大阪都と中京都,関連報道大づかみ
愛知県知事選挙に立候補するという大村秀章氏が,出馬会見で「中京都構想」を公約にすることを発表し,その盟友であるとされる河村たかし名古屋市長も,中京都構想への賛意を表明したという報道が流れている。現在のところ中身についてはよく分からないが,「大阪都構想」と同じように,名古屋市を経済成長のエンジンとなる大都市として位置づけよう,という発想からすれば,それは全く不思議な議論ではないと思われる。
中身については結構各紙の報道がバラバラで,朝日新聞によれば,
「中京都」構想については「強力な政策をタイミング良く果断に断行するためには、強力で唯一の司令塔が必要だ」として二重行政の解消を図るとした。
というかなり踏み込んだ話が書いてあるものの,中日新聞は,
中京都構想では、「大阪都」構想を提唱する橋下徹大阪府知事と連携する考えを示したが、「専門家や県民の声を聞く第三者機関をつくり検討したい」と述べるにとどめた
ということなので,やはり今のところよく分からない。ただ「大阪都構想」との連携についてはどうやら発表で出たらしい。で,これ自体についても僕自身既に書かせてもらっているように,都市を重視する観点から言えば,両者が連携しようとするのはむしろ当然のことだと思われる。
対応するかたちで,大阪の方では橋下知事も連携を図っているという話が出ていた。これは,大阪市長に出る可能性がゼロではないと発言したタウンミーティングでのコメントだと思われる。
「中京都構想」を近く河村市長が発表 橋下知事「連携したい」
大阪府の橋下徹知事は5日、大阪市内で開かれた集会で「名古屋市の河村たかし市長が名古屋、愛知県も『中京都構想』を持ち出すという方向で調整している」と述べた。構想は愛知県と名古屋市の再編で、6日にも河村市長らが発表するという。
大阪府と大阪市を再編する大阪都構想を主張する橋下知事は、取材に対し「ずっと河村市長と話して(都構想を)つめてきた」と明かし、「広域行政を一本化することでまとまっていると聞いている。河村市長とタッグを組み、連携してやっていきたい」と今後の連携に意欲を示した。
一方、河村市長が月内にも辞職、来年2月の県知事選と同日選で行われる見通しとなっている名古屋市長選に再び立候補するとみられているが、橋下知事は、今後の選挙応援について「維新の会で議論して判断したい」と明言を避けた。
ところが,今朝になると,橋下知事が連携を否定したような話が同じ産経から出ている。
橋下知事また一転「愛知の都構想は別もの、連携は無理」
愛知県知事選への立候補を表明した大村秀章氏が打ち出した「中京都構想」について、大阪府の橋下徹知事は6日夜、「愛知県と名古屋市が協議会を作ってという中京都構想では、自民党大阪府連が打ち出した協議会方式に近く、(大阪府や大阪市などを組織として一本化する)大阪都構想とは方向性がまるっきり違うのではないか」と述べ、現時点では連携できないという立場を明らかにした。
橋下知事は「名古屋市が特別区を作らないというのであれば、それもありだと思う」と述べる一方、「(中京都構想は)僕らが考えている組織としての広域行政一本化というところまで踏み込んでいない。今の段階では連携は無理だ」と明言した。
記事のタイトルだけを見ると,橋下知事がブレブレで,行ったり来たりしているように見える。確かに知事は発言がブレることが多いという印象はあるが,しかし,はっきり言ってこれは記事に悪意がありすぎる。中身がきちんと分からないなかで,「中京都」を言う側から「連携したい」と言われれば,連携を考えたいというのは当然ではないか。その後,「中京都」の中身が少しずつ明らかになる中で,これが違うものであれば連携できない,というのもまた当然だろうと思うが。
というのは,12月6日の河村市長の会見で,こちらの方から「大阪都構想」とは違う,ということが述べられている。
河村語録◎「中京国」で独立する
(前略)
――今日の午後、自民党の大村秀章衆院議員が知事選出馬の会見をする。そのご感想と「中京都構想」の報道もあるが、それについてのお考えを。
…(略)…あとは、大村さんからご自身の政策だで言ってもらわないかんけど、中京都については、大阪でも橋下(徹・府知事)さんがだいぶ言っておられるようですけど、私も何べんも電話しとりまして、大の仲良しでございますので。ただ、注意してもらわないかんのは、大阪型と名古屋型は違うというのはおさえていただいて。だからといって確定的なものが出た訳じゃありませんけど、確定的なことで言いますと、県と市の二重行政を徹底的に排除してって、まあ税金の無駄遣いの無い。名古屋でいえば、県民税市民税10%に連ねて強い愛知を作っていくと。
僕は「中京国」と言っているんですわ。なぜかというと中京国というのは、まず川が木曽川水系というどえらい大きいのを持ってまして、独立国になるのにふさわしい水があると。特に三河地区には、農林水産漁業ですね、すごいインフラというか、産業を抱えてまして、まあ、いいんじゃないですか。独立国になるには。大阪の場合は大阪市と大阪府という全部都市部ですね。ちょっと状況が違うので、まあ、しかし、やり方は違うんだけど、全体を作るイメージは広域連合がやってみえるけど、一つの日本を引っ張るエンジンになると。それから、中京は中京国としてね、今日も言いましたけど、「力で東京に勝ち、文化で京都に勝つ」と。準独立というぐらいの地域をつくっていけたらと思います。そんなイメージで。やっぱり、ええ地域になると思いますよ。産業政策をやる場合は県と一緒になってやらないといかんですわね。楽市楽座でたくさんの企業、人に住んでもらうのは、経済の何と言ったって基礎ですから。そうなった時に名古屋と愛知が深く連携していくのは、必ず、名古屋市民、愛知県民の皆さんが絶対やって良かったなあという風になると思います。
――「大阪型と違う」というのは、大阪は東京都のような特別区を作る仕組みですが、それとは違うのですか。
まあ、ちょっとそこは違いますね、今のところのイメージでは。名古屋をそう分割しても、あんまりピンとそう来ませんので。
――ではどんなイメージなんですか。
まあ、本当の独立国のイメージをもっていただいてもいいですよ。
(後略)
これを読むと,大村氏と盟友関係にあるとされる河村氏の方は,別に名古屋市域の再編は考えていないように見える。実際,この記事の後のほうでは,首長の在り方を変えるというよりも,「作戦本部」のようなものを作って中京地域の地域戦略を作る事が重要であって,別に首長は2人でいいと述べている。大村氏の方については,同じ朝日新聞の報道によれば,
大村氏公約に「中京都構想」 県と市を再編 愛知知事選
(前略)
構想は、河村市長と親交が深い大阪府の橋下徹知事の「大阪都構想」と同様に、名古屋市など都心を分割して公選の区長が住民に身近な予算を決める「特別区」のような形に再編し、愛知県を「中京都」とする方向で検討されている。愛知県と名古屋市で重複する行政機能を簡素化し、効率化するのが狙いだ。
河村市長は大村氏と連携した再編構想について「名古屋市と愛知県をどうしていくかは大きい。重複行政を外して減税につなげていく。ものすごいエンジンになる」と積極姿勢を示している。また、「大阪都構想」に理解を示し、「愛知県ぐらいの規模でやった方が強烈なインパクトがある。名古屋だけだと企業誘致の場合でも土地がない」とも指摘している。
(後略)
という話になっていて,こちらの方は「名古屋市など都心を分割して」ということでかなり踏み込んだことをいっている。ただまあウェブで見る事が出来る記事では,大村氏が名古屋市分割を言ったとしているのは朝日のこの記事しか見当たらない。
だらだらといろんな新聞記事を眺めてきたが,これは結構捻れた問題のような気がしてきた。マスメディアは,橋下知事や河村市長(そしてたまに大村氏)を,しばしば大衆に迎合する「ポピュリスト」であるとして非難口調で記事を書いているように見える。確かに,善悪二元論で自分についてこないヤツは「悪い」と切って捨てるような政治手法には問題があることは事実だろう。しかし,一部の新聞記事,特にインタビューがそのまま載っているようなものを見ると,政治家たちの議論は全く同意というわけではないが,色々なことを考えているということが伝わってくるのも間違いない。例えば,河村氏による「中京都」と「大阪都」の違いの説明だって,大阪と名古屋の地域特性の違いや,現在の大阪府・大阪市と愛知県・名古屋市の違いというものに配慮しながら進めていきたいという意欲が伝わるものがある。少なくとも個人的には,政策というか考え方自体は十分に議論すべきところが多いと思われていて,政策それ自体とそれを「ポピュリスト的に」進めるという手法に対する批判というのは分けて考えるべきだと思われる。
一方で,マスメディアの側は,今回は(なぜか)朝日新聞が典型的にそうなのだが,「中京都」と「大阪都」という言葉の似た響きを捕まえて,同じものであるべきという先入観に支配されているような気がしてならない。産経の橋下知事批判だって,ほとんどそういう感じの揚げ足取りと変わらないと思うし。くどいことを言えば,マスメディアの方は,政策それ自体と(ポピュリスト的な)手法を区別するという意識がほとんど見られず,政策や考え方(ここでは「中京都」「大阪都」)そのものが「ポピュリスト的」であると捉えているように思われて仕方がない。それは単なるラベリングだし,そういうラベルを貼る行為そのものが「ポピュリスト的」ということではないだろうか,と。大阪産経の橋下知事の会見記事や朝日「河村語録」など,特に(地方の)インタビューなどの「ダダ漏れ」に関連して,地道な取材に基づく非常にありがたい記事が多いだけに,(もう最近はほとんど「妄言」と化してる社説はいいとして)大雑把なラベリングだけのような記事になってくるのは残念だし,ちょっと不思議なところがある。
追記(12/8)
だんだんグチャグチャになってきた。河村市長の会見での議論は理解できるところが多かったと思うんだけど,結局流れに乗ったということになるのかな。ただこれはやっぱり微妙で,もともと彼自身が言っていたように,愛知県だと考えるとやや広すぎるところがある。それこそ「尾張」くらいがいいところかと思うわけだが,語感と周りに載せられて「中京都構想」で愛知県と名古屋市を一緒にするということは,「尾張」と「三河」を(実質的に尾張主導で)まとめることになるわけで,都市としての一体性を保つのは難しいだろう。ていうか,そんなこと言ってる大村議員は三河なわけだが,名古屋市民的にはどうなんだろうか,というところはある。
橋下知事については,東京都知事との関係に言及をしていて,これはまた戦線を広げるだけの話だ,というような批判的な見方もあると思われる。ただ,都市の利益を考えるときには東京都は当然に中核的なところになるわけで,国レベルで議論するときには東京都知事が噛んでこないと話にならないのはおそらくそのとおり。とはいえ,東京都知事選挙は統一地方選と同日なわけで,そこまで色気を出すことができるのかという実行可能性の問題はある。名前が出ているところの副知事・宮崎県知事・元厚労大臣はいずれも橋下知事に秋波を送っているところがあるので,橋下知事がパートナーを指名→勝利すれば大きな影響力を持つことができるのとは考えられるが,後出しジャンケンの東京都知事選挙でまずこの三人の誰かが当選するのか?という問題も大きく,そういう賭けに出るのも難しいところはある。まあごく短期で見れば,東京都知事に影響力を持つことができなければそれまで,という考え方もありうるので,何もしないよりは賭けた方がいいのかもしれないが。
中京都も「リーダー1人」 河村市長ら、橋下知事に配慮
来年2月の愛知県知事選に立候補する大村秀章衆院議員(50)が7日、河村たかし名古屋市長と会談し、愛知県・名古屋市を合体する「中京都構想」について協議した。中京都の骨格について、大村氏は「強力な司令塔をつくり、ワントップで独立させる」と説明し、河村氏も「1人のリーダーだ」と強調した。
「中京都構想」について、「大阪都構想」を掲げる橋下徹大阪府知事は6日に「(河村氏らが)司令塔を1人にすると明言しなかった」と指摘、「連携は今の段階では無理」と述べていた。7日の会談は、橋下氏の懸念を打ち消す狙いがあるようだ。
大村、河村両氏は、会談の取材に集まった報道陣に中京都構想の骨子を配布。骨子には、(1)愛知・名古屋の合体(2)強力で唯一の司令塔(3)重複行政の徹底排除(合理化による経費節減→減税の財源)(4)具体的なあり方と進め方については、第三者機関をつくって検討――を掲げた。
大村氏は6日の立候補表明で「(橋下氏が代表を務める)大阪維新の会とは連絡をとっている」と橋下氏との連携を示唆。一方、橋下氏は、都構想では1人のリーダーに決定権を集中させることが重要とみており、河村氏らの発言を注視していた。
河村氏らの7日の発言について、橋下氏は同日、報道陣に「まだ(河村氏らの)会見の状況などを確認できていない。河村さんとしっかり話をする」と話した。橋下氏と維新の会幹部は7日夜に会合を開き、河村市長らへの対応について話し合った。幹部らの間では「広域指揮官(リーダー)が1人と言っており、連携できる」との意見が多数を占めたという。
また、大村氏は7日、愛知県の神田真秋知事とも会談。「中京都構想」を説明したが、神田氏は「分かりづらい」と受け流した。
「大阪都」と「中京都」は一緒=大村、河村両氏と連携へ−橋下知事
大阪府の橋下徹知事は8日、愛知県知事選へ出馬表明した大村秀章衆院議員や河村たかし名古屋市長が掲げる「中京都」構想について、「最終的には広域行政を一本化するものだと確認が取れた。(大阪都構想と)全く一緒だ」と理解を示した上で、両氏と連携していく意向を明らかにした。府庁内で記者団の質問に答えた。
知事はまた「中京都、大阪都をつくるため奔走してくれる東京都知事が誕生してくれればと思っている」と指摘。来春の都事選で、理念を共有できる候補者の出馬に期待感を表明した。