何が何を変えているのか
研究会ということで大阪に。論文の続きを書こうとするものの,現在近くで大規模な工事をしていてなかなか集中できない。常勤の先生方は研究室で研究するのも大変そう…。
ということで,やや軽めに新書を読んでみる。今年のサントリー学芸賞を取った本のひとつ。
- 作者: 飯尾潤
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 新書
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ざっくりとまとめてみると以下の通り。まず,日本の制度は議院内閣制(議会制)として設計されていて,制度から見ると執政府に権力が集中すると考えられるのに,一般的な評価としては権力の分散が激しい政府であると考えられやすいというところから問題を提起する。そしてなぜ権力の分散が激しい政府であると考えられるのかの説明として,「省庁内閣制」という概念を用いる。これは(政党ではなく)各省庁が社会の隅々にネットワークを張り巡らせ,審議会などを通じてその要求を吸収することで政策を立案し,それが(内閣レベルで)省庁間の「総合調整」を経て決定に移される,といったようなモデルになる。「省庁内閣制」のもとでは,有権者の委任を受けた議会・内閣が省庁を統制する,という理念型的な議院内閣制とは異なって,各省庁の割拠性が強まることになる。そして,「省庁内閣制」を補強する要因として,官僚の人事慣行とか積み上げ型の意思決定システム,さらに,中選挙区で選出される「与党」自民党の国会議員が族議員として政策決定に関与していくことを挙げて,それぞれと「省庁内閣制」との関係が説明される。
著者は,このような「省庁内閣制」は,政治家が御用聞きを通じて有権者の個別の要求を伝えることはできたとしても,民意を集約すること,すなわち個別の要求を一般的なものに変換することが難しいことを指摘し,将来的には理念型的な議院内閣制に近いシステムへの転換を図るべきだと主張し,近年の流れを積極的に評価する。そのうえで,この転換を確かなものにするためには,総選挙を通じた「政権選択」を明らかにして,政党の首脳部の地位向上を図ることが必要であるとして,転換に付随する具体的な問題(参議院,官僚制,司法など)を検討していく,というもの。
「省庁内閣制」の限界を,個別利益の積み上げというシステムの限界に重ねるところは,僕自身の問題意識とも近く,問題意識の展開のさせ方としてとても参考になる。ただ,本を読んでいてやや不思議な気分がするところもないではない。それは,この本の規範的な議論と,実際に起きている現象がどういう関係を持つのか(僕自身が)いまいちつかみかねているところ。中選挙区制から小選挙区制への転換や中央省庁改革・内閣機能強化というのは著者が言うように,「省庁内閣制」から「議院内閣制」へと転換させる,補完性を持った制度変化ではないかと思うのですが,これが政権交代を経ることなく1990年代に漸進的に進められているっていうのはひとつのパズルではないかと。自民党というのは「省庁内閣制」によって得られる利益を最大限享受していたようなところがあり,何より長い間一党優位体制を続けているわけで,常識的にはこの「省庁内閣制」という制度をひっくり返すことによる利益というのは薄いのではないかと思うのですが,その自民党が政権交代もなく制度変化を進めるというのはやはり不思議なところがあると思います。一つの説明としては,「中選挙区制から小選挙区制への変更」が自民党がそういう制度変化を進める利益を感じるほどに大きな変化であった,ということがあるようにも思えるのですが,それだったらそれで,これまでの官僚制の意思決定システムとか政官関係っていうのは何だったのか,それ自体は独立して存在しえないものだったのか,といったような疑問が沸いてきます。てか,先週の研究会からこの手の疑問をどうもうまく言語化できないのですが…*1もうちょっと考えてみよう。
*1:まあだからこの本買って読んだわけですが。