第26回会合(2007/11/2)
中央省庁ヒアリングが終わり,知事会の麻生会長の意見陳述と,猪瀬委員が関心を持っていた限界集落の問題について,「水源の里条例」を作ってこの問題に取り組み始めた京都府綾部市の市長をはじめ,3人の市町村長を呼んでヒアリング。この条例についてはできたときに一回取り上げたことありますが,限界集落と呼ばれる地域に対して公共交通を整備したり移住者向けの補助を出したりして地域の維持を図ろうとする性格を持つもので,このような取り組みを市町村単位で行ったのは綾部市が初めてだったそうです。で,その取り組みが折からの格差論議と相俟って全国に広がっているらしいです。委員会としては「限界集落に対して自治体として考えることは何か」ということを聞きたいという志向であったのに対して,代表してやってきた市町村長の意見としては,次のようなかたち。
- ハードの施設については過疎法などを通じて整備されてきた,しかし結果として過疎地域の人口を維持するような効果が十分に上がったものかどうかについては微妙
- 郷土の文化や伝統芸能など,地域が持つソフトについては地域住民がその価値を発見できていない,地域における新たな価値を発掘し,住民の知恵を引き出すような方策が必要
ソフトの話,というのはやはり評価しにくいので,簡単なものではない,というのはある程度共有された認識のようです。公共交通や医療の話も少し出ているので,単に文化のような「ソフトウェア」というよりは,制度のようなものも含めて考えているのでしょう。このときの問題は,「何かをする」ために自由なお金(交付金?)が必要になってくる,というのがどうしても出てしまうところ。ただし,ヒアリングに出席した市町村長からは,単に金が欲しいといっているわけではなくて,下流の大都市部に住む人々が上流の機能や価値をキチンと認識し,尊重するということが何よりも必要であって,そのための教育や精神的な働きかけ(?)が重要,という意見が出されていて,「限界集落の問題は地方部の問題だけではない」という主張は至極尤もなことだと思うのですが,実際に「何か」をしようとするとお金の問題が付きまとってきます。しかしながらハードの整備のときには「ばら撒き」批判が常に付きまとってきたわけですが,ソフトの整備というのは評価がしにくいのでなおさら難しいという問題があるわけで。そんなことを思っていたら,ちょうど平仄を合わせるような話が。
◎交付税に過疎地向け「地方再生枠」=生活維持に必要な事業を支援−増田総務相
増田寛也総務相は3日、国が配分する地方交付税に来年度、「地方再生枠」を設け、過疎地などの自治体を財政的に支援していく考えを表明した。鹿児島県加治木町で開いた地元市町村長らとの「くるまざ対話」で明らかにしたもので、市町村などが行う生活維持に必要な事業を踏まえて交付税の上乗せを目指す。
同相は「特に(財政的に)厳しい地域に(交付税を)出していく工夫を考えたい」と述べ、過疎地に特有の財政需要を交付税に反映させる意向を示した。「地方再生枠」では、例えば集落同士を結ぶコミュニティーバスの運営など、過疎地での生活や集落維持に不可欠な事業を対象に検討する見通しだ。
(中略)
また同相は、国が一定の財政支援や人材派遣を行えば地場産業が発展する可能性のある地域を応援する国の予算を来年度確保し、地域活性化を後押しする考えも示した。(後略)
11月3日 時事通信
交付税の枠内でやるのはどうか…という気はしますが。というのは,交付税でやるということは,交付団体間の配分の中にこれをいれていくということになって,地方財政計画の歳出総額が増えない限り,相対的に豊かな交付団体から相対的に貧しい交付団体に流れていくだけで,あまりその効果は見えてこないわけで。発想自体はおそらくイギリスのSRB(Single Regeneration Budget)なんかをイメージしているのではないかと思うのですが,あれの場合はRSG(Revenue Support Grant; 交付税みたいなもの)の枠ではなく,資本支出の枠内で新規に奨励的補助金としてお金をつけてたと記憶してますが。最近露木委員が主張する道路特定財源の地方への移転にしてもそうですが,この手の義務的な支出を超えた裁量的な支出というのは,交付税の性格を歪ませてしまうところもあるので,その枠外で処理した方がいいのでは,と思ったりするわけですが。
こうやって書くとお金の話が絡んでしまうので,陳情っぽく聞こえてしまうのですが,個人的にはヒアリングに来た市町村長はそんなにお金の問題として語っていなかったように思えて好感を持ちました。綾部市長の次のような主張は地方分権を考えるときに非常に意味があると思ったので,ちょっと長いですが引用してみます。
(限界集落対策の)方向性の問題としては,住民本位だと思う。住民の,そこに住むみなさんが「もういっぺん再生したい」と立ち上がるという意思がないところにお金を投入しても意味がない。だからそれをどうして決めるのかというと,市町村と住民の話し合いの中で選択をしていくべきだと思っております。従来のそうした施策はどうしても中央省庁でメニューが作られ,都道府県を通過し…都道府県というのはだいたい「卸屋」ですから,ほとんど自分の企画とか知恵をつけません,そのまますとんと降りてきますが,どれを採用しても帯に短したすきに長し,あるいは省庁の縦割り行政の中で非常に手続きあるいはお金を取るのに時間がかかる,そういう弊害も出てきておりますから,何をおいても水源の里,限界集落といってもいいですけど,そこを再生する道というのは市町村に,あるいは住民に任せるということですね。そのことが最大の眼目だろうと思います。また,実際に市町村・住民が考えていろいろな施策を展開しようとするときに,例えば空き家がないから公営住宅を作ろうという場合には,国交省サイドのいろんな規制があります。それからさらにそこに住宅を建てようという場合にも線引きがありますね。そういういわば規制がございます。あるいはバスを通そうというときに,これはまあ赤字が当然ですけども,住民の自主運行バスを通すときにもよほどの手当てをしないと,大赤字で現実化しません。そういう問題をどうクリアしていくかということ,それは地形や状況によって違うんですね。これは本当に地方分権,市町村に委ねるということを考えていかなくてはならないのではないかな,と考えております。
こういう主張を聞いていると,(農地など)規制権限を市町村に委ねると非規制対象者に取り込まれる,という問題よりも,やはり権限がないことが大きな問題だ,と思ったりします。とはいえ,確かに権限を下ろして市町村が実際に「好ましい」運営をするのはファースト・ベストだと思うものの,実際はそういう行動を取らないインセンティブもあるわけで,そこのところは悩ましい,という問題が付きまとうことを思い起こします。
国・都道府県単位では今過疎法の検討委員会が議会の方でもあるいは行政のほうでも行われつつありますけど,それと並行して,水源の里をひとつのターゲットにしながら,モデル的に先行して市町村と住民が膝つき合わせて検討する,検討した結果集団移転しかないなら私はそれでもいいと思います。いかんのは10年20年先にどうなるかという展望もなしにですね,ただ市町村も住民もダラダラしていて結局落ち込んでいく,そこにお金を投入しても生きたお金にならないので,それが一番のネックだと思う。ですから20年なら20年と切って,本当にやる気のある市町村長に手を上げさせ,やる気のある住民に手を上げさせ,タイアップしてやってみせるという,そのことをまずやると。
さらに,このような主張からは,やはり長期の問題については長期の工程表が必要なんだろう,と思わざるを得ないです。ただし,今度は誰がそんな工程表を作るんだ,という問題に当たります。政党がそういう工程表にコミットできるかというとそれも難しい。政党自身の能力の問題もあるでしょうが,何よりマスコミさんはそんな工程表を見ないし,短期的なショックを高らかに謳いあげて潰しにかかるのはいつものパターン。まあマスコミさんはおそらく日本に残された数少ない既得権益保持層で,長期的な改革が既得権益の利益を奪う(というか応分の負担をお願いする)ことが多い以上,それは単に合理的な行動だということなんでしょうが。また,前も触れましたが,以前は「国士型官僚」が長期を見据えた計画を練っていた,という神話がそれなりの信憑を持っていたものの,現在の政治状況を見ると官僚だけが長期の工程表にコミットしたとしても政治家のほうで横槍が入る可能性は高いですし,官僚があまりに叩かれすぎている状況ではコミットすること自体難しいかもしれません。また,ヒアリングを聞いてる印象では長期の工程表を作るといってもその省の枠を超えていることはあまり期待できないでしょうし,仮にその枠を超えていたとしても実現性にはどうしても疑問符がつきます(「若手文部官僚」が本出すそうですが)。そもそも,各省の官僚がいわゆる「親元」の利益と独立して抜本的な議論をするのは難しいだろうということを考えると,官僚の中では「内閣官僚」ということになるのでしょうが,それでも「内閣官僚」になる頃にはある程度の高級官僚になっているわけで,長期にわたる制度変更をするときに実働部隊がちゃんと確保できるのかというところはあるかもしれません(内閣府?)。
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