日本国憲法の普遍と特異

東京大学のケネス・盛・マッケルウェイン先生から,『日本国憲法の普遍と特異』を頂きました。どうもありがとうございます。ケネスさんの憲法の研究については,ずいぶん前からいろんなところで参照されているわけですが,本書はそのひとつの到達を示すものです。非常に興味深い議論で大変勉強になりました。日本政治や憲法を学ぶ人にとっては必読の研究になるのではないでしょうか。私も同じシリーズの出版があって誇らしいです(便乗ステマ)。

世界の憲法に何が書かれているかについて,比較憲法プロジェクト(Comparative Constitutions Project)のデータベースを用いながら,世界の憲法がどのような特徴を持ち,どのように改正されているか,そして日本国憲法がどのような憲法に似ているか,あるいは異なっているかを分析したうえで,最近の日本での世論調査も使いながら今後どのような展開があり得るのかを論じる非常に興味深い研究です。人権・権利章典については多様なものを並べて硬性に,統治機構については軟性にした方が望ましいとされる/日本についてはそのような特徴を持つ,という議論は非常に説得的でした。第7章以外には記述統計を中心に説明されているのも素晴らしく,元になるデータベースがしっかりしていて,かつ論旨が明瞭であることでそれが可能になったのだと思います。分析の結論から出されていた含意についても,人権については超党派の合意で項目を増やしつつ,緊急事態や統治機構については司法のプレゼンスを高めるかたちでの変更があり得るという議論も納得しました。

統治機構の話は,自分自身も関心を持っているところですが,いろいろと改めて考えるところがありました。司法の役割を憲法に書き込むというのはまずそれで,自分が少し勉強しているからこそ「書いたらどうなるのか/何を書くべきか」ということを考えがちなわけですが,ご著書で書かれているように,法律で変えることができたら別にそれでいいわけですから,より一般的なかたちで司法の役割を向上させる,というご主張は目からウロコというやつでした。その場合,それでは何を敢えて書き込むか,今の憲法でどちらかというと突然詳細を定めているようなものを消すか,と言ったようなことが議論の対象になるかもしれません。

統治機構でもうひとつなるほどと思ったのは,そんなに強く書かれていたわけではないですが,参議院の扱いです。今の日本の憲法改正論議でも,参議院を地方の府にするとか権限を相当弱めるとかいう話がでたりして,聞かれれば私も「そういう考え方もありますね」とは言いますが,本書(89頁)でも国際的には各州への均等配分のようなことはなくなっていると書かれていますし,7章の分析結果からも,人々は一定程度強い参議院を求めているようにも感じます。じゃあどうするか,というとなかなか難しいところで,私はこれまでどっちかというと否定的でしたが,今の衆院小選挙区にして参院を比例にする,みたいなこともあり得るのかもしれません。まあいずれにしても,個々の機関だけではなく,統治機構を総体として考える必要が大きいと思いますが。