生活保護*透析

注)このエントリは,訳わからないなりに自分の整理として書いています。だから全面的に信用するのは勘弁して下さい。こういうエントリを書くのはひとつ前のエントリと同様に,制度設計を考えない「分権」が引き起こしてしまう典型的な問題だと思うからです。

実はこのブログで一番アクセスが多いのはこの記事でして,たぶんなんだかよくわからない話を書いてしまっているのでgoogleに引っかかる,ということなのですが。これに関して,追加でちょっとだけお話が出てました。厚生労働省関係のWAMNETの資料によると,以下の通りです。

医療扶助における他法優先の徹底(人工透析費用)
更生医療の対象である人工透析医療については、従来、予算上の理由がある場合には医療扶助により給付しても差し支えないこととしていたが、今般、この取扱いを廃止し、原則どおり更生医療の給付を優先することとしているので、各実施機関に対し、医療扶助により人工透析医療を受けている者の把握及び該当者に対する更生医療の申請指導などの取組を行うよう指導をお願いしたい。

うむむ。要するにご指摘いただいて,何でだろう?という疑問の原因だった「他法優先の原則」の存在が,実は徹底されていなかった,というなかなかすさまじいオチだったわけで。なお,データがある更生医療の時代について,どのくらいの規模でお金がかかっているかについては,次のようになります。

支払総数 総額 公費負担額 社会保険負担額 老人保健負担額 自己負担額
平成16年度 200,585 580,934,492 20,663,118 314,631,202 241,757,488 3,882,684
視覚障害 87 70,747 7,536 52,495 10,124 592
聴覚・平衡機能障害 197 407,274 26,232 288,147 85,530 7,365
音声・言語・そしゃく機能障害 387 207,209 20,687 158,351 15,415 12,756
肢体不自由 20,597 33,762,116 2,336,725 22,116,650 8,866,635 442,106
内部障害 178,690 545,063,518 18,152,787 291,720,517 231,776,802 3,413,412
訪問介護 639 1,423,628 119,151 295,042 1,002,982 6,453

出典:厚生統計協会[2006]『厚生の指標臨時増刊 国民の福祉の動向』, p. 79
(単位千円,右詰めの仕方がわからないのですみません)
透析はいうまでもなく「内部障害」なわけですが,この中でどのくらいの人が透析を受けているのかを示すデータはちょっと見当たりません。しかしまあ何というか,出典の中にも「内部障害の給付決定件数と医療費が著しく高比率となっているが,これは心臓手術費と腎臓機能障害者の人工透析療法にかかる医療費を給付対象としているところが大きい」とかいてあるわけですから,ほとんどかどうか走りませんが,まあ多いんでしょう。で,これが自立支援医療の導入によってどう変わったかと言うと,この資料によると,まあ制度間の違いをやめて,「医療費と所得の双方に着目した負担」の仕組みに統合することになった,と。ただし,ここで問題になっている透析については,「継続的に相当額の医療費負担が発生する」と考えられるので,月あたりの自己負担には上限が引っ付いてくるので,その分を公費として出していると考えられます。
つまり,整理すると,

  1. まず,社会保険負担(たぶん多くは国民健康保険)と老人保健負担で大部分を支出
  2. それでも自己負担は非常に多くなるので,一定限度にとどめ,残りを公費負担(資料によると,重度かつ継続の場合,上限は20000円)

1.の上限は,高額療養費の現在の制度によると,所得によって上限は違ってきますが,高齢者の一番安い人で15000円,一般医療対象者でかつ一定所得額以上の人(どんな人になるんだろうか?)は,一番高ければまあ100000円くらいになってくるのではないかと思われます(透析は基本的に継続なので)。たぶんこの差額を公費が埋めてくれることになってくる,と。
ここで考えなくてはいけないのは,

ということなので,地方はこの時点で,被保護者の透析のうち,25%程度を負担することになります。
問題は,被保護者について透析を自立支援に回すということなので,

  • 社会保険が利かない,かつ,自己負担は0円(ここをもう一度参照)

つまり,地方のほうで丸抱えすることになる,と。その結果,被保護者一人当たりに係る費用は4倍になります。総額については,最初の資料によると,約180億円ということなので,なんと,平成16年度の自立支援医療(当時は更生医療)の内部障害の公費負担とほぼ同額をまるまる地方に負担させる,というなかなかすさまじい話になります。それ考えると,地方のインセンティブを考えると,少なくとも社会保険に入っていない人の人工透析を認めるのはかなり厳しいのではないか,と思うのですが。少なくとも他方優先,という前に「医療扶助を受ける人は社会保険に入ってない」という状況を何とかすべきではないかと思うわけです。*1

まあだいたい自立支援法自体のロジックがなんだかなぁ,というところからスタートするんじゃないかと思うんですけどね。理念は高邁だとは思うのですが。
厚生労働省:障害者自立支援法について(資料簡略版)
資料の中身はなんだかよくわかりませんが,関係ありそうなところだけみると,「サービス水準に地域間格差」があることは一応認識されていて,それを「支えあい,サービス量を増やす」ことでなんとかカバーしていくんだ,という問題意識が見えます。一応財源を見ると…「安定的な財源を確保」の中に,「国の費用負担の責任を強化」という項目があったりします。まあそれはそれとして,最大の疑問は,「地域間格差」があことわかってるのに,「分権進行中」の市町村に一元化することなんですが…。財政力に格差がある主体に権限を一元化したら地域間格差がなくなる方向に行く,というロジックが僕には全く理解できないのですがどうなんでしょうか。

*1:まあそもそも,ここで前提として扱われている国民健康保険が市町村が保険者になっていると言うこと自体がかなり無茶な話なわけで。いくら公費が入ってるからといって,特に小規模な保険者の中に人工透析の患者が入ってくるとパンクする,というのはしばしば言われてるわけですから。