第51回会合(2008/7/3)

前回の会合のときに,次回は二時間半の予定で…という話でちょっと恐れていたものの,結局のところ今回は一時間半ほどで終了。テーマは広域連携と定住自立圏の話で,広域連携については元自治省事務次官松本英昭氏に,定住自立圏については総務省の担当審議官にヒアリング。しかしこの時期のヒアリングっていうのはちょうど人事異動の時期と重なるから大変だろうなぁ,と。分権委でも人事異動があるようですし,そういえば昨日のニュースでは松田専門委員が公務員制度改革本部の事務局に入るとか。
松本氏からは,日本の地方自治体における広域連携制度の歴史と特徴についての説明が。その特徴をさっくりと要約すると,各自治体が権限と財源を持ち寄る「組合」の色が濃く,そのために活用が難しいというもの。で,平成6年に現在の広域連合制度が作られたときに,その点について改善を検討して広域連合固有の機能・権限を持ちうるようにするとともに,独立性をもち構成団体に対して拘束力のある決定を行うことができるようにすることを考えた,と。でも結局立法技術上の問題が大きくて,広域連合制度を組合の考え方の中で位置づけた,ということ。立法技術上の問題,というのは,個別法で「都道府県知事は・・・」とか「市町村長は・・・」となっているものについて「広域連合(の長?)は・・・」としたり,読み替えたりする規定を全ての個別法について検討する時間がなかったということが大きいそうです。おそらく省庁間協議をすれば難航することも予想されたものの,こっちの問題が大きかったので省庁間協議はそもそもあまり行われていないとか。
で,今後の広域連携の制度設計についての主張としては,自治体間の機能や能力の違いを認めて(対等・平等を強調しすぎることが各自治体に全ての機能や施設を持たせる「ワンセット主義」をはびこらせた,ということだそうですが),弾力的な組織運営を認めることが重要だということになります。特に圏域で中心となる市の役割が重要で,中心市の組織を共同設置にして,周辺市町村との共同組織とみなし,実質的に中心都市の権限の区域外行使していくとか,中心都市が周辺都市を「包括」し,周辺市町村は特別地方公共団体として存続いく可能性を検討するとかそういうことが必要だろう,と。定住自立圏構想」も主張としてはほとんど同じことを言ってます。まあ両方とも自治省がかんでいることを考えると自然なのかもしれませんが。違うとすれば,こちらの方は「成長力強化」の文脈の中で,周辺市町村がフルセットで生活機能を整備することは難しく,中心市が集約的に都市機能を整備してネットワーク化を図るんだ,ということをより強調しているということでしょうか。
正直なところ,合併と広域連携がどう変わってくるのかいまいちわからないところはあります。敢えて言うと議会とか役所を残すことができるとか,必ずしもひとつの広域連携に縛られることなく,複数の広域連携に参加しうる,ということがあるのかもしれません(例えば医療ではA市の中心機能を使い,教育ではB市の中心機能を使うとか)。これまでにも分権委で議論になってきた教員や医師の確保という観点からは,広域連携(あるいは定住自立圏構想)の議論はひとつの受け皿として活用可能なのかもしれません。とはいえ,周辺市町村が単に中心市にフリーライドするだけであれば,中心市の方としてはなんでそんなサービスをしなくてはいけないんだ,という話になるのかなぁ,と。
もう少し視野を広げていくと,これは合併しない(するつもりがない)「周辺市町村」と言われるような,財源や人口,産業などに乏しいところについて,誰が公共サービスを提供するのか,という問題であり,いくつかの立場が考えられます。この広域連携や定住自立圏というのは,圏域の中心市にその役割を託し,その一方でこれまで周辺市町村が仕事をするということで配分していた地方交付税中心市のほうに回す,ということを想定しているようです。ただ西尾代理から質問が出ていましたが,どのような状態で交付税措置をするのかというのはかなり難しい問題で,総務省の説明では「協定」を結んだことで交付税措置に繋げるということでしたが,この「協定」が従来の事務委託や協議会設置のようなものとは異なるものとして観察可能でなくてはいけないですし,そもそもそんなに個別のケースを見ながら交付税措置をするということが,一般財源であるところの交付税の主旨に照らして望ましいのか,というと疑問がないわけではありません。
このような,圏域における中心市の役割を強調する主張に対抗するものとしては,現時点では西尾代理が2002年に出していた「西尾私案」のようなものでしょう。荒っぽく言うと,小規模な周辺市町村の事務を都道府県が吸い上げて実施するということで,周辺市町村への公共サービスの提供を中心市ではなく都道府県が行う,という考え方になるのではないかと思われます。両者の考え方には一長一短あるかと思われますが,その共通点としては小規模な周辺市町村が(中心市と同じように)フルセットで事務権限を行使することができない(あるいは,するべきでない??),という認識を持っていることでしょう。で,広域連携や定住自立圏構想では,そのときに中心市の役割を重視し,以前の西尾私案では都道府県の役割を重視する,と。一方では人が「中心」に集まりやすいことを考えると確かに都市ごとに発展の核となる「中心」が存在する方が望ましいような気はしますが,そもそも水平的に調整することができるのか?という問題はあるでしょうし,都道府県が事務を吸い上げることは比較的容易であるとしても,「中心」がない「周辺」の集合であれば今後の地域の発展のメドが立たない,という問題も出てくるのかもしれません。いずれの立場も必ずしも万全ではないでしょうが,周辺市町村のフォローにおいて,都道府県を強調するのか,中心市を強調するのか,というのは今後の分権改革,特に都道府県というものをどう考えるか,という議論に当たって重要な意味を持つのではないかと思われます。