生活保護二題

時事通信がなかなか興味深い記事を配信していたので。

生活保護受給者の透析費用負担転嫁に反対=厚労省に撤回を要請−知事会

全国知事会は11日、国が2007年度から生活保護受給者の人工透析費用を従来の生活保護法に基づく医療扶助から障害者自立支援法による自立支援医療に切り替える方針を示していることについて、国の一部費用負担分を単に地方へ転嫁するものだとして、撤回するよう強く求める緊急要望を厚生労働省に行った。

id:sunaharay:20061012:p2と基本的には同じ話。制度を使う理屈を変えることによって,国と地方の経費負担がガラッと変わってくる。さすがにこのあたりは知らなかったのですが,人工透析を医療扶助から自立支援医療に変えるっていうのは地方にはなかなかきついのではないかと。ていうかこれを自立支援法で行うというのはどういうロジックを使うんだろう?透析患者は障害者という理解になっているんだろうか。ちなみに,時事通信によると,国の補助金の削減費用(医療扶助分)は約180億円で,その分を都道府県157億,市町村23億の負担で賄うらしい。まあこれはなんていうか典型的なOff-loadingだと思うのですが,これはやっぱり立法の時点では基本的に地方の意見が入ってこないことによって生じる問題ではないかと。ただ難しいのは,(詳しく知らないのですが)自立支援医療の適用者をどうやって決めるのか,ということじゃないだろうか。医療扶助は生活保護制度の一つなので,地方政府のソーシャルワーカーを中心に適用を決めるわけですが,同じようなメカニズムになるんだろうか?というのは,もしそこのところの基準が違ってくると,特に自立支援の対象者を決める際の裁量が地方政府に大きいなら,いわゆる"Race to the bottom"で自らの負担を嫌って認定しなくなるのでは?という懸念もあるので。さすがに「医療扶助を受けるべき人」を認定した上で,そのうちの透析患者を自立支援法に回す,というのはちょっとどうかと思うので(だったら医療扶助でやるべきでは?),旧制度で医療扶助を認定されるべき患者,と新制度で自立支援法によって支援を受ける透析患者,が異なってくるという問題が起きたりするのではないかな,というところなわけですが。
うーん。一題目が長すぎたので二題目は簡潔に。

町の生活保護事務を隣接市に委託=岩手県

岩手県は、町村部に対して行っている生活保護事務のうち、藤沢町の事務を隣接する一関市に委託する。両県市の12月議会で同意を得て、来年度から実施する。
これまで同町の生活保護事務は近くの県地方振興局が行っていたが、今年度に実施した振興局再編で遠隔地の振興局に事務が集約された。振興局から同町までは車で1時間近くかかるため、住民の利便性が低下したほか、県も保護対象者の訪問などで負担が大きくなっていた。

もともと町村部の生活保護事務は県の福祉事務所が行うと思うのですが(岩手県は郡部の地方事務所の役割を地方振興局の保健福祉環境部が担うらしい),それを隣の市に委託するっていうのは結構珍しい例のように思うのですがそうでもないのかなぁ。都道府県との垂直的な関係だけではなく,市町村の水平的な委託関係で義務的な事務を処理するという方向は,結局のところいわゆる西尾私案で言われていた方向に近い気がするのだけれども。まあ生活保護事務の場合はもともと町村部の事務について県がやっていたから割とすんなり委託する方向で話が進むことになったんだろうけど,これからはそれ以外の町村固有の(?)事務についても他の市とかに委託が進んでいくんだろうか。