第78回会合(2009/3/25)

もはや二か月前になった78回会合。いやこの回が3時間で長くてなかなか進まなかったということで。内容としては,まず新潟県の泉田知事から直轄事業負担金についてのヒアリング,それから政府の出した工程表についての意見交換,続いては厚労省文科省から第一次勧告についてのフォローアップ,最後に工程表の話をもう少し,というもりだくさんな内容になってます。

泉田知事ヒアリング

まずは知事のヒアリングということですが,「いきなり増えた負担金を払わない」と表明して,この問題が焦点となったきっかけを作ったともいえる泉田知事の意見陳述です。その内容としては要するに,直轄事業負担金という地方から見るといきなり裁量もなく決められる支出が,県の財政を圧迫していて他の支出を削らざるを得ない,直轄事業と補助事業の考え方を整理して,国家的なプロジェクトは国でやるべきではないか,というものです。なおこの中では,最近の北陸新幹線が新潟に駅を作らないということへの不満が大きいらしく,新幹線に対しても負担をするのに受益(=停車駅)がないというのは,受益と負担の観点からおかしいではないか,という主張が強くなされています*1。まあそうは言ってもその負担の一部は交付税が入ってるはずで,しかしそれが足りないという問題もあり,受益と負担と言い出すと相当ややこしい話になるように思いますが。
中心的な論点は,これまで知事会などでもこの問題を取り上げていたものの,国からの報復という懸念があってやや及び腰になっている部分があったということや,それもあって情報公開についても強く国に求めることができなかった,というお話。委員からは,それでは説明責任を果たせないではないか,なぜ強く求めてこなかったのだ,という厳しい意見も出ますが,その辺については「昔からそうだった」とか「文化」というやや微妙な答えになってます。まあお互いさま的なところもあったのでしょうし,実際交付税である程度きちんと負担されていれば,そもそも考える必要がなかったということなのかもしれません。他の重要な議論としては,分権委の猪瀬委員と露木委員が,直轄事業と補助事業の考え方の整理をするだけではなくて,直轄事業自体を圧縮すべきであるとして,泉田知事も賛成だということを述べています。しかし全体としては,この(1)直轄事業自体を減らす(それによって負担金も減る),という論点と(2)直轄事業と補助事業の考え方を整理する,という論点は重なり合うところとずれるところがあるので,聞いていてどの程度コンセンサスがとれている話なのかはややわかりませんでしたが。

工程表について

これははじめに事務局の小高次長からの説明が。前日(3/24)夕方に決定されて,総理・総務大臣・委員長などからコメントがあった旨報告があります。しかしこの工程表に対して委員からは強い批判が。その内容は,(1)人員削減の目標として掲げられていた35000人が入っていない,(2)出先機関の統廃合の方向性が明示的でない,という二点。まあ二次勧告の肝心な部分として扱われていたので,委員の立場から批判はもっともかと。猪瀬委員は「甚だ不十分」であることを表明すべきだとしてますし,露木委員も「辞表を出すべきだった」とかなり強い表現。それに対して丹羽委員長は一貫して「工程表では『第二次勧告の精神』を尊重する」ことになっているとして,具体的な内容は大綱に入る,後退していないということを強調するかたちです。前回(77回)の冒頭では,丹羽委員長が35000を強調するという感じだったので,やや立場が逆という感じもしますが。
事務局の説明によれば,事務局(というか地方分権改革室)が落としたというよりも,現在の経済情勢など(→特にハローワーク)を背景として省庁間の調整が全くつかなかった感じ。自主規制ではないか,というコメントも出てましたが,まあ両者を識別することはかなり難しいでしょう。いずれにせよ,この手の話はトップである総理の積極的なイニシアティブがないと難しいのではないかと*2

厚労省文科省ヒアリング

厚労省文科省ヒアリングですが,基本的には厚労省で,話をしているのは村木厚子雇用均等・児童家庭局長。ヒアリングの内容は一応「保育所の入所方式のみなおし」「保育所の最低基準について」「認定こども園について」「放課後子どもプランについて」ということですが,大きく分けて三つくらいのテーマで議論されてます。
まず保育所の入所方式ですが,現在まではいわゆる「行政との契約方式」というやつで,入所希望者が行政(市町村)と契約して,行政の側が空いているところを中心に保育所に保育サービスを委託するという形式になっています。問題になっていたのは,このときの「契約」の要件として「保育に欠ける」児童でなくてはいけない,つまり,行政の側が「保育に欠ける」かどうかを判断するということだったわけです。一次勧告では,この契約方式を見直すほか,「保育に欠ける」という要件について見直すことを求めていました。これに対する厚労省の回答としては,社会保障審議会・少子化対策特別部会の議論をもとに,「行政との契約方式」を見直して入所者(保護者)と保育所との直接契約を視野に入れて検討するほか,「保育に欠ける」要件を見直す,と。そうするとこれまではなかなか保育サービスを受けられなかった層(専業主婦の他,土日・早朝・夜間のサービス)へのニーズが高まって財源が必要になるが,これについては「中期プログラム」である程度議論されているのではないか,と。
これ自体ある程度確認などの議論があってもいいように思いますが,実はほとんど議論がされずに,はじめから次の「最低基準について」の話に移ってしまいます。例の「地方にできることは地方で」という話なわけですが,委員の関心は「国が標準を決めて具体的には地方が裁量をもつ」というのはどうかという点に集中します。厚労省では,(1)国が施設の最低基準を決める,(2)最低基準を満たしたところに公費を入れる,という方式を主張していて,分権委の委員側は(1)国が施設の標準を決める,(2)地方が(各地域ごとの)具体的な基準を決める,(3)地方が基準を満たしたところにお金を出す,という方式を想定しているようです。まあ要は露木委員が指摘するように「平行線」なわけですが*3
厚労省の論点としては,「最低基準の決め方」なわけで,研究者を読んで科学的にやった,というのですが,それはこの資料の6−7ページのような話で,細かく言えば「布団一枚の大きさ+布団をまたがずに人が通れる大きさ」とかそういう基準を守るべきだ,という話をするわけです。話を聞きながら強烈に思ったのは,この対立は国−地方の対立だけではなくて事前−事後の対立なのだなぁ,と。厚労省の主張では「事前にそれだけスペースを取っていたら支障は起きないはず」,それに対する主張は,「実際に支障が起きたかどうか問題で起きなければスペースが小さくてもいい」と。まあいわば,狭いところと広いところである程度段階を取って,どのあたりから支障が増えるのか,というある種の実験が必要な気がしますが,「事前にこれだけ取って安心」というやり方だと(しかもその「安心」の根拠がいまいちよくわからない…),何か起きた時に「想定の範囲外だ」といういつものお答にしかならないような気もしますが。
興味深い論点としては,厚労省は「相対的に広いところで保育を受ける子ども」と「相対的に狭いところで保育を受ける子ども」に格差があってはいけない,十分な広さを提供しないといけない,というロジックなわけですが,それに対して猪瀬委員が,「保育サービスを受けれる子ども」と「保育サービスを受けられない子ども(待機児童)」に格差があり,そちらの方が問題だ,と指摘したのはかなり納得できるものではないかと。厚労省の答えは,「質が確保できるものを用意する」ということでそのための財源投入も言っていますが,それはこれまでずっとできなかったことでもあるので…。厚労省的にはやりたければ地方が上乗せでやればいい,という話になって実は東京は認証保育所でやってる,ということなわけですが,それを考えると,現行の国の最低基準−上乗せと比べて,地方が(従来の上乗せ分も含めて)一括して資源配分するのがどのくらいいいのか,というのを議論する必要があるのかな,と。あと今回,「認可外でも最低基準に近いものは,最低基準に到達できるように補助金を出す」というやや従来と違うことを言っていて,よくわからなかったのですが,そこの議論はあまりありませんでした。
認定こども園と放課後児童プランでは,委員の側から厚労省文科省の担当部局の一本化の話が強く出されていました。委員長からは,両省が省令出して縛るんだから現場は困るでしょうという指摘が出されていて,担当者がある程度それを認めているのがなかなか印象的でしたが…。ヒアリングへの回答では,基本的に運用を改善するということなわけですが,多くの委員はその回答に不満で,厚労省文科省の担当部局の一本化に加えて内閣府少子化担当のところで見ればどうだ,という意見も。ここは完全に平行線なので,あんまり議論にもならずに終わります。しかし直近の諮問会議で総理からの指示が出されたという「厚労省分割案」で幼保一元化を中心に突然この話が急浮上しているようで,「国民生活省」構想まで出ているようです。ずっと見ていて,消費者庁特定財源・直轄事業負担金…など,分権委は割とこの手の急に出てくるテーマに振り回されがちな感じはしますが,今回はどうなるか,というところでしょうか。
最後は工程表についてもう一度。特に猪瀬委員・小早川委員から,工程表の一部に国の権限を強調しているところがあるという指摘が出ています。正直なところ事務局の答弁がよく理解できなかったところもありますが,まあこのように調整が必要な文章というのはどうしてもそういうところが出てくるのではないかと…。ただ,委員の中で,第二次勧告で強調した35000人の問題や出先機関の統廃合については,工程表が出た上できちんと確認すべきだ,という意見が強く,次の日(3/26)の委員会で第二次勧告の趣旨・精神を確認する文書を出す,ということになったようです。

*1:ただし,直轄事業負担金と新幹線負担金は別建て。

*2:清水氏の近刊では,竹中平蔵氏をはじめとするいわゆる「上げ潮派」がところどころで地方分権改革を強調しているのが興味深かった。このブログではあんまり意識してないけど,政府内というより与党内での路線対立的な問題もあるのかもしれない。であれば,なおさらさもありなん,ということなのでしょうが。

首相の蹉跌―ポスト小泉 権力の黄昏

首相の蹉跌―ポスト小泉 権力の黄昏

*3:閣議決定に等しい地方分権改革推進本部決定で国の最低基準を標準にすると言っているのに,なぜその方向にならないんだ,という西尾代理からの厳しいコメントも。