ずっと地方分権改革推進委員会を観察してきたこのブログも,最近は大阪府政・大阪市政を観察することがほとんど。そういうこともあって前にちらっと読んでた橋下知事についての本を改めて読んでみた。
- 作者: 産経新聞大阪本社社会部取材班
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とても興味深いのは,何よりも新聞記者たちがこの橋下知事という若い知事のことを非常に批判的な−というかいつ失敗するかを心待ちにする−視点で捉えつつも,その意思や政策について真正面から批判することが(うまく)できない,という二律背反を抱えている感じが痛々しいほどに伝わってくるところ。「マスコミ」がしばしば批判する「政府・公務員」にとっての脅威として知事をとらえているものの,雑な言い方をすれば「敵の敵が味方とは限らない」という意識が強く感じられる。もちろんその背景には,2005年の郵政選挙で小泉首相vs.抵抗勢力,という構図を繰り返し報道することで小泉首相率いる自民党が大勝利を収めたという経験に対する反省という自意識があるのだろうし,知事に踊らされたくないという警戒感も強いのだろう。こういった意識は,産経の方の「はじめに」にも書いてあり,記者たち自身が強く意識していることはよくわかる。ただそういう意識のもとでの橋下氏の描き方はかなり紋切り型で,成長期の「スネ夫っぽい」エピソードや弁護士時代のお金に拘るというエピソードで人間性を紹介しつつ(ただし,両書ともに「家庭人」としての側面は幾分好意的に描かれているところも共通している),知事になったあとにぶち上げる政策の極端さやその「立ち回り」を危なっかしげに描くというかたち。まあその気持は全くわからないでもないし,こういうように感じているというのは,ひょっとすると僕自身も少なからずそういう予断をもって読んでいるところがあるというのが原因かもしれない。
メディアはその時間の関係から,議論になっている問題に対してどのような解決のアプローチがあるのかを明らかにすることなく,表面的な部分を取り上げて議論していることがしばしば問題視される*1。郵政の時もそうだったわけだが,そのように個別の説明ができないメディアは,当然のことながら政策自体に対する自らのを基本的に明らかにすることはなく*2,「誰が喋っているのか」と属人的なかたちで自らの「立ち位置」を定義してくることになる。大阪の話でも,あくまでも人間としての知事とそれに対立する政府?の間でどこに立つかという話であって,政策的な「立ち位置」についてはほとんど意識されることなく,最後には(例えば公務員からの投書を引用しつつ)公務員はこのようにあるべきだ,とか,知事と関係団体は対立するけれども一番重要なのは子どもなのだ,とかそういう何もいってないような終わり方になってくる。現在の「大阪都構想」なんかでも,例えばWikipedia:大阪都構想などを見ても,一定の具体的・建設的な構想があるようだが*3,急進的で不気味な改革派の知事と守旧派で既得権を重視する市長,さらには改革に対して否定的な中央政府,みたいなオドロオドロしい図式のもとで「立ち位置」を探られるようだと,この大都市問題が非常に全国的な問題としての一面を持つ中で,議論が余計に混乱するハメになる可能性もあるのではないかと思ってしまう。
ただ,それが常に問題だけなのか,丁寧に言えば,「メディアの態度などによって解決されるべき/解決可能な問題」なのかはよくわからない。以前からずっと考えてきたことではあるが,例えば政策を紹介するときに,「このシステムは信頼できる」からそのシステムを採用するという意思決定の仕方は,意思決定者にとって非常に負荷が大きいが,「この人は信頼できる」というのは同じ信頼に関する議論であっても意思決定の負荷を軽減させる直観がある。非常に雑駁な話しかできないが,ルーマンが区別する「システム信頼」と「個人的信頼」は議論のベースになっていて,どのように形成されるのかわからない「システム信頼」*4の機能を(暫定的に)「個人的信頼」が代替する局面っていうのがあり得て,それは複雑すぎる現代社会において「システム信頼」を形成するときの糸口になるのではないか,と。そうすると個人に照準せざるを得ないことを受け入れないといけないのかもしれない,と思ってみたり。とはいえ,求心力を持つ個人の間でのバランスを考えるだけでは意思決定が歪んで仕方がないと思わずにはいられないが。
- 作者: ニクラス・ルーマン,大庭健,正村俊之
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