第18回会合(2007/9/18)

しばらく〆切間際の学会報告の論文を書いていたら,ここに来て週に2回って。まあこの辺のヒアリングはある意味で夏休みの宿題を確認していくようなところがあるので,スケジュールがあき次第,サクサクとやっていこう,ということなんでしょうが。とりあえず第18回は片山前鳥取県知事と環境省ヒアリング。正直言ってなぜ片山前知事のみに話を聞くのかはいまいちわかりません。いわゆる改革派知事枠で行くなら,先ごろ東京都の知事選で落ちた人とか,三重の元知事も呼んであげればいいのに,と思ったりするのですが…。すわ委員長代理後任の面接か!?と思ったりするのですが,最後の記者質問で岩手日報の記者が猪瀬委員に軽く振ってみたところ,猪瀬委員は「片山さんみたいな人に入ってもらえればねぇ」と割と軽く応じてたので,逆によくわからん,というところでしょうか。
で,まずは「北海道は一番酷い」発言が物議を醸している片山前知事ですが,お話自体はまあわりと普通めな感じ。まずいって言うなら北海道が酷いっていうのよりも成年後見制度のたとえの方が問題ありそうな気もしますが,ちょっと意地悪にまとめると,要するに「なんだかんだと関与を続ける国も悪い」「きっちりやってない自治体(首長・議会・行政委員会)も悪い」でも鳥取はやっていたのだよ,という話。ただまあアイデアとして,地方がやるべき仕事が多すぎる状況の中でどのようにすれば効率的に自主的な行政執行を行うことができるか,という議論をされようとしている感じはわかります。
いろいろ問題は指摘されていますが,主な主張は二点。ひとつは中央政府は地方政府に対して透明性の高いルールに則って接するべきだ,ということ。なかなか印象的なのは,地方交付税についても総額の大きさよりもルールの透明性のほうが重要だ,と言い切るあたりでしょうか。要は見通しさえ立てば,あとは地方で勝手にやることができるはずで,国としてはむしろ地方を「苦労させる」ようにすることこそが自立への道だ,といったような感じ。まあたいていのところについてはきっとそうなんだろうなぁ,とは思うのですが,金融機関に監視させるということで地方債の発行は地方に勝手にやらせるべきだ,というのは大丈夫なんですかね。金利が各地方自治体によってエラク違う,っていうことになるのはさすがに問題ではないかと思ったりするのですが。で,「元利償還の交付税措置が(最近の)地方のモラルハザードを誘発して財政危機が進んだ」というのはどっかで聞いているような話ですが,片山知事がこういうところでそういう発言をするのはやや意外。
もうひとつは,特に地方議会に議席を占める議員の多くが職業政治家であることへの批判。片山知事がしばしば発言していた「地方議会改革」というのは,議会に職業政治家以外の議員を送り込むことではないかと思われます。とりあえず議会を通年・夜間にしたり,失職規定をなくしたりとかそういう話になるかと思いますが。しかし,もう少し大きな意味での「地方議会改革」としては,例えば公職選挙法の一人一票のルールを外したり(なって欲しくない人に投票するとか),選挙区での当選者の数をそろえるとかそういうことが重要だったりするのではないかと思ったり。市町村はともかく,都道府県議会はいびつな中選挙区制で行われることで流動性がなくなっているところもあるわけで,この際選挙制度までも含めた改革まで訴えて欲しい,というところでしょうか。
もうひとつかなり興味深かったのは,片山知事が「司法の分権に対する理解度が低い」という問題を挙げていたところ。前知事は,「地方自治法の別表で規定されているはずの法定受託事務が勝手に拡大しつつあるのは大変な問題」と言っていて,何のことだろう,と思っていたら,こういう事例があったようです。裁判所が,別表で法定受託事務として定められていない事務(=自動的に自治事務になるはず)について,「法定受託事務に付随し密接に関連する自治事務」なる概念を作り出して各大臣の都道府県の自治事務に対する関与を認めたことが,関与法定主義に反するとして激しい批判をしています。これが最高裁まで行って結局鳥取県は敗訴したのですが(しかしなぜか最高裁の裁判に,行政法専門で地方分権改革とも関連が深いはずの藤田宙靖判事はいない),第一次分権改革の議論を踏まえると確かに自治事務に対して法律で定められてない介入を行うのは筋違いではないか,と感じます。特に,高裁判決では法的に自治事務として認めたうえで,なぜか従前機関委任事務であったことを持ち出しつつ,国の関与(具体的には文化庁次長の通達により処理基準の設定)を認めていますが,これはやはりどうかと。法定受託事務と認められないようなかたちで法律を設計してしまった以上,そこは自治事務として地方の言い分を認める,ということをしていかないと,また地方が国からの通達(のようなもの)に対して必要以上に萎縮することになる,というネガティブな影響が発生してしまうように思われます。
で,次は環境省ヒアリング。この二回ほど,地方側の要望がしょーもないと思われるのではないか,ということを書いていましたが,いやいやいや。それにもまして中央政府側の擁護の理由がキツイ…。まあ例えば輸出入禁止の生物に対する監督なんか税関と協力して水際でやるときに,国として一律にやらないといけない,というのはわからんでもないですが,あとはなんだか「広域的な調整」ばっかり。率直に言ってそれが具体的に何をすることなのかはさっぱりわからないし,各委員からは逆に「そんな少ない人数で広域的な調整なんてできてるのか?」といわれる始末…。まあ実際環境省が一番叩きやすくて叩かれてる,って言うところはあるようにも思いますが,それにしても省庁にはもうちょっときっちりとした筋論を展開して欲しいところ。
重要な問題については小早川委員が指摘していきます。まずしばしば問題になってる同意と協議の話について

  • 国のほうの計画と違っていればすぐに直してもらえばいいわけで,そのために全部網をかけて同意付協議をやるのはどうかと
  • 支障事例を見ると,かなりの部分は計画策定における協議・同意に意味があるのかと,過去のいきさつはあるとしても,必要性は論証できるのか

環境省の言い分では,地方環境事務所が協議に加わっているので,協議が終わり次第素早く承認を出せる,というのですが,そうすると当然のように「それでは協議してるなら同意はいらないじゃないか」といわれてしまいます。確かに環境省は他の役所と比べて地方事務所の位置づけが不明確なところがあって,委員会の議論でも出てきますが,(1)グローバル化とともに国が担うべき部分が増えている環境問題について国の手足として執行する,(2)都道府県が基本的に執行するが,地方事務所はその広域的な調整・指導を行う,という二つのことをやろうとしているところがあります。しかし知事に言わせると存在感がないわけで,知事からすると(1)をやっているかどうかは知らないが(2)の機能は果たしていない,ということになるのではないかと。(1)は一般的に言われる「二重行政」ですが,もし環境省が国と地方でやっている執行が違うことを立証できれば,この形態での存続は必要ということになるでしょう。しかし(2)として重要だというのであれば,少なくとも例えば地方事務所に同意権限くらいおろすことは必要で,ただの御用聞きであればいらない,といわれても仕方がないのではないかと思われます。まあ同意権限をおろしたものの,地方事務所長が結局何も自分で決められなくていちいち本省にお伺いを立てるという話になったら余計に酷い結末,ということかもしれませんが。
いずれにしても,環境省の本省が(いや環境省だけに限りませんが)同意権をたてに地方に関与する,というのはいろいろな意味でよくわかりません。国としては責任が持てない,とかいうわけですが,そしたら地方環境事務所の協議は一体何なのか,というところもあるし,何より疑問なのは,小早川委員が言うように,問題が起きたときに是正の要求をするというのではダメなのか,というところです。マジメに執行をやってるのであれば,当然計画が実行段階に入ってからもフォローをするだろうし,そのときに問題があれば是正要求もできるでしょう。逆に考えると同意で終わらす,というのはそういう仕事をしなくてもいい,ということなのかもしれません。そんなことは人員的にチェックできない,というかもしれませんが,「でも同意を与えて責任取ってるんでしょ?」といわれたらどうするんだろう,と他人事ながら些か心配になってくるわけですが…。