第17回会合(2007/9/13)

後継首相は,まさに一夜にして流れが変わったわけですが,このような情勢になってくるとやはり内閣改造は大幅にならざるを得ないのではないかと。まあもちろん地方票次第ではもう一度どんでん返しが起こる可能性がないでもないわけではありますが。ただ小泉政権を引き継いだ安倍政権をさらに引き継ぐと目された麻生氏はどちらかというと改革に距離を置いて地方を重視するといったような評価をされ*1,途中で小泉政権から距離を置いた福田氏が改革路線を引き継ぐ,というような色分けはちょっとわかりにくい。情勢が変わった当初は,福田氏が「改革」路線から距離を置いて「人心一新」→内閣大幅改造,かとも思っていたのですが,そうでもないのかなぁ,というか,いまのところ「改革」と「人心一新」が両立するようにはとても見えないのですが。ま,民間から入った人は「いきなりやめさせるのは失礼」とかそういう話で残ったりするのかもしれませんが…。
さて地方分権改革推進委員会は17回目の会合です。この二回,知事会の代表から意見を聞いていたのに引き続き,今回は市長会と町村会の代表者から話を聞くスタイルになります。過去二回同様,国からの支障事例を中心に話をされていくわけですが,正直なところこのスタイルはやはり問題があるのではないかと。問題の中身は,前回高知県の健康福祉部長がおっしゃったとおりだと思うのですが,議論される内容は知事会のときとあんまり変わらないし,なんていうか,ちょっと言い方は悪いかもしれませんが,ものすごく陳情っぽくなってしまっているように思える。*2これをやってしまうと,問題がものすごく細かいものに見えてしまうし,何より国の「関与が必要」という主張と説明になっていない説明で却下されると,その岩盤を崩すのが極めて難しくなるのではないだろうか。実際,知事会・市長会から出された支障事例の検討についての国からの回答(知事会分・市長会分)を見ても,ほとんどが「見直し措置は不要」って回答なわけだし。何を言ったってNo!っていうことが決まっている人たちに説得っていう作業がそもそも可能だとはあまり思えないわけで,そうなると別の方法を考える方が生産的なのではないかと思ったりするのですが。例えば,一度10年くらい少なくとも自治事務について国の関与をやめてみて,国のほうから「支障事例」があったらそれを再検討する,といったような。まあこの手の制度で実験的にやるのはこれまで何度も挫折しているわけですが(パイロット制度・特区制度),全国的にできないのであればせめて北海道だけとか九州だけやるとか…まあ難しいかなぁ。
もし自治体が国から自治事務の執行を「委任」されているのであれば,授権された権限の行使として大臣名を使ってみて,もし国のほうから是正の要求があれば国地方係争処理委員会で法令解釈を巡って戦う,ということもできるような気もしますが,現状の制度では形式上「委任」でないことを考えるとそれもちょっと難しい。法令解釈を巡って国地方係争処理委員会で争うことに重点を置こうとしても,「同意」がある限り,そして立法で例えば「厚生労働大臣が」とか「文部科学大臣の意見を聞かなければならない」って書かれている限り,法令解釈以前の段階で,地方が国をすっ飛ばすことが難しい仕組みになっているということなのでしょう。いまの委員会の進め方は,こういう法令の「大臣」が出てくる文言のひとつひとつを「都道府県知事」とか「市町村長」とかに修正したり,削除したりしようとしているのではないかと思いますが,これはやはりアリ地獄に近い話ではないかと思わずにはいられないところです。
まあもちろん,全部地方に任せたらいい,というわけではないことは事実だと思います。今回の会合では,小早川委員が次のような質問をしています。

市町村の区域内で事業をやっている人と住民の利害が対立する,あるいは新住民と旧住民の土地利用の対立があったとき,確かに市町村は直接住民の声を聞くことになると思うが,その辺の利害調整は法律や条令に照らしてびしっといえるものか?(大意)

つまり,規制権限を特に市町村に委ねると,利害関係者に取り込まれる虞があるのではないか,という論点です。市町村合併の進展で広域化が進んだり,情報公開が促進されていたりすることでその虞は少なくなっている,というのが市長の回答ですが,この点については道州制を活用するかどうか,ということも含めて,おそらく一定の考慮が必要になろうかとは思われます。
最後に,町村の代表についてはやや主張の色合いが違う印象を受けた,ということも一応記録を。町村側としては,広域連合の活用に活路を見出そうとする志向がとても伝わってきますが,やはり財源が少ない町村が,近隣の市と直接的に競争をするのが辛い,というのがひとつの論点のようです。例えば多くの自治体が行っている乳幼児医療の無料化は,基本的に単独事業で行われているようですが,近隣の市がこの事業を行っているときに財政力の弱い町村がそれを無視するわけにはいかないと。結果,他の事業を切ってでもこういう単独事業にお金を突っ込まないといけないのは苦しい,という話でした。理屈としては,やはり増税みたいな負担無しにサービスを増やすことができるところとそうではないところが存在するのは公平とはいえない,という抽象的な話になるわけですが,町村としては平等な競争条件とはいえないところで競争を強いられているような意識が強いのはよくわかるかな,というのが率直な感想でしょうか。教科書的にはこういうときに,サービスの対価として(限界的な)増税を考えるべきだ,ということになるわけですが,一方で限界的な増税なしに余裕でそういうサービスを供給できる自治体が周辺に存在しているとすれば,馬鹿らしくて増税の対価としてサービスの供給を受ける,という考えにはならないだろうなぁ,と。その点では,いわゆる「ギア効果」はあるものの,平等にみんなが「交付団体」で,一応全ての自治体が,中央で定めたサービスよりも追加的なサービスをするためには増税が必要になるようなイギリスの制度は一定の合理性があるのではないか,と思ったりするわけです。

*1:たぶん,「小泉が壊した自民党を立て直す」という言い回しとか,平沼復党がきいているのでしょうが。

*2:まあ民生委員の定員まで国が決めようとしているという話はちょっと驚いたわけですが…。民生委員ってボランティアで,国が金出しているわけでもないのに…と。まあ委嘱状を出すための金が増えるから,とかいうのがあるかもしれませんが,だったらそもそも大臣の委嘱なんてやめればいいわけで。