実は財政学会で一番気になった話。革新官僚のような某氏の報告で特に取り上げられていたのだけれども,恥ずかしいことにあんまり気にしていなかった(まさに研究対象に近いのに!)。言い訳をすると,政権交代のときにそんなに重要(そうな)ことをやるわけではないだろう,と思っていたのですが。しかし境目でドタバタと重要法案を出すのはやっぱりルール違反じゃないかなあ。
大まかな内容としては以下の通り。
9月28日時事通信の記事より
政府は28日、今後の地方分権に向けた基本理念・方針や検討の枠組みを打ち出す新地方分権推進法案を、開会中の臨時国会へ提出する方針を固めた。「骨太方針2006」に基づき、国と地方の役割分担を見直していくためには、推進体制を早期に整える必要があると判断した。
(中略)
新推進法の制定は、全国知事会など地方側が強く求めており、安倍政権発足に当たっての自民、公明両党の連立政権合意にも盛り込まれている。
重要なポイントを繰り返すと,
- 骨太2006に基づいて作られる法律であること
- 新一括法に向けた一里塚であるということ
実は,この記事にはこんな文章が入っている。
国と地方の役割分担の見直しを進めるとともに、国の関与・国庫補助負担金の廃止・縮小などを図る
ここでポイントがあるのはやはり後者だろう。「役割分担の見直し」だけからは「国の関与・国庫補助負担金の廃止・縮小」は必ずしも出てこない。また定率補助金の補助率引き下げをしそうな書きっぷりだけれども,「役割分担」を言うならば,国がやるべき部分についてはしっかりと責任を持つ,という発想になったほうがいいのではないだろうか。
でまあ具体的には何すんの?というと以下の通り。今臨時国会の最重要法案として,このようなかたちで提出されるらしい。
10月6日時事通信の記事より
分権改革推進法案は、国と地方の役割分担に関する具体的な見直し内容を盛り込んだ新地方分権一括法の制定に向け、その検討組織・手順などを定めるもの。同省は旧推進法の枠組みを基本的に踏襲し、3年間の時限立法とする方向で調整している。
基本的にこの法案は,竹中前総務大臣が中心となって提出を進めていたものであり,竹中氏は,「骨太方針で決定されており、小泉純一郎首相や私がいてもいなくても、(次の)内閣としてはその方針を引き継いでやっていくということに当然なる」との認識を示している(9月19日)。とはいえ,自民党総裁選挙においては,立候補した三氏ともに今臨時国会の提出は難しいだろうという意見を述べていたという。
9月15日 時事通信の記事より
自民党総裁選の3候補者は15日、新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)の公開討論会に参加し、今後の地方分権改革の枠組みなどを定めた新地方分権推進法案について、全候補が今秋の臨時国会への提出は困難との見解を示した。各候補は、同法案の臨時国会提出について「少し難しいかもしれない」(安倍晋三官房長官)、「いささか時間が足りないと思う」(谷垣禎一財務相)、「臨時国会までに(成案を)上げるのはちょっと無理がある」(麻生太郎外相)と語った。
ところが,総裁選挙が終わって,総理大臣が代わった瞬間に,地方分権推進法をやりましょうよ,ということになるらしい。これは政権交代直後の25日に交わされた自公連立政権合意にこのようなかたちで含まれている。
一、地方分権推進=都市と地方の格差是正のため、地方分権推進法を新たに制定するとともに、道州制実現に向けた制度設計を検討
(要旨から抜粋,ちなみに本文はこんな感じ)
格差是正と分権は同じなのか?あるいは,地域内格差は気にするけど地域間格差は気にならないのか?*1というツッコミをしたくて仕方ないわけではありますが,さしあたりそれは置いておいて,当面は,なぜこの法案が結局のところ今回の臨時国会に出されることになったのか,という疑問は考えなくてはいけないような気がします。
前の地方分権推進法のときには,やはり第三次行革審の(最終)答申というものが大きかったわけで。それに加えて1993年に衆参両院で「地方分権の推進を求める決議」がなされていた,というように,なんとなく地方分権を推進しないといけないんだ,という雰囲気があったらしい,と。それに対して,今回は「三位一体の改革」がそろそろ行き詰まり,分権って言ってもなぁ…みたいな雰囲気の中で,やはりある種の起爆剤として投下されたような雰囲気は強いのでしょう(前述の報告の内容による)。じゃあそれを可能にしたのは一体何なのか,というと,次のような話が考えられるのではないかと。
制度が規定する,という意味では一番初めの説は魅力的ですが,やはり総裁選の直前には三候補とも揃って骨太無視みたいなことを言ってるので,やはりこれはきついのではないかと。また,「格差」というところに公明党の影響力は感じるものの,公明党・幹事長ともに,このテーマを兎に角進めたいというモチベーションはあまり感じられない,ということからは,実はいまは選挙を踏まえて地方の「ご機嫌」を取らなくてはいけない季節なのかもしれない,という説を採りたいところです。一応,もう一つ,「竹中復活説」も考えたのですが,これはかなり陰謀説に近いので今回はとりあえず無視。
もし,地方の「ご機嫌」を取るためにはじめられた分権推進法であるとすれば,行く先は結構注意してみたほうがいいのかもしれない。というのは,公式の政治過程の中で地方が影響力を発揮したわけではなく,具体的なアジェンダの設定については,中央政府(官邸?)がイニシアティブを持ちうる状態である,と考えられるわけで。参議院選挙が終わって,具体的にメンバー決めて議論をはじめましょ,ということになると,もし選挙で自民党が大勝している場合には,地方が考えるのとまったく違うシナリオが進む可能性もある。*2
なので,とりあえずはメンバーの人事かな。前回の地方分権推進委員会の委員が,国会承認が必要な人事であったために,今回もそうなる可能性は高い。前回のメンバーは実はかなり地方よりのメンバー*3だったわけだが,今回のメンバーは経済学者が増える可能性が高い。特に処遇が問題となるのは,やはり竹中前総務相,あるいはそれに連なる系譜と目される研究者じゃないだろうか。もめるのを嫌がって,国会承認を外すと会議自体の正統性が比較的弱くなることが予想されると,かなり難しいところだろうなぁ。まあ総務省+地方があっさり竹中路線を切ってしまう可能性は低くないけども,そのときにどのような研究者を入れるのか,というのはかなり興味深い(入れなくなるかも(^^;))。いずれにせよ,少しフォローしなくては。