ルポと研究

この一ヶ月は結局いわゆる"Life Event"ってやつで何だかんだと時間がなくてあまり研究も進まず。臨海副都心の話を書いてからは、依頼のあった雑文を一本書くことができたのみで、あとは継続調査を細々と、というくらいか。

で、時間が細切れがちだったので、あまりじっくり研究論文を読むこともできず、読んでいたのはやまけん氏からご教示いただいたルポが中心。

テロルの決算 (文春文庫)

テロルの決算 (文春文庫)

メディアの支配者 上

メディアの支配者 上

他にもいろいろあるとは思うけど、この二冊は確かに面白かった。『テロルの決算』を読むまでは沢木耕太郎が政治関係のネタでノンフィクションを書いていたのは、恥ずかしながら知らなかった。これは山口二矢の話、というより、本人が書いているように浅沼稲次郎の話なんだろう。ただ、山口二矢が「自立したテロリスト」かどうかというのにはまだ疑問の余地があるのでは、ということは少し思う。確かに大物に使われていないという意味では「自立」かもしれないが、「自立」しているテロリストにとって、相手は誰でもよいものなのだろうか。まあ「自立」したテロリストの標的がとして、誰でもよかったこと、あるいは庶民を「代表」している浅沼稲次郎が実際に刺殺されたことが、戦後の左翼陣営を象徴しているといえばそうかもしれない。…この本自体は、二人の「交錯」に焦点が当てられているものであり、それを描き出したノンフィクションとしては十分に面白いので、いいっちゃいいんだけど。
『メディアの支配者』は、いわずと知れた鹿内家の話。これは、鹿内信隆鹿内家と現在の富士テレヴィジョン執行部との闘いである上に、戦後日本の人物史としても非常に面白かった。経団連の植村甲午朗やいわゆる「財界四天王」の遍歴や人となりを知らない人間にとっては、鹿内信隆をめぐるさまざまな挿話とともに描かれる人間関係や人物像は非常に参考になる。瀬島龍三を書いた『沈黙のファイル』、なべつねを書いた『渡邊恒雄 メディアと権力』(あ、両方とも魚住本)、毎日新聞の『自民党−転換期の権力』なんかと読むと、ある戦後史が立体的に展開されるような感じがして非常に面白い。
1950年代・60年代という、政治史・政治学の端境期についての蓄積について、僕自身があまり知らない中で、ルポ・ノンフィクションというかたちで読めるのは非常に面白い。この時期についてのアカデミックな研究も少し見てみたいな、なんて思ったり。
沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

自民党―転換期の権力 (角川文庫)

自民党―転換期の権力 (角川文庫)

とはいえ、現在の様子をビビッドに描き出しているルポの面白さ、というのもあるわけで。最近読んだ『官邸主導』はひとつの到達点かも。そのあとに出た政治学者の議論や報告はみんなこの本に規定されている気がする(というといいすぎか?)。自民党(特に)政調会と官邸という二つの権力<双頭の鷲>が、政策決定過程においてどのように影響力を及ぼしており、また相互に影響しあっているかを、非常に理論的に議論している。現在、「諮問会議がアリーナに」なり、与党主導で歳入・歳出一体改革が行われることになった、ということも『官邸主導』の議論の延長線上にあるのだろう。もちろん、与謝野馨というアクターに引き付けられ過ぎる、という問題はあるものの、彼が現実にそのように政策決定過程をひきつける力を持つ以上やむをえないのかもしれない。政策決定において高度に専門的な知識(政策/政策過程に関する)が必要とされている中では、ポスト小泉よりもポスト竹中、あるいはポスト与謝野のほうが重要になってくるのかもしれない、と思わせるものがあった。

官邸主導―小泉純一郎の革命

官邸主導―小泉純一郎の革命

ちょっと悔しいのが、この本の「理論的ライバル」が、これまでの政治学者の研究業績ではなくて、西野・軽部の経済三部作(特に経済失政)であったことか。確かにこの本も理論的だけど。政治ジャーナリストを唸らせる、という分析はとても難しいとは思うけどね…新聞を読む限り、特定の、高度な政策についての専門知識がいる分野については、結構めちゃくちゃなことを書く人が多い一方で、政策決定過程についての情報では政治学者は政治ジャーナリストにほとんどかなわない。情報量が違うから、編み出す仮説や説明についても違ってくるのは事実だろう。しかし、(日本の)政治学者の近年の研究は、個別の政策分野の議論については経済学者の圧迫を受けて、政策決定過程への力点を強くしていることを考えると、一部では政策決定者との回転ドアよりも、政治ジャーナリストの回転ドアを作ることを考える必要もあったりして。
検証経済失政―誰が、何を、なぜ間違えたか

検証経済失政―誰が、何を、なぜ間違えたか

しかし、また一ヶ月ほどほったらかしにしてしまった。毎日毎日日記が書ける人には本当に恐れ入る(ホントに)。ていうかこういう風に記録をつけていこうとしても、いつもいつもぜんぜん続かない。考えたこととかもうちょっと記録しておきたいんだけど…。まあたいしたこと考えてないから書くことがない、ってだけか。