分権諮問会議

時事通信の記事から。なかなか興味深い提案。

◎分権推進で諮問会議など設置を=改革求め試案公表−橋下大阪知事
大阪府橋下徹知事は29日、地方分権の推進に向けた国と地方の協議の場の設置について、府の試案を発表した。国と地方の役割分担などを協議する首相を議長とした「分権改革諮問会議」のほか、中央省庁の政策を事前審査する自治院(仮称)の設置を求めている。各政党に対し、衆院選後に実現を図るよう要請する。
諮問会議は、首相、官房長官、分権担当相に加え、地方6団体の代表者も参加。分権に関する制度設計を担う。自治院は、分権担当相が議長となり、個別の政策についての議論を行う。いずれの機関でも、地方側の同意・拒否権、提案権を付与する。また、地方自治法を改正し、参議院に「地方首長等枠」を設定することも求めている。

もうちょっと政治的な側面についてはMSN産経が報じている。試案の中身をみたわけではないのであんまりはっきりしたことはわからないわけですが,報道をみつつ以前に市長会から地方行財政会議の提案が出た時に考えたことを思い起こすと,内閣府に首相を議長として置く重要政策会議(内閣府設置法18条)としての位置づけになるのではないかと思われるところ。まあこれはざっくり言うと経済財政諮問会議地方分権改革版と考えればいいわけで,それ自体はそんなに難しくないと思われる。ただし現行の地方分権改革推進委員会のような普通の審議会(?)との異同をどうだすかというのは難しいかも。結局行革会議(橋本内閣)−経済財政諮問会議小泉内閣)のように首相が毎回出席して決断する,というコミットメントがあるかどうかによるのではないか。
もうひとつ,MSN産経が中心的に報じている「自治院」構想はどうだろうか。MSN産経では,「自治院は各省庁から独立して内閣に設置」ということが入っていて,「院」という名称を使っているところからも人事院を意識しているように思われる。人事院は,「内閣の統制に服しながらも内閣以下の行政組織体系から相対的に独立した組織」という特殊な位置づけであって,もっとも独立性が高い行政機関である会計検査院憲法で位置づけ)の次に独立性の高い設置形態と考えられる。まあ名前的にはわかるのですが,このように人事院的な制度設計を志向するからといって実態がそれについてくるかはなかなか微妙。人事院は政治的な中立性が重視されるテーマ(公務員給与)をなるべく技術的に取り扱っていくことでその独立性をなんとか維持していることになってると思われるわけですが,ここでの「自治院」はそもそも非常に政治的なテーマを扱わざるを得ないところ。結局のところ「独立じゃない」というどうしようもない批判を浴びて往生する可能性が高いように思います。またもうひとつ関連してちょっとわからないのはその執行体制なわけですが,人事院は独立性を担保するために一応「人事官」っていうのに国会同意をつけているわけですが,これと「分権担当相が議長」というのの関係がよくわからないといいますか。だったら別に独立性云々といわずにふつうに内閣機関としておけばいいような気も(別に分権諮問会議だっていいと思うけど)。
まあ本命は参議院ということではないでしょうか。このブログでもだいぶ以前に,地方自治体の国政参加という文脈で参議院改革(でもそれやると時間がとられすぎる…)と書いてたことがありましたが,今回の提案は,

首長と国会議員の兼職を禁じた地方自治法を改正、参院議員を「地方の代表」と位置づけ、知事との兼務を可能にする。橋下知事は「知事になった時点で自動的に参院議員にすることは難しい」との認識を示し、「参院選に知事の『特別枠』を設けるなどの仕組みが考えられる」としている。
MSN産経

ということなので,いきなり参議院をアメリカの連邦上院みたいにするわけではなくて,かなり具体的かつある程度現実的なのではというところ。なぜ参議院かというと,やはりこの話で重要なのは地方側の拒否権(特に無茶な義務付け・枠付けに対して)だと思うからです。「分権改革諮問会議」とか「自治院」でも拒否権って書いてますけど,このような内閣の構成機関になると,提案権はもてると思いますけど拒否権になるとどうかなぁ,と。まあすべての閣法に対して修正権を持っていれば事実上の事前審査のように運用できるのかもしれませんが,ちょっとそうすると立法過程上の大きなハードルになりすぎるように思うわけで。その場合むしろ似たような機関は人事院というより内閣法制局のような気がしますが,法制局は徹底的に立法技術にこだわることで政治的な色彩を消し,中立性を強調するわけですが,「自治院」のような機関がそうなるとはちょっと思えないところ。少なくとも「憲法解釈」(これ自体たいがい広漠としてますが)に比べて「地方の利益」の方がもう極めてどうしようもなく漠然としてるわけで(しかも地域によって違う),それを技術的に運用するのはかなり難しいのではないかと。一方で参議院であれば,立法過程上で一定の影響力を発揮させることができるうえに,国会議員が一致団結すれば地方の利益をOverrideできるくらいの設定にしておけば,単一国家としての色彩も十分保てるように思います。個人的にはそのくらいが妥当な線ではないかと思ったりするところですが…。
この辺の制度設計の議論は,政治学の1990年代以降の制度論の知見が十分に生かせる分野になっている感じでとても興味深い*1。でもおかげでなんか意外と長いエントリーになってしまった…。

*1:典型的にはTsebelis[2002]とか。

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