分権と自由主義

最近はいただいたものの記録だけで精一杯,という感じですが,この間紹介しきれなかったものをまとめるかたちで。無理やり共通性を見出すのはあんまり良くないかもしれませんが,全て個人/小規模な範囲での自己決定について論じているように思います。小さいユニットに分かれて,それぞれが完結しているようなものが多い社会では,「統合」が難しくなるところがあるように思いますが*1,しかし方向性としては社会をなるべく小さなユニットに分けて自己決定を目指すという感じがあるように思えます。近頃は「民主主義の過剰/赤字」が論じられることは少なくないですが,実は「自由主義の過剰/赤字」もあるのかもしれません。この辺は『代議制民主主義』っぽい話のような気もします。
さて,都留文科大学高橋洋先生からは,『エネルギー転換をどう進めるか』をいただいておりました。高橋さんは,11月の「行政事業レビュー」にも登場されるなど,電力自由化改革の分野で引き続きご活躍ですが,本書では,イギリス・ドイツ などでの発送電分離をはじめとした自由化への動きが分かりやすくまとめられています。実は僕も,最近大阪で,電力事業ではないのですが下水道事業の公営企業化などにかかわる仕事がいくつかありまして,同様の構造になっているところと違うところがあると感じつつ,興味深く読ませていただいたところです。上下分離や地域間のヤードスティック競争など色々ありますが,電力自由化は進んでいる分野なので,他の事業を考える時にも非常に参考になりそうです。

京都大学のヒジノ・ケン先生からは,『日本のローカル・デモクラシー』を頂きました。日本に来る前にケンブリッジで書かれた博士論文をもとにしたもので(そしてその後大阪市立大学の僕のところにいらっしゃいました),日本の地方分権の歴史とそれが「ローカル・デモクラシー」の観点からどのように評価できるかを描いたものです。もともとジャーナリスト出身ということもあって,本書を書かれた時の問題意識としては,分権改革をしているのに地方自治体の民主化が進んでいないという実態を論じられているように思います。最後の方は日本にこられてからの制度論的な研究も加えられていて(Party Politicsなんかにも書かれています),その変遷を見るのも興味深いように思います。
日本のローカルデモクラシー

日本のローカルデモクラシー

大阪市立大学の松永桂子先生からは『ローカル志向の時代』を頂きました。(「東京」ではなく)地域に根ざした生活や仕事を進めている人々がどういうことを考えているのか,何を強みとしているのか,といったことを具体的な個人や事例を紹介しつつまとめられています。松永先生とはいくつかの審議会でご一緒していて,いつも豊富な事例をもとに説得的なお話をされるのをお聞きしていたのですが,本書ではそのような内容がより丁寧に整理されていて勉強になりました。僕は現実の実例について知ることがすごく少ないですが,自分の専門に惹きつけると,どうやったら本書で書かれているような生活や仕事がうまく制度化できるんだろうか,ということを考えます。とりわけ,地域での経済を回していくためには,地元で再投資が可能になるようなしくみが必要になるとは思われるものの,それはどんなしくみだろうか,ということをやはり考えなくてはいけないんだなあ,と改めて思うところです。
ローカル志向の時代 働き方、産業、経済を考えるヒント (光文社新書)

ローカル志向の時代 働き方、産業、経済を考えるヒント (光文社新書)

船橋洋一先生からは『湛山読本』を頂きました。ジャーナリストであり政治家であった石橋湛山の論考を船橋先生が70篇選んで,解説を書いていくというスタイルです。著名なジャーナリストであって最近は「日本再建イニシアティブ」などの活動もされている船橋先生が石橋湛山を読んでいくのを見るのは,読み方も含めて非常に興味深いと思います。いろいろハッとすることが書かれていたりしますが,例えば自主独立と自由貿易を論じた湛山の論考を踏まえて書かれている次の一節など。

自由主義者が心がけなければならないことは,その正論が一部の強者の「一人勝ち」をもたらすのではなく,「みんなが勝者となる」の論理とストーリーを説得的に語ることである。(p.35)

*1:手前味噌ですが,『大阪−大都市は国家を超えるか』ではそれを「納税者の論理」として論じました。