日本政治:分析対象・方法の広がり

ちょっとですが,福岡工業大学の木下健先生に『政治家のレトリック』を頂きました。ありがとうございます。タイトルの通りですが,政治家がインタビューや国会審議などで話をしている内容だけでなく,やり取りの仕方とか逸話の紹介とか表情とかも含めて検討の対象とされています。テレビ討論番組や国会等の討議を独自にコーディングするというのはとても大変な作業ですし,また,顔の表情についてもデータ化しているというのは非常に興味深いものだと思います*1

私が十分に理解できているかは怪しいですが,全体として特定の主張を展開するというよりも,レトリックについての色々な知見を示しているという印象を受けました。その中でも,日本文化において対面を守る(フェイスへの脅威に対応する)ということが非常に重要な意味を持ち,コミュニケーションにおいて「笑み」が重要な役割を担っているというのは興味深いところです。個人的には,11章での,通常の閣法とは異なって野党議員が答弁者となる野党提案の議員立法の分析を通じて,同じ政党内での質疑には主張の理屈・根拠を示す効果があり,別政党からの質疑が建設的な議論を促すことを示唆しているところは面白いと感じたところでした。検証の方法やデータをもうちょい示してほしいとは思いましたが。

著者のみなさんから『自治体DX推進とオープンデータの活用』を頂きました。DXは個人的にも最近興味を持っているところで,初めの方のオープンデータ活用の流れの整理は有用だと思います。途中からは具体的なオープンデータとして地方議会会議録や選挙公約を使った分析が行われています。プロジェクトで開発されている会議録の検索・可視化システムである「ぎ~みる」の紹介・利用もあり,個人的には会議録を巨大な言語データとしてみて,方言のような言語表現やオノマトペについて分析する,というのがなかなか面白いと感じたところです。

原田久・深谷健・小田勇樹・河合晃一の各先生から,『検証 独立行政法人』をいただきました。実務担当の皆さんとの共同研究の成果として発表されたもので,個人的にも最近パブリック・マネジメントに改めて興味を持つようになっておりまして,非常に興味深く読みました。独立行政法人はデータをなかなかとりづらく,分析が簡単ではない中で,それでも取得できるデータから分析に取り組まれているというのはとても意義深いことで,他の研究者にとっても参考になると思います。

多くの論文で取り組まれているように,独立行政法人の自律性をどう考えるか,どう確保するかは非常に重要なところだと思います。個人的には,特に資産を使ってサービスを提供するようなものは,河合先生が分析されているようにROA(Return on Asset)を中心に考えるべきだと思いつつ,しかしそうはいっても収益の勘定はやはり難しいだろうなあと改めて思いました。単位サービス辺りの収益みたいなことを考えていけば良いとは思うものの,それをしっかり決めるのは難しく,決まらないからこそ投入される国費が不安定になるように感じます。結果として,原田先生の分析でもあるのですが,農水省所管ということで他省庁から攻められる,みたいなことが出てくるとあまり健全でない感じもします。

上の2つの本もそうですが,理論的にもなかなかわかりにくい感じで,データを取るのが難しい,というような分野ではあるわけですが,現実の重要性が大きい中で分析対象を広げていくのは大事な試みだと思います。はじめの分析が終わってデータが公開されて再分析…みたいな感じで少しずつ広がっていくと良いのですが。

 

 

*1:Noldas社のFace Readerというソフトを利用されたとのことです。