続いて感想と展望。日経の3面でまとめてましたが,民主党が第一会派になった結果(自公が統一会派を作っても届かない!),議長は確定的でしょうから,国会運営上野党は「否決」もそうですが,「時間」というものすごい「物理的な」武器を手に入れることができることが予想されます。*1衆議院で三分の二の数を使って再議決しようと思っても,参議院のほうで60日粘ることができるので,ほっといたら会期が終わってしまって審議未了で廃案,ということが起こりえます。まあ会期延長自体は衆議院の議決が優先されるので(国会法15条),与党側は一応伸ばせるのですが,これも一回だけでどこまで伸ばせばいいものかもよくわからず,じゃあ参議院の60日を織り込んだ上で衆議院でさっさと議決して…というのも数の暴力だ,ってことになるでしょうから難しい(まあこれは野党が参議院で何でもかんでも粘ればいいってもんじゃない,という意味では同じでしょうが)。結果として今回の国会のような重要法案出しまくり,というのはほとんど無理ではないかということが予想されます。
二元代表制,というのは例えばアメリカの大統領制や日本の地方のように,別個に独立した正統性を持つ政治権力が互いに監視しつつバランスをとって並存する状態を指すわけですが,今回の結果は日本の国会の制度が二元代表制に近くて,政治権力の意思が対立する分割政府のような状態に陥る可能性があることを如実に示した結果といえるのではないかと考えられます。アメリカなんて上院と下院で多数派が違いうる上に大統領もいるから三元代表だ,と思わんでもないのですが,日本との大きな違いは政党の規律にあるでしょう。政党規律の弱いアメリカでは,どちらかの政党がある院で少数派でも,対立する政党に所属する議員を巻き込んで多数派をつくることで「議会」の意思を形成し,場合によって「議会」と「大統領」という部門間の対立が発生するものの,少なくとも「議会」の意思形成においてはログローリング(票の貸し合い)のような技術によって政党間対立を固定化させないことが可能とされています。それに対して,日本の場合は政党規律が非常に強いために,固定的な政党間対立が「衆議院」と「参議院」という部門間の対立に重なってしまい,本当に動かなくなる可能性があるのではないかと思います。このように二元代表制で分割政府に陥ったときに立法生産性が下がるかどうか,という話については,そんなに変わらないという話もあるのですが(Mayhew),政党規律の弱いアメリカでは立法生産性に変化はない可能性があるものの,少なくとも最近の日本では固定的な政党間対立を超党派で乗り切るということには慣れてないですし,それをやるにしてもものすごく選択的にしかできないのではないか,というように思われます。
Divided We Govern: Party Control, Lawmaking, and Investigations, 1946-2002, Second Edition
- 作者: David R. Mayhew
- 出版社/メーカー: Yale University Press
- 発売日: 2005/06/11
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参院選の一人区は従来与党が強く野党が弱いとされていたいわゆる「地方部」なわけですが,じゃあもし総選挙と同じような小選挙区制で選挙すれば今度は野党側が凄まじく勝ってるもんなのかなぁ,と。いや,特に根拠は,といわれても困るのですが,衆院選だったらここまで勝たなかったのではないか,と思うんですね。それはいわゆる「政権選択の選挙」でないことを有権者がよく認知していたのではないかと。出口調査の結果を見ると,自民党支持層の約1/4が民主党に投票しているっていう結果もあるみたいですし(フジテレビ),自民党・民主党の両者が自分の支持層を固めて無党派層のところで支持獲得の競争をしていた,というよりも,自民党支持層と前回自民党に入れた無党派層が懲罰的に動いた傾向があります。同じ行動を首相が民主党に移る衆院選でできるのか,というと疑問無しとはできないのですがどうなんでしょうか。前回の総選挙は同じ有権者のプールがあれだけ自民党を勝たせたわけで…。今回の結果を受けて,数年後,「民主党に入れても何も変わらなかった」といってまた自民党に入れそうな気がするんですよね。政権がアジェンダ設定をほぼ独占してるわけで,衆院選で民主党を勝たせてから「何も変わらなかった」というならわかるのですが,分割政府状態にして「何も変わらなかった」はあまりにも無茶だと思うのですが(だって余計「変わりにくく」してるだけなので),なんとなくそういう話になって,結局田中康夫再選状態になりそうな悪寒。