全国町村会長逮捕

朝起きてTwitterを見ていたら,逢坂議員のTwitで全国町村会長が逮捕されたという話が出ていて驚く。

中島前副知事を逮捕 福岡県町村会事件 100万円収賄の疑い 県警 山本会長は贈賄容疑
福岡県警捜査2課と博多署は2日、後期高齢者医療制度の運用をめぐり、中島孝之前副知事(67)=福岡県太宰府市青山1丁目=が県町村会側に便宜を図った見返りに現金を受け取ったとして、収賄容疑で中島前副知事を、贈賄容疑で県町村会長の山本文男・添田町長(84)=同県添田町添田=をそれぞれ逮捕した。
県町村会幹部の架空請求による詐欺事件は、10年にわたり麻生渡福岡県政のナンバー2の地位にあった中島前副知事と、全国町村会長の要職も務める山本会長をめぐる汚職事件へと発展した。
県警の調べでは、裏金接待疑惑で辞任した中島前副知事は、県内の全市町村でつくる「県後期高齢者医療広域連合」の設立に際し、町村会側に有利な条件になるよう便宜を図り、2007年8月上旬ごろ、福岡市内で山本会長から謝礼などとして現金100万円を受け取った疑い。2人とも容疑を認めているという。
中島前副知事は、広域連合の運営方法を決める設立準備委員会で会長を務め、山本会長は副会長だった。県警は、中島前副知事の職務権限について「市町村に対する勧告、助言などの権限があった」としている。(以下略)

福岡県の副知事の接待疑惑については一応存在は確認していたものの,詳しい話は知らなかったので少しまとめてみるとこんな感じらしい。まず,はじめに問題になっていたのは,福岡県の町村会における不正経理の問題。11月末に福岡県町村会の幹部が,2006年3月上旬〜07年12月上旬に印刷会社から事務用品を購入したとする架空の請求書を同会事務局に提出して現金計約100万円をだまし取った疑いで逮捕されます。業者に架空の請求書を作らせて,その分を不正に裏金にするという,しばしば問題になるやり方での逮捕です。その後12月中旬に,起訴された被告が,詐取して作った裏金を使って福岡県副知事をはじめとする県幹部に接待を行っていたという供述を行い,問題が拡大することになります。ただ,この時点では裏金を使った接待が問題ということで,とりあえずは裏金を詐欺で作ったことのみが犯罪であり,接待を受けた側については「道義的責任」があるということで,副知事は辞職,他の県職員(退職者も含む)に対して調査が行われるということになっていました。
それが2月に入って急展開します。それは要するに単なる接待(何が「単なる」なのかよくわかりませんが)というのではなくて,便宜の提供を図ってもらった見返りとしての接待であるということで,便宜を依頼した側の福岡県町村会長(全国町村会長)と,接待を受けて便宜を図った副知事が逮捕される,という事態になったようです。疑惑の具体的な内容については,西日本新聞この記事でよくまとめられていると思われますが,これがまたなかなか微妙な問題。ざっくり言うと,町村会の側は県後期高齢者医療広域連合の「議員定数」の調整において,全町村からの議員参加を求めて議員定数を増やすことを望んでおり,広域連合設立準備委員会の委員長を務めていた副知事が働きかけをすることで(議員定数を少なくするよう求める市長会を抑えて)議員定数が全国最多の「77人」になったということ。ストーリーとしては,2006年10月から始まった設立準備委員会の幹事会では当初全く議論が噛みあわなかったものの,2007年2月に突然町村会側の意向に配慮して「当初2年は77人,その後34人」という線で決まることになり,町村会側は2007年8月に会長から副知事に謝礼として100万円が渡されたということになっているらしい。
率直に言ってこのストーリーは行政学の研究者として非常に興味深い。まずひとつは,しばしば何をやっているのかわからないと批判を浴びることになる広域連合の議会(一部事務組合の議会も)において,町村の数の力が重要になるほどに実質的な決定がなされているということなのだろうか,という問題を想起させる。特に後期高齢者医療制度の広域連合で,具体的に誰が保険料?の額を決めるなどのアジェンダ・セッティングを行うのかは現状ではよく分からない。県は医療計画を作っているとはいえ,もともと医療保険を扱っていないし,医療保険を扱ってきた市町村がその場で決めるというのも難しい。単純な予想だが,県によっては医療計画を作っていたような県の部署が広域連合の事務局を中心的に担ったり,一部のリーダーシップの強い市が事務局を中心的に担ったりするバリエーションがありうるのではないだろうか。福岡県の場合どうなってるのかよくわからないが。
次に,県の副知事が便宜を図った,という話での副知事の職務権限について。最近よく聞くのは市町村が強くなってなかなか県の言うことを聞かない,というところだが,福岡県の場合は設立準備委員会の委員長をやっていたとはいえ,副知事にそれほど強い調整権限があったということなのだろうか。特に今回の場合は広域連合議員の人数という非常にはっきりしたところの話であって,アジェンダ・セッティングを行うロジで簡単にごまかすというような話ではないだろう。強く反対して議論すら噛みあわなかった市長会を一発でまとめるというのは簡単なことではないと思われる。また,これは事件自体の問題になるが,贈賄側の町村会長は謝礼を出すにせよ出さないにせよ議員定数を拡大することを目指すし,それはおそらく(町長個人の利益ではなく)過疎地・町村部の集合的な利益ということで説明できるのではないか。その観点から言えば,非常に影響力が強いとされる町村会長を筆頭とした町村会が政治過程で働きかければ,副知事が当初どういう態度であれ結果は変わらなかったとは言えない,という反事実的な反論をうまく否定することはできるのだろうか。それにひどくぶっちゃけたことを言えば,町村会の側としては100万円で高齢者医療制度における保険料を低減させる力を得ることができれば,それは住民のためにも意味のあることだと思うし,逆に100万円でそういう決定が実現できるとはあんまり考えにくい。要するに,この100万円を出した,という事実と(影響力を持っているとされる)広域連合の議員定数の決定に裁量を効かせた,という事実?がうまくマッチするのかどうかよくわからないところなのですが。
もちろん接待を肯定するつもりは全くないですが,"Crony"で長期的な関係を築いている接待のようなものと,個別の影響力行使を一対一で対応させることは難しいのではないか,と。おそらく根本的な問題は(良いか悪いかを含めて)その長期的な関係をこれからどう扱っていくか,というところにあるわけで,その辺に地域性を許容するかどうかということも,今後の地方分権の問題になっていくような気がします。