第29回会合(2007/11/16)

今回で「中間的な取りまとめ」は一応終わりということで,事務局が最終的に出した案について各委員がコメントして修文する,という回。実況中継はどうも難しいので,なんとなく取りまとめ(というかそのプロセス)についての感想を。まず相変わらず委員同士での議論がどうも深まってこないために,委員間での合意が取れているのかどうもよくわからない,というのは最大の問題ではないかと。おそらく今回の委員会でほぼ唯一議論されたのは税財源のところ,今後の財政調整制度に対する考え方,というところです(詳しくはこちらの「資料3」を)。各委員がこの資料3で取り扱われている部分,すなわち,以下の「」で囲われている部分になります。

地方分権改革を進め、(1)で指摘したように地方税の比率を高めていくのであれば、国からの財政移転が果たす役割は自ずと縮小せざるを得ない。「その際、地方交付税の制度改革も含め地方自治体間での連携による新たな仕組みづくりによって、地域間の財政力格差の縮小をはかることが必要である。」

まあいろいろな意見(というほど「いろいろ」でもないのかもしれませんが)が出ますが,聞いている方としてはどうも委員間でやり取りをしているような感じはしない。お互いに言いっぱなしなところがあって,最終的に委員長・事務局が引き取って修文を作っていく,ということになります。まあ日本の審議会なんてこんな感じなのかもしれませんが…。それで直ったのは以下の通り。

「その際、地域間の財政力格差の縮小をはかる観点から、地方交付税の制度改革や財政調整の新たな仕組みについても検討する必要がある。」

これが最後に猪瀬委員の主張によって次のようになります。

「その際、地域間の財政力格差の縮小をはかる観点から、地方交付税の制度改革を含め財政調整の在り方についても検討する必要がある。」

まあ別にいいっちゃいいのかもしれませんが,なぜ最後に特定の委員が半分ゴネるような感じで主張する内容が修文に反映されるのか,というのはいまいちわかりません。おそらくそれは委員に問題があるというよりも,そもそも文章の中で何を守って何を守らないのかということについての意思決定が行われていないことに起因するのではないかと思います。もちろんそういうコンセンサスを作るのは大変なことだし,同じ文章を別様に解釈するいわゆる「玉虫色」の文章を作ることができるのはひとつのテクニックなのかもしれません。しかし,それをやってるとどうしても最後のキツイところで守らなくてはならないものについて,してはいけない妥協が発生してしまう可能性が残るような気も。これまでそういう感じの積み重ねでしばしば批判されるような「つぎはぎ」の制度ができてきたことを考えると,僭越ながらちょっと心配するところではあります。
以下,内容についての感想を少しだけ。以前からちょこちょこ書いてつもりなのですが,個人的には単一国家の枠組みを維持しつつ地方自治体の創意・工夫の余地を伸ばすためにどのように「義務付け・枠付け」の緩和を行うかという問題が最も重要であって,下手に税財源とかを扱うのはどうかと思うところではあります。ただ,仮に税財源も含めてかなり強く分権という方向に舵を切るのであれば,どうしても地方自治体間の広域調整・連携という問題を重視せざるを得ないのではないかな,という印象です。この点については委員の中では特に露木委員が強調しているところで,最後の記者質問で「自治体間の水平的な調整の中で話をまとめる土俵作りや仕組みづくりがないと,いつまでたっても国に配分の権限が握られるわけだから,これが中核の問題になってくる」ということをお話されています。国の責任を限定して地方がいわゆる残余的権限Residual Powerを持つような,半ば連邦制に近いような状況になれば,国の方での調整も限られてくるので,地方間で調整するという発想がない限り弱い自治体はどうしようもないわけで,まあこれが中核の問題になってくるというのは健全な考え方ではないかと思います。しかしながら,この委員会に出ているほかの委員の発言を見ていると,自分の自治体が「損」をするようなことを引き受けることは好まない,という姿勢は基本的にはどうしようもないのではないかと思ったりします。確かに「分権型社会」という観点からは国に頼らずに地方間での調整で物事を解決するという姿勢が前提として重要であるものの,それが上手くいくためにはある地域においてリーダーシップを取れる自治体(首長)がより広域的な地域の便益・長期的な利益のために自らが多少の「損」をすることを厭わないといったことを考えないと成り立たないのではないか,成り立たないとすると困るのは結局小さな自治体ということになるのではないか,という感じは拭えません。もちろん,いま「限界集落」といわれているようなところを全て維持すべきだとは思えませんが,その部分を除いても小さな自治体のことを考えたらある程度「集権」というのは必要なのではないかと思わずにはいれません。逆に言うと,特に税財源を中心にこれ以上の「分権」を主張するとき,自治体間の連携の制度について考えない限り,小さな自治体にとっては極めて厳しい施策であるということを引き受けなくてはいけないと思うのですが。
それ考えると,なんだか新聞各紙が社説でそういう自治体間の連携について何も触れずに税源配分1:1に踏み込めてないのが甘いとか言ってるのは,やっぱりちっちゃな自治体の行政サービスはどうでもいいということが言いたいんじゃないかと勘ぐったりするのですが。中央官庁がいやがるような「分権」を進めていけばなんとなくハッピーだ,ってことで分権って書いてるなんておめでたい話ではないと信じたいところですが…。しかし,事務局の人たちもなんだか自分のしてきたことが悪かったって書かされて,その書き方が甘いとか言われるのはあまりにかわいそうだと思うのですが,そういうことを想像しちゃだめなんですかね。
11/9 北海道新聞 地方分権改革 課題を抱える報告案だ
11/16 山陽新聞 分権委中間報告 抵抗排し地方政府確立へ
11/16 中国新聞 地方分権改革 掛け声で終わらせるな
11/17 日本経済新聞 改革の道筋を示した分権委
11/17 朝日新聞 地方分権報告―丹羽さん、もっと汗を
11/17 西日本新聞 「画餅」にしてはならない 分権中間報告
11/20 宮崎日日新聞 分権改革中間報告
11/21 沖縄タイムス 課題は税財源の確保
11/21 河北新報 分権改革の起点にできるか/自治法60年記念式典