第15回会合(2007/8/29)

実に一月ぶりの分権委員会。直前に委員長代理が総務大臣として入閣するサプライズがあったわけですが,今回の会合ではその大臣がまずは挨拶。「よもや,立場が変わったからといって意見が変わることはありませんでしょうから」という丹羽委員長のある種の念押しでスタート。で,今回からは3時間ということで最後の方は文脈関係なくなんか好きなこと言う人も出てきて軽いカオス。いやまあ聞くほうにとっても3時間は長い…。この日は知事会の各PT代表者のうち,来る予定だった福祉担当の高知県知事が所要で欠席したのですが,居てたらどういうことになったのだろうかと思ったり…。
会合は,まず知事会の分野別PT代表者のうち,環境(大阪府知事),まちづくり(山形県知事),災害その他(宮城県知事)が各PTの議論の成果を報告するところから。まあ詳しい話はぜひ資料を見ていただきたいところですが(それぞれ比較的コンパクトによくまとまっていると思うので),言ってることは要するに次の三点。まあ聞きようによっては全部同じことを言ってるわけですが。

  • 国の関与を縮減し,権限委譲を進めて欲しい
  • 特に協議の時間がかかる国の同意は要らない
  • 全国一律の基準は止めて地域の特性に配慮できるようにして欲しい

財源の問題については,それこそ地域の特性なのか,大阪府知事一般財源の拡充を強く求めるのに対して,残りの二人は一般財源化についてはそれほど積極的ではないような感じ。財源の問題については道路に絡んで猪瀬委員がオーバーフローしている道路特定財源一般財源として税源移譲するべきという考え方を示すのに対して,知事のほうは慎重な意見だったこともあり,本題として中心的に議論されているわけではない感じ(まあ最後のところで議論(というか意見)は出るわけですが)。正直,なんか質問になってないような質問や,答えになっていないような答えが多くてちょっとまとめるのに苦慮してくるわけですが,今回は法律的な議論に近いものが多く,いつものように極めて的確な質問をされていた小早川委員の質問・コメントを中心にまとめてみようかと思います。
まず,環境分野について

  • 地方環境事務所の話を聞きたい。地方環境事務所が必要なのかを考えるとき,前の分権改革のときに国立公園の維持から環境省が頑張っていまのような形になってきたが自然保護と公害は違う,というのがあってそれが今の話に繋がる。国が責任持って直轄でやるべきことと,同じ環境行政の中でも違う一般的なこと(地域総合的にやるべきもの)を切り分けていくという方向が切り分けていくのが望ましいと思うがどうか。
  • 国立公園の直轄管理は別として,環境全般について地方環境事務所は役に立っているのか?総量削減計画に広域的な見地は必要だと思うが,そのとき地方環境事務所の役割はどのような役割を果たすのか。報告で都道府県立自然公園についての関与の話があったが,ここも環境事務所が噛んでいるのか。この話は都道府県が自然保護をしようとするときに各省庁からいちゃもんが来て時間がかかると理解していて,自然保護は自治体に任せられないよ,という文脈とは違う気がするがどうか。

(今回は直接起こしたわけではなく,大意のみ)

この後の議論を聞いていると,さすがに知事会の方もなんでもかんでも地方で,とは考えていないらしいことがわかります(当たり前か)。環境分野では特に絶滅危惧種対応とか,最先端の化学物質の規制とかそういうところでは国レベルでの対応が必要だろう,ということで。なかなか興味深い意見としては,地方で決めるということになるとやはり最終的に開発優先という姿勢が勝ってくることもありうるために,国のほうで規制をすることも必要になる,というところでしょうか。じゃあ環境アセスメント条例はどうなんだ,というツッコミもあるかもしれませんが,地方自治体自身が開発優先の傾向を持つことに自覚的で,それを前提として環境保護を考えるときに,国という外部者を利用するという考え方は合理的ではないかと思われます。まあただし,現状では地方環境事務所はそんな役割を果たしているとは言えず,地方自治体にとって「全く存在感がない」ということだそうですが…。しかしあまりに存在感がないために,「同じことをしてるかもしれない」という意味で二重行政が懸念される,ってのはどうなんすかねぇ…。
地方の側としては,例えば大気汚染の総量削減計画を作るときに,国の基本方針のもとで事前協議をしているのに,さらに同意を取らなくてはいけないというところに煩雑さを感じるということだそうです。それが「ここで議論するほど本当に煩雑なのか?」と委員長からツッコミが入っているのですが,まあそれはそれとして,問題としては小早川委員の次のようなまとめになるのではないでしょうか。

国が基本方針を定めて,それを踏まえて削減計画を都道府県が立てる,それについて同意がいる。同じことを二回持っていくわけではないが,都道府県は方針に従っているわけだから,それについて国がチェックしてわざわざ同意というほどではない。これは万一違っていたら是正の要求をすればいいということ。第一次改革のときに同意を認めてしまったというところがあるが,何でも計画を作らせるというスタイル自体が問題なのではないか。

万一国が容認できなければ是正の要求をすればいい,というのはその通りかと。ただ現行制度では,地方のほうがその是正要求を無視した場合でも国は国地方係争処理委員会に出訴することができない,という問題点があるので,このあたりを何とかする必要はあるのでは(法制局マター??)
次にまちづくり。

(国の関与の関連で)都市計画決定の前の法定手続きの前に任意の手続きがあって大変だ,ということ。任意とはいっても霞ヶ関の方で一方的に決めてこれでやってくれ,ということになっていて,これが問題ということだとは思う。しかし他方で,特定の都市計画については国の同意がいるという規定になっているわけだから,スムーズに同意が出るためには事前のすり合わせをしたほうが効率的,と国が言うのではないかと。だからそういうやり方をするのであれば,自治体の言い分を聞いたうえで決める方がすっきりするのではないか(一方的に,というのがまずいということ)。

知事会PTの主張としては,地域に関わることを知っているのは都道府県・市町村であり,法律がありスムーズに物事を運ぶために任意の事前協議をするということではなく,協議手続きを完結するに当たって,地方が完結した手続きができるように法律を改正しなくてはいけない,というもの。まあ確かに国交省と3回(法定1回,任意2回)協議しつつ,農水(3回),経産・環境など(2回)しかも国土交通省を通して,というのは大変だし時間がかかるのは間違いない。それを踏まえて小早川委員は,「根っこの同意制の問題だと思うが,同意制はおいておくとしても,都道府県を信用して,原則としてすんなりと同意するということで,下手続きが必要なくなる,という感じでしょうか」と水を向けるものの,PT代表者の山形県知事は,そういう風に運用でやろうとすると担当者の理解に強く依存し,役所としては一旦得た権限を使おうとすることを懸念する感じ。ただ同意制を完全に外してしまうと,国・地方の両方が勝手に好きなことをやる,というシステム担ってしまう可能性もあるのではないだろうか。それを排除しようとすれば,国だけ・地方だけしかやらない分野を作るべき(憲法的に決めるべき)だろうけど,今のところそういうシステムではないわけで,小早川先生の提案が現実的な解決ではないかと思ったりするわけですが。
で,最後の災害その他。これはその他が入っててなんだかごった煮なところはありますが。しかしここでいわれているように,国庫補助施設の用途変更の制限について各省の対応がこれだけ違うとしたら大変だろうなぁ…。まあそれはある意味誰かが統一基準を作ればいいので,とりあえずここでは災害関係の話(まちづくり,とも関わるが)。

大災害の対応というのは国がやるしかない,というのはある種の常識で,道州制を視野に入れたら違うと思うが,都道府県が市町村に対して緊急の出動ができる体制というのは準備されているのか。消防なんかである程度広域化という方向があると思うが,例えば河川などの災害において,都道府県が自前の緊急部隊を持つという発想についてはどう考えるか。(…この後回答が入るもののあまり意図が伝わっておらず…)例えば水害なんかに関して,災害対応の能力は国しかないんだから,大規模・重要な河川については一級河川にせざるを得ない,という論理があるわけだが,そういう論理はどうか,ということ。

知事会のほうでも,自然災害への対応は国が本来果たすべき役割ではないか,というのはあるものの,全体の分権のことを考えたら,重要なのは国が管理している人・技術・財源なわけで,支分部局の廃止と併せてそういうものが地方に移譲されてくれば,県の管理もできることになるのだろうという整理をかけているようです。で,具体的な提言(まちづくり)として,ひとつの県内で完結するもの(一級河川の管理)については県に任せてはどうかということが謳われているということです。その後の小早川先生のコメントにもありますが,県内で完結する河川については,というのは重要で,国交省から「大きな川を管理するのは県には無理」といわれたとしても,人や技術・財源を移譲することで肩代わりできる,ということを訴えるのは重要ではないかと思われます。もちろんこれは「やってみないとわからない」というところではありますが,実際に災害対応するのは現場の人やその機関が持つ技術・財源なわけで,それごと地方へ移譲すれば河川管理・災害対応ができないという理屈を立てるのは難しいように思えますが。まあひとつには県ごとに管理体制を用意するのと比べて,複数の県をみる地方支分部局による管理体制では規模の経済が利く,ということがあるのかもしれませんが,実際支分部局の下に地方事務所が(県ごとに)あったりもするわけで,本当に規模の経済が利くかどうかは実証研究の課題といえるかもしれません。
まあこんな感じで小早川委員の質問・コメントが主要な論点をカバーしているとは思うのですが。あとちょっと面白かったのは,最後のところで大阪府知事が兎に角交付税が減って困る,というところ。大阪府知事によると,地方の疲弊を国が責任を持って救済すべきであり,都市の法人二税の論議をする以前に,地方の一般財源を確保することが必要で,国が一義的な責任を負わないと,法人二税の議論はできないということだそうです。地方が自らの責任で地方消費税増税を発議するのも,国が地方の一般財源を確保した後,ということだそうなのですが…。国の財政状況はプライマリーバランスの赤字がある中で,これっていうのは国のほうで何らかのかたちで増税して地方の一般財源を確保しろ,って主張してるのとは違うんですかね…。よくわからん。