通暁する御厨先生ならではの方法で,ひとつのインタビューでは構成するのが難しい,立体的な奥行きのようなものを読者に提示しているのではないかと思います。個人的には,途中で出てくる田中角栄論が非常に面白い,というのも印象的でした。
知と情 宮澤喜一と竹下登の政治観

知と情 宮澤喜一と竹下登の政治観

「質問力」の教科書

「質問力」の教科書

それに加えて,牧原出先生とのご編著,『聞き書 武村正義回顧録』を併せていただきました。さすがに「バルカン政治家」と呼ばれるところがあるわけで,様々な政治的なやりとりの部分で細かい描写が多いところが印象的です。あるべき論みたいなものをぶちあげて政策のお話をされるというよりは,個別の課題をどうやって乗り切っていくのか,という観点から政策が説明されているように感じるところでした。時流や世論を意識しながら割とフットワークが軽くいろんな交渉に出かけていって,失敗するときは失敗するけれどもそのときは別の方法を考える,というような話が,政治家としては新鮮な感じがします。直前に,宮沢喜一竹下登の話を読んでいたからかもしれませんが,このあたりで政治家のスタイルに変化が出てくるということがあるのかもしれません。
聞き書 武村正義回顧録

聞き書 武村正義回顧録

村上祐介先生からは,博士論文をもとにしたご著書『教育行政の政治学教育委員会制度の改革と実態に関する実証的研究』を頂きました。村上先生とはちょうど同時期に博士の学位をとって,一緒に学位記授与式にも出ておりましたが,出版の時期もほぼ同時期,ということになりました。その内容は,人事データや首長へのサーベイ調査を用いて,教育委員会の実態を明らかにする,というものであり,しばしば観念的に議論される教育の「縦割り行政」のようなものについて,実証分析のメスを入れる試みになっています。地方分権の議論でも,教育委員会の役割やその必置規制について議論されることが多いわけですが,その議論の重要な手がかりになる研究かと思います。北山俊哉先生からは,『福祉国家の制度発展と地方政府−国民健康保険政治学』を頂きました。最近研究をされていた,歴史的制度論による国民健康保険の制度分析をまとめられたものです。よく考えたら,「歴史的制度論」に依拠して日本政治を分析するんだ,という試みは,理論についての論文はかなり多く,また短い論文ではたまに見られるのですが,本,特に単著は意外と少ないのですよね。*1国民健康保険をはじめとする医療保険制度の分析については,僕自身も関心をもって研究しようと考えていたのですが,アプローチはやや違うにしても制度変化を見るということは非常に似ているところがありますので,勉強させていただきながら自分の研究をもう一度考えなおさなくてはいけないな,と思うところです。
福祉国家の制度発展と地方政府 --国民健康保険の政治学 (関西学院大学研究叢書)

福祉国家の制度発展と地方政府 --国民健康保険の政治学 (関西学院大学研究叢書)

さいごに,市川喜崇先生から,『公的ガバナンスの動態研究―政府の作動様式の変容』を頂きました。僕自身も以前に「ガバナンス」について分析しようと考えた時期があり,論文書いたりしてますが,最近は「ガバナンス」の理論研究について触れる機会がほとんどなく,勉強不足ではありますが,改めて関連する研究を調べる機会にさせて頂ければと思います。また,市川先生ご自身が執筆されているのは日本の都道府県の性格と機能についての議論ですが,この中では都道府県の領域についての議論も含まれていて,いま議論されている「大阪都構想」を考える上でも参照し,ご紹介できればと思うところです。しかし,僕自身の本は出版から一週間たっても,アマゾンの在庫切れは解消されず…そんなに出る本でもないはずなのですが,もしお待ちの方がいらっしゃるようでしたら,申し訳ありませんがもう少しだけお待ちください。

*1:…と思っていたら,ちょうど来週に近刊で,歴史的制度論に依拠して防衛政策を分析する,柴田晃芳[2011]『冷戦後日本の防衛政策』北海道大学出版会,という本がでるそうです。これからモノグラフも増えてくるのかもしれません。

冷戦後日本の防衛政策?日米同盟深化の起源

冷戦後日本の防衛政策?日米同盟深化の起源