財審意見

この日(id:sunaharay:20061025)ちょっとだけ書いた話が,そろそろ出てくるかなぁ,と思っていたのですが,やっぱり出てきました。

 財政制度等審議会財務相の諮問機関)は2日、2007年度予算編成のあり方を示す意見書(建議)策定に向けて大詰めの作業に入った。07年度予算については、今後5年間の歳出構造改革の初年度と位置付け、徹底した歳出削減を図る方針を確認。その上で、地方交付税の総額を従来以上に抑制するほか、雇用保険失業給付の国庫負担の全廃などを財務省に求める。10日の財政制度分科会で原案を審議した上で21日に取りまとめ、尾身幸次財務相に提出する。
(中略)
 07年度予算編成では、地方の歳入不足を補うため、国が法律で定められた国税の一定割合(法定率)を財源に地方自治体に配分する地方交付税の抑制が焦点。06年度は法定分では埋め切れない地方の財源不足が約1兆4000億円あり、特例で国と地方が折半で負担している。
 建議では地方公務員の人件費などの抑制を求め、地方の歳出を大幅に圧縮。さらに税収増により交付税財源が機械的に拡大するため、財源不足を解消した上で、特例で法定率以下に交付税の総額を圧縮することを提言する。
11月2日 時事通信

まあ財政再建という文脈では出てくるだろう,という話でしょうか。ただ,若干「高めのボール球」(by大田経財相)を狙っているところもあるのかと。それは,特にこの部分。

06年度は法定分では埋め切れない地方の財源不足が約1兆4000億円あり、

これだと交付税約20兆に対してそれほど多くはないじゃないか,って話で法定率の引き下げがやや現実的な議論に見える。しかしながら,地方財政計画では,財源不足額は「通常収支の不足」が5兆7044億,「恒久的な減税影響額」が3兆376億ということで合計して8兆ちょっと,という見積もりになっていて,そんなの法定率引き下げどころじゃない,という議論になる。
この1兆4000億円,という数字がどこから出てきたか,ということを前後の文脈と数字から類推するに,「通常収支の不足」から既往法定分の一般会計加算(4443億)と財源対策債(1兆6500億),それから既往分の借り換えに使われる臨時財政対策債(2兆2043億)を抜いた額で,半分(7029億)ずつ国の一般会計と地方負担の臨財債で見ている部分,ということになるのだろう。
特に法定率の議論をするときにより重要なのは,「恒久的な減税影響額」だろう。これは,これまでの(特に90年代末の)恒久減税によって,地方税地方交付税が減った分の補填を受ける,というものであり,地方税(1兆8080億)についてはタバコ税の一部移譲(1142億),法人税の法定率引き上げ(4962億),特例交付金(7456億)と減税補填債(4520億)で賄われている。地方交付税分については,利払いを国の一般会計(686億)と地方負担の交付税特別会計借入(722億)で分け,残りを国と地方が折半するかたちで交付税特会が借り入れている(5444億×2)。
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060207_2_2.pdf
おそらく,財審の立場では,90年代の減税の影響による補填分については財源不足とみなさない,ということなんだろう。この補填は,以前の地方税交付税の「水準」を確保するという考え方によるもので,その分は地方固有の持分だという理解であるのに対して,財審の側としては単一国家内での交付金であるのだから,法定率は国税にリンクする,ということなんだろう。
もちろん,財源不足額を8兆と見込む地方の側からは受け容れることができる提案であるとは思えないのだけど,ひとつ問題は,記事にもあるように「自然増収」をどう考えるか,というところにあるような感じがする。*1増収分だけ財政需要が増える,というのは(増収とインフレが完全にリンクしていない限り)あまり説得力がない議論で,総額の水準が自然増収で確保されていればそれでいいんじゃないか,といわれると弱い気がする。簡素化,という立場からはあんまりいろんな財源対策の地方債を出すのも好ましくないし。まあ当面の論点はここになるんじゃないだろうか。
とはいえ,逆に言うと不況のときには法定率を上げるという対応を取らなかったじゃないか,という反論は成り立つ。まあまず余った分はこれまでの地方債を償還に使わないといけない,という事情もあるだろうし。やはり,本来であれば,不況のときに交付税の法定率で何とかやりくりしていればよかったんだろうけど,ちょうどそのときに日米構造協議なんかの影響で,いわゆる単独事業バブルが起きてしまったのが現状をややこしくしている元凶なんだろうな…。

*1:加えて,消費税を上げたときに法定率分の額が増える,ってところでももめるんじゃないだろうか。