第九回会合(2007/6/15)

今回の会合は,夕張市の関係者を招いて,夕張市の破綻問題を検証する,という回になっていたようです。出席者は夕張市から市長・副市長・議会議長,北海道の副知事,総務省は審議官で事業官庁(農水・経産・国交)は担当者(課長くらいな感じがしたけど不明)が出ていて,ホントにずらっと並ぶ様は結構壮観で。内容としては,はじめに夕張市・北海道・総務省が破綻の経緯を説明して,そのあとで事業官庁が国庫補助事業についてちょこっと説明し,その後意見交換。
意見交換は,基本的に委員会側で丹羽委員長+猪瀬委員が話をして,北海道と総務省が中心的に応えてたような感じです。そこで中心的になされていた議論は「破綻が事前にわからなかったのか?」という一点に尽きます。委員会側は猪瀬委員が人件費や公債費のデータを出して,他の同規模自治体と比べて明らかにまずいことがわかるはずだ,危機的な状況がわかっていないわけがない,という感じで質問します。それに対して,道庁・総務省は,経常収支比率や起債制限比率についてはモニターしていて,計画策定の支援などそのフォローもしていたが,夕張市のように会計間にまたがる「不適正な経理処理」をされるとわからない,この日に国会を通った財政健全化法によって新たな指標を管理することによって今後は対応可能になる,という応えにほぼ終始します。おそらくこれは非常に重要なところで,ご関心のある方はぜひこの部分議事録で確認していただきたいところですが(これはあくまで僕の聞き取りなので…),委員長が自らの問題意識を述べた上で総務省に問いかける場面があります。これが今回の会合の問題をほぼ集約していると考えられるので,多少長いですが引用してみます。
まず委員長の問題意識について。強調は引用者です。

<委員長>今日は夕張市と同じようなことがいろんな市,市町村,基礎自治体でも起きてるんじゃないか,あるいはなぜこういう問題が起きているのか,というようなことをみなさんと議論しながら,今後のためにも…例えば中央省庁もある程度わかっていたんじゃないか,例えば交付金とか地方債の発行とかそういう数字は出ているわけですから,中央省庁の方に置かれても,どこがチェックをしているのか,あるいは不適切な経理処理,わからないからとおっしゃるけども過去において数字の累積をご覧になればちょっとおかしいんじゃないかとかいうことを中央省庁のほうでもある程度つかめていたのではないかとか,道庁のほうでもつかめていたのではないか,わしゃ知らないよ,というようなことは夕張市だけの問題ではなくて,ある程度つかめるのではないか。
例えば夕張市の次はどこが同じような状況になるか,一般の国民でもある程度話が出ているくらいですから,中央省庁も当然ある程度の数字をつかんでいるんじゃないか,というようなことをですね…ここで夕張の査問委員会をしているわけじゃないんだから。そういうことではなくて,次から次にまた起きうる可能性がある,みんな主体者としての責任意識がほとんどない,というのでは国民はたまったもんじゃない,ということですから。中央省庁の方々もですね…別に今日は中央省庁を査問しているわけではなにもないですが,ただ数字的に中央省庁が全くつかめないことにあったのか,あるいは不適切な経理処理ということですけども,要するに粉飾決算をしていた,それを全く中央省庁は知らなかったのか,あるいは知ってるけども自分にはあまり関係ない,あるいはこれは夕張市の問題ということなのかですね…いったいどこに大きな原因があったとみなさんはお考えなのか。中央省庁は全く責任ないよ,これは夕張の問題だとか,あるいは北海道の問題なのか,いったいどこがチェックしているのか,そのへんのことをですねみなさんがどう考えておられるのかですね…

このように,「査問の場ではない」「責任をいま問うているわけではない」ことを強調して,今後のための教訓の議論をしよう,という問題意識はよく見えるのではないかと思います。大きな問題意識として「チェック体制」という話を振ろうとしているのですが,残念ながらここで猪瀬委員の発言(経産省に対する質問)が横から入ってしまいます。しかし,そのちょっと後に委員長は具体的には次に引用するように質問します。直前にほぼ同趣旨の質問を北海道副知事に対してしているのですが,総務省の答えは副知事の答えをほぼ完全に含んでいる上に,「申請主義」が問題になるかもしれないという極めて興味深い論点を含んでいるので,こちらを引用します。

<委員長>企業ならとっくに倒産しているわけですよね。数字を見ていると,当然ながら道庁にしろ中央省庁にしろ,交付金をだしているわけですから,数字を見ていればちょっとおかしいな,ということが感じられていることがあるのではないか。もしそれが全くないとしたら日本の国はもうめちゃくちゃですよ,財政状態が。誰も見てないし誰もおかしいとも思わない,いったいどういう仕事をしているのか,どうやって税金を使っているのかということになっちゃうわけですから。今私責任どうのこうの言うつもりはありませんし,これそういう場ではないんですけど,誰かがどっかでおかしいなと思うことはないんですかということをお聞きしたいんですね。おかしい,と思うところがあったとすれば,監視委員会,チェック機関というものがなかったのか,とそれをなんとかこれから作ればなんとかなるのではないか。それも全くないようであれば,今後の日本の国の地方自治はどうなるのか,お先真っ暗で何にもないと。誰も何にも感じない,誰も知らない,どの組織体もこういうことについて全く無関心であると,こんな国あったらめちゃくちゃですよ,そんなことはないだろうと私は思うんですが,その辺について中央省庁はどのように考えておられるんですか?
総務省>不適正な財務処理,いま粉飾といわれましたけれども,そういうのが仮になかったとした場合に,私たちが見ていた指標も全国でワースト10とか一番悪いとかそういう数値になっていたわけで,これは再建の申し出が近々あってもおかしくないなということは当然感じておりましたけれども,旧法下ではあくまでも自主的な申し出による再建ということでございましたわけで,今度の法律のように事前に例えば早期健全化計画を作ることを義務付けるとか,あるいはそれ以上になった場合にはまず財政再生計画を策定することを義務付けるといったようなことにはなっておりませんでしたので,申し出を待っていたといえば待っていたというかたちになっていたのではないかと思います。
それから,不適正な財務処理という件については先ほどの副知事さんからもありましたように,これはどういうやり方でやるかというのは事前になかなか想定ができないので,あとになってみればそういう数値をチェックしておけばわかったのかな,ということは確かにございまして,もし私ども綿密にチェックできるような統計の取り方とか,チェックの手法を開発しておけばよかったということはやや反省すべき点があるな,と思っておりますけれども。
数字を申し上げますと,夕張市は16年度の決算までは実質収支の赤字はゼロでございます。17年度にいたってマイナスの37.8%という数字を出して参りましたけど。これ,申し出がありまして精査した結果で,18年度の赤字の見込みはマイナスの820%というべらぼうな数字になったわけでございます。ですから不適正な財務処理によって外部に隠されていた赤字というものが把握できなかったと。これがしかも外に隠しているものが多いわけです。今回の法律ではそういうことも考慮いたしまして,外にある財政リスクというものもきちんと把握しようという制度に致しましたので,まずは今後はこういうものはチェックできるのではないかと思っております。

少々厳しく考えると,総務省・道庁の立場としては法律でわかるようになってるものはわかるし,法律で見えないものは見えず,それ以上に「客観的に」見えることは残念ながらまずあり得ない(こういう答えに委員長は非常に不満そうでしたが)。そしてその立場を強化するのが申請主義というヤツなのだろう。つまり,財政状態が一番わかるのは当該自治体,というのがあるわけで,「本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫」という考え方になってしまう。これを「監督」と呼べるのか疑問なしとはできないけども,いずれにしても法律の根拠無しに「客観的に」財政状態が悪いとして介入することはできないということが,申請主義の存在によって正当化されることになる。結局のところ,申請主義が前提とされる限り,チェックを受けるほうが表面上の数字さえ取り繕えば「チェック機能」というのはそもそも働かないものになってしまう,ということなのではないだろうか。これはある意味とても自治体の「自己責任」に寄りかかった制度になっているのではないかと思う。その結果,自治体(あるいはその首長)が「申請」や数字の悪化によって問題が表面化し,介入をうけることによって大変な目にあうことが予想されてしまうと,自分の任期中は大変な目に会いたくないと思ったり,もうちょっと辛抱したら景気が回復すると思ったりすれば,「申請」や数字の悪化を先延ばししようとする行動を取ることが考えられるわけで(これはフォーマルモデルで書けると思うのですが)。
あとは露木委員を始めとして,そもそも通常の歳出行動で監査委員や議会が機能を果たしていたのか?という話で,まあ残念ながら…といいますか。やっぱり市の財政部長OBが監査委員をやることになってる,っていうのはちょっとキツイっすよねぇ。
まあこの辺の論点としては,結局誰が責任を持つのか,という話になるのでしょう。だから次に引用する小早川委員のまとめ(というか感想)の通りに議論が進んでいけばいいのかな,と思うわけですが。しかし申請主義をそのままにしておくと結局のところあまり変わらない結果になるんじゃないかな,というのが今日の感想でした。

新しい健全化法が成立して,それによって包括的な情報公開がきちんとできる,そこが主眼だと思いますが,ただ今日の話をうかがっていても情報公開が各会計広くできたとしても,道の話でありましたように,その公開された中からどこにどういうおかしいところがあるかということを具体的に捕まえることがものすごく大変なことであって,それを今後さしあたり都道府県の役割だろうし,それから総務省もあるだろうし,何よりも自治体自身の内部,住民なんですが,情報公開は下手すると開いたからこれで大丈夫ですよねととなってしまいがちで,誰がどれだけの責任を持ってその情報を分析していく,そういう責任を誰がどれだけ負うか,ということがこれから大事なことであって,分権の仕組みを作っていくうえでもこれから議論していかなければならないなぁ,と思いました。