無駄遣い?

最近クリップするニュースがないなぁ,と思いながら書評を書いたのに…。
朝日新聞のこの記事(10月12日)は,結構大きなニュースじゃないだろうか。

「最後のセーフティーネット」と呼ばれる生活保護を受けている人の中に、本来なら公的年金を受け取れたり、通院医療費の給付を受けられたりする人が相当数含まれていることが、会計検査院の調べで分かった。全国で147万人超の受給者数の4%を検査院が抽出して調べただけでも、これらの制度を活用すれば約5億1000万円が節減できたという。指摘を受けた厚生労働省は、事業主体の都道府県や市町村が公的年金や公費負担医療制度の活用状況を確実に把握するよう求める通知を出した。
(中略)
 同(=厚生労働)省保護課は「適正な支給になるよう、注意喚起し、指導を徹底したい」としている。

検査院の指摘ですか。これは結構難しい問題がいろいろとあるような感じがします。ていうか,何をどう「節約」することになるんだろう?生活保護費が「節約」されたところで,同じだけの費用が別の会計にかかるんじゃないの?
だとすると,制度によって国−地方の分担比率がだいぶん違ってくる,という問題があるのはないかと。この書き方だと,年金と精神通院医療の自立支援医療制度というように見えるわけですが,それだけに限定しても結構悩ましい。というのは,生活保護は,一応国が75%を負担するということになっているのに対して,まったく同じサービスを供給するという前提に立てば,年金は地方自治体の側に負担がないので,年金との関係であれば,地方政府にとって「節約」になるものの,国にとっては「負担増」になりうる。それに対して,精神通院医療については,ちょっとだけ調べてみた限り医療になるので,医療保険財政から出ている,ということなのだろう。*1ということは,皆保険とは言っても,常に通院している人が組合健保や政管健保に入っていることは稀であることを考えると*2,市町村の国民健康保険財政に与える影響は小さくない。要するに,それまでは医療扶助ということで国庫補助負担が75%だったものが,今度は利用者が1割の定率負担になって,残りの9割を医療保険から出す,ということになるわけで。この場合,国と地方自治体の一般財源のほうが「節約」にはなるものの,市町村の国民健康保険財政はぜんぜん「節約」どころか,って話になることが考えられる。
これは,公的扶助を中心とした周囲の制度との関係が非常に複雑だからこそ起こる問題で,特に市町村が国民健康保険財政を持たされることによって起こる問題,と考えられるわけですが(ちょうど財政学会で報告した話に近い!)。尤も,今のところ精神通院医療の話がよくわからないので,もう少し見守っておきたいところです。

*1:相変わらず厚生労働省の資料は何を言ってるのかぜんぜんわからない。http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/index.html

*2:うつ病などの人は退職者でいけるのかもしれない