権限委譲

権限委譲がらみの論文を書いていて,やっぱりこの概念はわかりにくいなぁ,と思って仕方がないのですが。僕が見た中で一番すっきりとした整理としては,Martinez-Vazquez, J., C. McLure, and F. Vaillancourt (2006:15)(Bird, R. M., and F. Vaillancourt所収)のものだったのですが。

  • Deconcentralitoin: give regional or local office of the central government decisionmaking power that was previously held by the central government's offices in the capital within parameters specified by the central government
  • Delegation: makes a subnational government responsible for delivering services for which the central government retains responsiblity
  • Devolution: transfers responsiblities for service delivery from the central government to subnational government

つまり,Deconcentrationというのは,出先機関に,これまで中央政府が(首都で)決めていた権限を渡す,で,その権限っていうのは政府が決めた一定のパラメターを操作する権限だ,ということ。次に,Delegationは,中央政府が責任を保持するサービスの提供を下位政府に責任を持たせること,で,Devolutionはサービス提供の責任自体を下位政府に渡すこと,という風に考えられているわけです。
ただまあこれは連邦制を念頭に置いた議論なわけで,単一国家についてこのまま適用するわけにもいかないんじゃないかと思われます。つまり,単一国家では,中央政府が地方政府を内部団体のように扱うことがままあるわけで(特にイギリス)。多くの単一国家では,もともと中央政府と下位政府は(連邦国家と違って)公共サービス供給の責任を共有していると考えられるわけで(Boadway and Mork(2003)),そういう意味では下位政府が供給する公共サービスはそもそもDelegationされている,と。つまり,Delegationという概念それ自体の中にはそもそも「権限委譲」は含まれていないのではないか,と考えられます(つまり,Delegationすることと,その中で権限の配分を決めることとは別問題)。
分権改革以前の日本って,まあ文字通りDelegationが下位政府の仕事のほとんどを占める中で(機関委任事務),パラメターの設定権限を地方に与えなかったということが問題だったのではないかと思うんですよね。一方で,地方は中央が法律で決めてないことはある程度自律的に実施できたわけで(特に公害対策)。そう考えると,ものすごいconcentrationとある程度のdevolutionが混ざり合ってたのではないかなぁ,と思うわけですが。この観点からはやっぱり地方分権一括法って基本的にはdeconcentrationだよなぁ,と思ってしまうところです。

・・・。って実はこれは枕で,最近「自治体法務の備忘録(id:kei-zu)」さん経由で,こちらで「新たな機関委任事務」と揶揄されるという都道府県から市町村への権限委譲の話を見たのですが,どのあたりが「新たな機関委任事務」として揶揄される所以なのかちょっとよくわからなくて。単に委任してるというだけなら法定内自治事務もあんまり変わらないんじゃないかと思ったりするのですが,今度は都道府県が権限をconcentrateした状態で市町村を出先機関代わりに使ってるってことなんでしょうか・・・。

Perspectives on Fiscal Federalism (Wbi Learning Resources Series)

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Fiscal Federalism in Unitary States (Zei Studies in European Economics and Law)

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