産科病棟

昨日の深夜に放送していた中京テレビ制作のNNNドキュメント,「消える産声 産科病棟で何が起きているのか」は非常に興味深い内容だった。ああいう番組をせめて一週間に一回くらいみれるのならば,喜んで受信料を払うのに(民放だけど)。
しばしば言われる話だが,産科病棟は(いつ子どもが生まれるかわからないので)勤務を離れることができず,過重労働になりやすい。特に産科医師が一人しかいない病院では,実質的には24時間年中無休,という話になってしまう。さらに,最近福島県立大野病院の産科医師が,非常に稀なケースの手術で患者が死亡したことを理由に業務上過失致死で逮捕され,そのケースで逮捕されるのであればあまりにもリスクが高すぎて続けられないという理由で産科医師を辞める人々が続出しているという。
http://www.med.or.jp/nichikara/fseimei/index.html
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060303#p1
(このサイトは時間があれば全部目を通してみたい)

医師の立場に立てば,一人である地域のお産に責任を持つのはあまりにも厳しすぎるし,逮捕されて社会的地位を脅かされるリスクまであることを考えると,一人でやってきた産科病棟がどんどん減っていくのはまったく理解できる。残された家族の立場であれば,最愛の人たちが死んでしまったことに対する責任を誰かに問いたくなるのはやはりわかる。それを考えると,「医療ミス(技術的に対応できない事故は除いて)が起きる確率は考えられる限り減らします」という環境−複数のスタッフによる多少は余裕のある勤務環境−を作るしかないんじゃないだろうか。具体的にはある産婦人科医のひとりごとにあるように,一定のスタッフがいる病院以外では帝王切開をそもそも認めない,とか。*1
現在の制度が,一人でやってる医師が全てのリスクを背負って,身近でお産を行うことを可能にしている,ということであれば,長期的には身近でお産ができるという便利さを諦めて,医師を集約することによって少なくとも医療ミスが起こる確率を減らすしかないんだろう*2少子化対策,って今後はそこで子どもを産むコストを均等化していくことに向けられることになるんじゃないか。最近では,厚生労働省も小児科・産科の集約化を試みる都道府県に対して支援を入れているらしい(9月25日の報道)。

もうひとつ,興味深かったのは,NNNドキュメントの中で,三重県尾鷲市が産科病棟に医師を招聘し,年俸5500万くらいの3年契約,というのを提示したところ,市議会から「高すぎる」と猛反発を食らった,という話。いろんなリスクを踏まえるともうそのくらい出さないと医師が来てくれないんだろう,ということなんだろうけども。あまり筋のいい反実仮想ではないですが,議員定数を数人減らすのと,産科医師を一人呼ぶのを考量して住民投票かけたらどうなるんだろ(ってことは考えちゃいけないんでしょうね)。

*1:とはいえ,それでも事故が起きてしまったときに,最愛の人たちの死を受け容れることができるかどうかというのはどうしても別問題になってしまうとは思うけど…

*2:意図せざる集約化が進む中で今度はベッドが足りない,という問題が起きているらしいが