第22回会合(2007/10/10)

今回は国土交通省から道路局と河川局のヒアリング。おそらく両方とも話されている議論はほとんど同じで,(1)国が道路・河川を管理する区間(=直轄区間)について,国から地方へ管理の権限移譲を行うかどうか,(2)都道府県管理の区間についてその事務を法定受託事務から自治事務に変更できないのか,(3)道路・河川整備における国の基準が厳しすぎるのではないか,といったような内容。率直に言って僕には道路・河川の技術的なところはさっぱりわかりませんので,「高度な技術力が必要」あるいは「平時と災害時は違うのだよ」という主張を中心とする国交省の説明に対する評価はできませんが,まあわかる範囲で今回の議論のまとめを。
まず直轄区間の話について。まず前提として,日本の道路はほとんどが直轄区間であるところのいわゆる二桁国道(直轄国道)と,一部に直轄区間を含む三桁国道(補助国道),それから都道府県道・市町村道などによって成り立っています。このうち直轄区間は国の管理で,補助国道の直轄区間以外の部分は都道府県知事管理(法定受託事務)になっています。一方河川のほうは一級河川のうち指定区間について都道府県が管理(法定受託事務),指定区間外は国による直轄管理で二級河川は基本的に都道府県知事の管理(法定受託事務)となっています。なお国道の場合には「指定区間」は国管理であるのに対して河川の方の「指定区間」は都道府県管理になっていて,ちょっとややこしいので,以下国が管理する区間を単に「直轄区間」と呼びます。
まず議論になっているのは,直轄区間を減らして都道府県知事の管理に委ねることができないかというところにあります。国交省側の反論としては,全国的なネットワークの整備の必要性があることや,大規模な投資・高度な技術力が必要だったりすること,さらに災害対応のための人員を都道府県ごとに抱えるのは非効率だ,ということで,現行の直轄区間について現状通り国の管理が必要,というものになっています。大きな財源や高度な技術力が必要なのである程度管理者の規模が必要,というような議論は,他の省庁で言うと経産省がやってた議論に近いのではないかと思われます。その主張については個人的にはまあわからんでもないなぁ,とも思ったりするのですが,委員の側の主張としては,平時と災害時の管理を分けた上で,少なくとも平時の管理であれば都道府県にできるだろう,というものになっています。その意見を受けた国交省側は,平時の管理が災害時の管理に繋がるので両者は密接不可分だ,という主張をしてます。確かに災害対応のチームを中央(あるいはブロック単位?)で編成することができるのであれば,平時の道路・河川管理は別に地方でもいいのではないか,という気もしたりするのですが,本当に平時−災害時を分けることができるのか,できないのか,ということについては両者ともに根拠のある議論をしているわけではないので,ちょっと第三者的には判断しがたいところがあります。
次に,都道府県知事が行う管理を法定受託事務ではなくて自治事務にできないのか,という内容の議論ですが,国交省の言い分としては,法定受託事務であることによって都道府県に対して厳しく制約をかけたいということよりも,何かあったときに代執行も担保されるという最後のよりどころにしたい,というところ。例えば河川管理でも「全国的な知見を蓄積するためには法定受託事務であることが必要」という話なわけですが,ただ法定受託事務なら資料提出を求めることができるが自治事務だとちょっと控えめになってしまう…というのはちょっと謎。話を聞いている限りどうせ自治事務でも問題なく資料提出させるんじゃないか,というところはあるわけで。河川整備計画などで国の同意は必要か,という話とも絡んでくるんですが,この背景には,委員会でも指摘されているように要するに自治事務ということで地方自治体に権限委譲すると地方自治体が何か好ましくないことをしでかしてくるのではないか,というような発想があるような気もします。「国の」公物管理をしている役所の視点ではその発想はわからなくもないですが,公物管理の素人としては,逆にそうであるのならばどのような危険がありうるのかを聞いてみたいところではあります。もう少し考えてみると,そもそも「国の」ものである二級河川補助国道を「地方の」ものにされてしまうのはかなわん,というところもあるのではないかと思ったり…。この点は,第3回で西尾勝先生がされていた議論との関係で整理する必要があると思われますが。

例えば道路、河川といったような公物、行政法学上は「公物」と言いますが、国が直接管理しているこれらの道路、河川の底地は、例外はありますが、国有財産であることがほとんどです。この国有財産でもある公物の管理事務を自治体の事務に変えることができるか。自治事務に変えるなどということはあり得ないのではないかというのが各省側の言い分であります。
しかし、それは話が違うのではないか。公物の管理、例えば、道路、河川等々の管理といっても、ここには二つの仕事があるわけです。財産としての国有財産を管理する事務と、公物の機能を管理する事務と2種類あるわけでして、財産を管理するというのは、国有財産である限り法定受託事務にせざるを得ないでしょう。しかし、公物としての機能を管理する。例えば道路の供用とか占用を規制したり、許可をするという種類の事務ですが、こうした事務は、場合によっては自治事務に構成しても一向に差し支えないのではないかということを委員会は論じました。
(中略)
こういった問題は、これからの問題にも深く関わっているわけです。例えばこれから国から都道府県へとか道州へという事務権限の移譲を問題にしたときには、国有林野をどうするかということが必ず一つの大きな問題になると思います。そのとき、国有林野の土地は国有財産ですし、この場合には立木も国有財産です。この財産の森林を管理するという事務を自治体の事務にできるかという議論は、必ず起こります。そのときに、前と同じように、財産としての管理という問題と、公物としての管理という問題と二つの問題は区分けしていかなければならないだろうと思います。もちろんもっと根本的に言って、国有財産をこの際都道府県財産に移管するのだという解決をしてしまうのならば、それはまたもう一つの根本的な解決であります。
第3回 地方分権改革推進委員会 議事録

で,もうひとつのポイントですが,道路構造令だったり災害時の河川管理における基準だったりという国交省が用意する整備基準が厳しくて地方は不必要な負担を強いられている,という話がありました。例えば新見市でものすごく土地が余るようなかたちで道路整備が強いられたり,宮城県で壊れた堤防の高さが被災水位までしか認められず,段差のある堤防(壊れた部分がちょっと低い)を作ることになったり,という話が出てましたが,国交省によると基準は基本的には柔軟なので,これは運用の問題だそうです。そういわれると地方側は立つ瀬がないですが,そういう反論を許すのであるならば地方側としては国地方係争処理委員会に積極的にかけていく,ということも重要ではないかと思われます。本省の方は運用の問題だといってるわけですから,国地方係争処理委員会であっさり負けることもないと思ったりするのですが…。まあとはいえ,実際それは難しいということもわからないでもありません。やはり整備のためのお金の出元は国交省なので,そのお金を受ける側としては強く出にくいということは想像に難くありません。だから,この点の根本的な解決は露木委員が主張するように,(ある程度用途の決まった)資本整備の財源を地方に回すというところにあるのではないかとも思われます。引用したコメントだけ見ると単に金呉れという話に見えるかもしれませんが,地方債や補助を中心にして資本整備用の財源が確保されていることこそが,地方で必要な道路整備が行われるための前提だったりするのではないかな,と思ったりします。イギリスなんかは経常収支部分と資本収支部分を分離した上で,地方自治体がある程度自前で道路整備などをできるようになってるわけですが,日本の場合は国直轄事業負担金でいっぱいいっぱいになってる自治体もあるわけで。「全国規模のネットワーク」なら受益者は国民全体ではないかと思ったりするのですが,そういう大規模なネットワークへの自治体の負担を軽減して,自治体が地元の生活道路に投資できる仕組みが必要ではないのかな,という気はします。

(道路へのニーズが)まさに多様化しているわけで,私が何を言いたいかというと,もっと身近な部分にもっとお金を落としてやらないから,道路が要らないなんて話になってしまう。そこらへんは見直して,もっと地方を信頼して,権限も譲って,どこのところの道路が必要なのかということをキチンと見せて,論議して,そこにどんどんお金を付けていくということになれば,やっぱり目に見えるところで直っていけば,道路というのはさらに必要だということに実感としてわかると思うんで。根っこはやはり金をもっと地方に頂戴,という話です。

最後に猪瀬委員によるまちづくりの論点整理が。個別の論点は基本的に地方側の主張に沿ったものになっているように思われます。委員はよく会合でも限界集落の話をされていますが,今回の論点整理も限界集落についての問題意識を中心にしたものになっているのではないかと。具体的には論点整理は全国的な均一化・画一化が個別のまちの「中心市街地」を廃れさせたことを反省し,「コンパクトシティ」を再編成していくことが重要ではないかという主張で,その中で限界集落の問題を扱っていこう,というような構成になっています。そうすると基本的な問題はゾーニングなのではないかと思ったりするのですが…これは次回ということでしょうかね。