戦後史

いつの間にか8月も終わりということで、夏休みが始まってたのかも良くわからない感じでしたが、中旬頃は少し休みらしい時期もあったような気がします。旅行に行っても台風に直撃されたりしたわけですが、それもまた良い思い出ということで…。

その中旬の台風被害も含め、日本全国で降水量が増えて洪水の問題が大きくなっているわけですが、洪水被害を都市化と関連付けて戦後という期間で検討する研究を、愛国学園大学の梶原健嗣先生から頂きました。どうもありがとうございます。私自身は河川管理そのものについて十分な知見があるわけではなく、自分の関心がある住宅政策の観点から読ませて頂く感じとなりましたが、特に第1章・第2章の都市化とともに水害の規模や性質が変わってきたという議論は、本当にその通りだと感じます。住宅を郊外に広げていく際には、もともと人がそれほど住んでいなかった地域を開発するわけで、災害リスクは大きくなる可能性が出てきます((近年では山梨学院の秦先生など,新規の住宅開発地域が洪水リスクにさらされる傾向にあることを計量的に示すものも出てます)。本書では、都市化の初期からそのような傾向が続いていることが事例から明瞭に示されていて大変勉強になりました。続く3章では,近年の水害について,地下水害を中心に検討されていきます。1章・2章で検討されてきた、宅地化に伴う水害リスクの問題は依然として拡大しているようにも感じます。中古住宅市場が弱く、新築住宅を郊外に立てるということが続く中では、比較的便利な地域においてこれまで開発されてこなかった地域――具体的には低湿地帯だと思いますが――での宅地化が新たに水害を招くような感じもあります。都市の中心部での水害というと、近年の武蔵小杉の事例などは恰好の事例として考えることができるものなのかもしれません。

特に、隣接分野ながら不勉強で詳しく知らなかったのですが、大東水害についての検討は非常に興味深いと感じました。大阪府大東市で起きた水害で、住民側が地方自治体の治水の責任を追及して訴訟するもので、地裁・高裁と住民側に有利で政府の責任を認める判決が出るものの、最終的に最高裁が止めてしまい、それが新たな流れを作るという感じになっていきます。この手の最高裁が止める話は、最近話題になった大阪空港の訴訟でもそうですが、人権、特に居住の権利を考えるときには割と出てくるような気がします。この件の背景には立ち退きを進めるのが難しかったという住宅政策の文脈も入っているようにも感じましたが。

東京大学の境家史郎先生からは、『戦後日本政治史』をいただきました。ありがとうございます。戦後からの通史を書くのは本当に大変で、そういう通史といえば北岡先生の『自民党』でしょうが、ここからもすでに30年くらい経っていて、そういう長い期間を新書というコンパクトな媒体にまとめるのはすごいことです。必要な情報が丁寧に整理されていて、まさに戦後の日本政治について理解するためにはまず読む文献になるだろうと感じました。

歴史をコンパクトにまとめるのも大変なところですが、本書の読みどころはやはり境家さんの「ネオ55年体制」論だと思います。もともとの保革イデオロギー対立が、1990年代前後あたりに改革をめぐる対立軸というものに変わっていき、しかし2010年代にまたイデオロギー対立が復活して憲法問題や防衛問題が主要な争点になってくる、という見立てです。右傾化する自民党に対して、野党側は改革保守と伝統的な対決型野党の2ブロック化し、自民党の側が「政権担当能力」を持つというイメージを独占する、と。本書の議論では、(選挙制度にかかわらず)このような構図に落ち着くのは、1950年代に憲法9条と現実の防衛政策の整合性を問う構造が日本政治にビルトインされているからだ、という主張につながっていきます。現在の日本政治を考えるうえで最も重要な主張のひとつであり、本書が通史以上のものを示すところになっていると思います。

もう一冊、日本ではなくドイツの戦後史ですが、著者の板橋拓己先生と鈴木均先生から、『現代ドイツ政治外交史』をいただきました。ありがとうございます。本書では、ドイツの各政権に焦点をあて(西ドイツ中心ですが東ドイツを扱った6章もあります)、そのたびごとに取り組んだ課題や首相のリーダーシップ、政党政治の展開を軸に戦後史を描いていきます。私自身はドイツの研究をするわけではなく全くの門外漢ではあるのですが、鈴木先生が執筆されているシュレーダー時代のハルツ改革は、大きな社会保障改革としてしばしば取り上げられているもののその全体像についてはいまいち理解できていなかったところ、文脈も含めてコンパクトにまとめられていて勉強になりました。