多選禁止条例可決!?

三連休は結局ずっと某学会。当初思ってたよりも多くのセッションに参加したような気がします…。今回の学会で一番良かったのは共通論題でN先生の報告を見れたことでしょうか。ネタ自体も興味深かったですが,何よりプレゼンの技術を見習いたいと。あのやり方が必ずしも自分の書く論文とマッチしたものとは限りませんが,取り入れるべきところは非常に多く,機会があればやり方を真似させてもらおうかと思ったり。自分の報告は最近さすがに慣れてきたところもあって(いつも通りのやり方で…)まあ淡々と終わり,コメントも建設的なものを頂いたのではないかと。でもデータ整理しなおすのはちょっと大変ですがどうしようかなぁ…。
さて,速報ですが,神奈川で多選禁止条例が委員会で通ったらしいっす。ただまあ条例施行は「国の法改正を踏まえ」ということですぐではないということだそうです。

◎知事の多選禁止を条例化へ=全国初、国に法改正促す−神奈川県会委
神奈川県議会総務企画常任委員会は10日未明、松沢成文知事が提出した同県知事の任期を恒久的に連続3期12年までとする多選禁止条例案を全会一致で可決した。多選自粛を条例化する自治体は多いが、明確に禁止するのは全国初。12日の本会議で可決・成立する見通し。ただ、施行日は、県が当初予定していた10月下旬から、「国の法改正を踏まえ改めて条例で定める」と条例案を修正、施行は国の対応を待つことになる。
同委はまた、施行日について「法的課題が解決されるまで待つべきだ」として、国に対し条例化の根拠となる法整備を急ぐよう求める決議案を採択。同委終了後、松沢知事も記者団に「(多選制限の)仕組みを作り上げることが私の目標。この条例案がしっかり施行できるよう、県議会とともに総務省や各政党に地方自治法改正を求めていきたい」と語った。これで、国は議論を加速させることを求められそうだ。

多選禁止についてはこのブログでも何回か書いてます。
[研究]多選禁止?
[研究][雑感]謎が多い。
[研究][雑感]「知事経験者」?
[研究][雑感]多選禁止
[雑感][研究]多選禁止の法制化?
まあちょっと読み返してみると,毎度脊髄反射で同じ様なこと書いてるのですが…OTZしかしとうとう条例可決っていうのはなんだかスゴイなぁ,と思います。職業選択云々よりも個人的に一番大きな問題は地方議会が知事に対して不信任を行う可能性をを持つ(そして知事が議会の解散権を持ち)という知事−地方議会の信任関係を残しながら知事の方で一方的に多選禁止を入れるというのは,ただでさえわかりにくい知事・議会(そして住民)の信任関係をさらに複雑なものにしてしまうような気がします。
アメリカの実証分析でも,任期制限(Term Limit)がついている場合には,一期目の知事が次の選挙で当選するために抑制的な財政運営をするのに対して,二期目には特に(もちろんアメリカの)民主党の知事を中心に財政を拡大させる傾向が見られるという結果が報告されています(Besley and Case, 1995,QJE)。拡大的な傾向を持つ民主党が(有権者の)選好に沿って財政を拡大させた,ということについてはまあそれもひとつの選択か,というところもありますが,そういう政党の選好を考慮しない大統領制の国際比較でも,最終任期の大統領は財政を拡張させる傾向があるという結果が出ていて,多選禁止を入れることで「次の選挙」のための評判を維持することを目指すというコントロールが利かないのではないかという議論もあります(Johnson and Crain, 2004, Public Choice)。信任関係という制度的な問題以外では,このような「次の選挙」による規律をどう考えるかがひとつのポイントになるかと思います。まあ現在の日本の場合では,知事はあまり地方税(特に住民税・固定資産税)をいじりませんし,地方債の大きさが選挙できいてくることは少ないと見方もありうるので,「次の選挙」による規律はたいしたものではないという判断もありうるのかもしれませんが…。
あるいは多選禁止の動きに対して若干好意的に見ると,こういう動きは,信任関係や「次の選挙」による規律をほったらかしにしても多選禁止を導入しないといけないほど,知事への権力集中が激しくなるという問題意識が強い,ということの表れなのかもしれません。関係者が,住民の選挙による規律付けが難しいと考えていて,法律/条例によって何とかしなくてはいけないというくらいに知事への権力集中が激しいのだとしたら,それはまあやはり問題のような気はしますが…。しかしそうであるとしても,それでは新しい知事が多選禁止条例の廃止を決める条例案を出してきたらどうなるんだろうか…そこは地方議会がお得意のStatus Quoを守るという行動に出る,ということを信頼してるんですかね…。国が一律に規制するという手段を除外したうえで,そういうoverrideを防ぐためには,やはりアメリカの州憲法的なものや,そこまで行かなくてもひっくり返すには特別多数決を必要とする根本的なルールという位置づけが必要な気はします…ただし信任関係など関連するほかのルールと一緒に,ということだと思いますが。