しばらく大阪に居たり,東京−大阪の移動があったりだったので,新書をよく読む。野中郁次郎『アメリカ海兵隊』が,しばらく前からAmazonのお勧めに良く出ていたので,Bookoffで100円で売ってたときに購入。
話としては,アメリカ海兵隊という組織がどのように進化を遂げてきたかを歴史的に説明して,最後にそれを組織論的に分析してみましょう,というお話。野中先生の戦史のところは,『失敗の本質』『戦略の本質』でもそうだったけど,ディテールが豊富なのでつい読んでしまう。
- 作者: 野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1995/11/25
- メディア: 新書
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ブラゴー(1980)は,一般に市場での競争による淘汰を受けない非営利の公的組織に革新を促す刺激は,その生存に対する危機である,といっている。そのような危機ないし脅威は,①予算の削減ないし据え置き,②他の公的組織による当該組織の機能の吸収,③当該組織の廃止,である。このような存亡の危機は,公的組織を革新へと駆り立てる。したがって公的組織の革新へのモチベーションは存立本能に近いものともいえる。(p.177)
という議論を下敷きとして,海兵隊が新兵のときからの訓練によって自らの「中核価値」「中核技能」をたたきこまれ,その存在価値が確立・堅持されているからこそ,海兵隊の使命や機能などの機能的価値における自己革新は可能となり,かつ成功してきた,と論じる(特にp.195)。
組織のアイデンティティを体化した成員によって構成される組織が,危機に応じて自己革新を行っていく,という議論は美しい(うーん。身近で聞いたことのある話…)。しかし,本の最後のほうでも述べられているように,過去の成功体験への過剰適応の危険はあるわけで(『失敗の本質』)。本書では,暗黙知から形式知への転換を起こすメカニズムの存在が絶えざる自己革新を生み出すことになり,常に組織の存亡の危機にさらされていた海兵隊では「自己革新はいわば組織の生存本能の一部になってしまったようである」という話になっているのですが,でもこれって従属変数として,成功した組織しか見てないわけだし…という問題が。
あるいは,こういう議論と組織の存続の危機において,責任回避が優先されるという議論(上川龍之進[2005]『経済政策の政治学』)とはどんな関係にあるんだろうか。関係ないのかなぁ。大蔵省も非営利組織で組織のアイデンティティが成員に体化されているような気はするが。
組織に対するコミットメントというのは非常に重要なもので,それが多くの成功の要因となって言ったという主張はまあそうだろうし,わかるのですが,やっぱり自分自身がフラッとしていて(殆ど無所属で),相方が異様にコミットメントを求められる立場にいるのを観察していると,無理やりコミットメントだけを押し出す組織っていうのはそれはそれでやっぱりどうかなと思わないわけでもないですな。もちろんコミットメントが異常に強くても失敗している組織というのはたくさんあるはずなわけで,それを考えるとこういう分野の研究でも,科学的方法論を意識した,というか,従属変数からケースを見るだけではないリサーチデザインの研究があったらぜひ読んでみたいな,と。まあそういうデータの収集はなかなか難しいのだと思うけど。
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
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- 作者: 野中郁次郎,戸部良一,鎌田伸一,寺本義也,杉之尾宜生,村井友秀
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2005/08/06
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経済政策の政治学―90年代経済危機をもたらした「制度配置」の解明
- 作者: 上川龍之進
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2005/09
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