激震人事

多方面で激震の厚生労働省幹部人事ネタですが。牧原先生の分析などで,厚生官僚が「内閣官僚」になっていくプロセスが発見されているものの,その「内閣官僚」というのがどういうものなのかについてはいまいちよくわかっていなかったのではないかと思う。で,今回の人事ネタはその実態について考えさせるものではないだろうか。実は小泉政権5年間の間で,知らないうちに内閣官房に出入りする高級官僚は,出身省庁よりも「内閣官僚」としてのアイデンティティを強く持つことになってたのかもしれない,と思ったり。これまで厚生官僚の指定席とされてきた内閣官房首席内閣参事官(現・内閣総務官)に建設省運輸省出身者が就いているのも,厚生官僚がポストを奪われたというよりも,もっと層の厚い「内閣官僚」が形成されつつあると見ることもできるのかもしれない。
厚生労働省の幹部人事は,「内閣官僚」という実体が存在すると仮定すると,いわゆる「内閣」がそのエイジェントである「内閣官僚」を厚生労働省という現在一番厳しい状況に置かれている省に送り込んだと見れないことはない。そう見ると,別に大臣交代のタイミングはあんまり関係なくて,次官や長官も大臣と同様に(同じレベルとは言わないが)内閣のエイジェントという性格が強いと思われる。ただし,これが実現したのは厚生労働省が持つ特殊な性格があるんじゃないだろうか。それは,キャリアの同期のなかでも優秀な人が「内閣官僚」として官房に取られていくということと(特に厚生省),厚生省と労働省という若干バランスの悪い二つの省がバランスの悪さを無視してたすきがけ人事をすることで,定まったキャリアパスが見えにくい,という性格で,これがあったからこそ今回のような内閣の介入を許すことになったのではないかと思われる。これは曽我先生の受け売りですが,例えば財務省のように官房長→主計局長→事務次官,みたいなキャリアパスが定まっているのであれば,勝手に「衆目が一致」してくるわけでそういった介入は難しくなるだろうけど,厚労省はそういう意味で幹部人事の自律的なキャリアパスを決定する慣行が弱かったのではないか。まあそういうところから「内閣」の幹部人事に対する働きかけは徐々に起こってくることも予想されますが,どうなるんでしょうか。しかし「内閣官僚」という概念はやっぱり面白い。