たまたまテレビでやっていた「かんさい熱視線」が非常に興味深い内容だった。なんかビデオとかないだろうか。これってNHKアーカイブスが使えたりするのだろうか。
疑惑の手術〜追跡・病院の貧困ビジネス〜
奈良県大和郡山市の山本病院を舞台にした診療報酬詐欺事件。元ホームレスなど生活保護の患者を積極的に集め不正な診療報酬請求に利用していた疑いが高まっている。NHKは山本病院の元医師や元患者などを取材。「他に行き場がない」「家族がいない」といった弱みにつけ込み、生活保護の患者に必要のない検査や手術を行っていた実態も浮かび上がってきた。山本病院で何が行われていたのか。新たな貧困ビジネスを追跡する。
少し前に問題になった山本病院の話をNHKが独自取材した内容。実は理事長が逮捕される前から中に入って、結構厳しい内容で聞き取りをしていたらしい。もっとも、10年前に病院ができてから内部告発も絶えなかったということだが。番組では、逮捕のきっかけとなった診療報酬の不正請求の話から始まって、心臓カテーテル手術での業者との癒着が疑われていること、それから生活保護の患者を大阪府から転院させ、またその患者を何度も複数の病院で転院させていることをまとめていた。この転院は、病院にとって長期入院の診療報酬が低下するために見かけ上新規の入院として扱うことが必要になる、という話であって、印南[2009]で議論されている社会的入院の発生メカニズムと通じるものがある。
「社会的入院」の研究―高齢者医療最大の病理にいかに対処すべきか
- 作者: 印南一路
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2009/03/01
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もうひとつは現状で「医師不足」が声高に論じられている中で、こういった病院が医師不足で閉鎖したという話にはなっていないところ。そのあたりは(もちろん情報提供者との関係というのもあるのだろうけど)番組ではほとんど話題になっていなくて、どのような医師がこういった病院に所属しているのかはいまいちわからないままだった。それこそ医師不足といわれている中なので、ほかで引く手がないわけではないはずだと思うんだけど、それでもこういった病院が医師を集めるというのはやはりそれなりの理由がある、ということなんだろう。ただこれは番組でやってないので何ともいえないが。
大きな問題としては、社会保険との関係でこの問題をどう扱うかということになる。今回診療報酬の不正請求というかたちで問題になったのは、患者の方がどのような医療を受けているかモニタリングすることができておらず、また国民健康保険やその他の健康保険で出てくるはずの審査支払機関(国民健康保険中央会と社会保険診療報酬支払基金)が生活保護の場合には出てこないのできちんとチェックができていないから、ということになる。このチェック問題のひとつの解決策としては、生活扶助として健康保険の保険料を出して、診療報酬を普通に保険で請求して、一部負担金をまた生活扶助で出すというかたちになると思うが。民主党の直接支払い路線ともそれなりに平仄があってるわけだし。現在の医療扶助の制度だと、基本的には保険に乗っかってないから半ば自由診療(たぶん価格は保険の価格を使ってると思うけど…)だし、それをチェックしないといけないことになってる自治体(特に小規模な市)としては結構辛いことになっているだろう。この辺は、この分野の重要な先行研究である阿部・國枝・鈴木・林[2008]を読み直しつつもうちょっとお勉強しなくては。
- 作者: 阿部彩,國枝繁樹,鈴木亘,林正義
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2008/03/01
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(11月4日追記)この問題についてはクローズアップ現代でもやってたらしい。見れなかったけどまあ30分番組なので,「かんさい熱視線」の方が情報量としては豊富だったのかもしれないが。で,そのクローズアップ現代に出ていた学習院大学の鈴木亘先生がこの問題についてブログでクローズアップ現代「貧困狙う“闇の病院”」で言い足りなかったことというエントリを上げられている。このテーマに長く取り組まれている鈴木先生はこの問題についても具体的にご存知のようで,この問題の背景についてより詳細に書かれている他,対応策についても議論されている(方向性はこのエントリとほぼ同じだと思うのですが)。ご関心のある方はぜひ読んでいただきたいところ。