いただきもの

御厨貴先生から『権力の館を歩く』を頂きました。ありがとうございます。毎日新聞の連載をまとめられたもので,連載中からいつか本になるのかと楽しみにしていたものです。
最近の社会学での「環境管理型権力」の議論とか,アーキテクチャへの注目にもあるように,建築と政治の関係はますます重要になっているにもかかわらず,(少なくとも政治学者の)研究としてはほとんどされていないところかと思います。しかしこの本を読むと,この分野の研究が非常に挑戦的なもので,そしてまた今後有望な分野であることを強く感じます。特に,この本では東京都庁北海道庁(赤レンガ)・沖縄県庁が扱われていましたが,それ以外のところを含めた地方自治に関する「権力の館」についても,地方ごとの異同も含めて議論されるところだろうという印象を持ちます。
ただ,その方法というのはなかなか難しいだろうな,という直観も,感想としてもったところです。理論志向を強く持てば,様々な「権力の館」に通底する要因を(場合によっては定量化して)分析する,という志向もありうるように思いますが,それでは「館」の象徴性を上手く捉えることができない気もします。この本では,ひとつひとつの「権力の館」を細かく分解して議論するのではなく,多くの「館」を見渡すという手法を取っていて,それに対してはひとつひとつの「館」についての分析が弱いという批判もありうるのかもしれませんが,個別の要因に還元しないことで,却って最終的に記号に還元されない何かを浮き彫りにすることができているように思います。
そこがこの研究の妙味なのではないかと思ったところですが,同時にそれはこのような問題意識に基づく研究が重要であるにもかかわらず,今後発展させて行くことが簡単ではないということを意味しているようにも思えます。様々な政治の習いや機微について熟知した研究者でないとできない研究ということになるのか,さらに間口を広げる方法論が打ち立てられるときに建築の象徴性の分析ということが可能なのか,そういうことも考える機会になる研究なのではないかと。

権力の館を歩く

権力の館を歩く