規制権限の分権と二重行政

今日はちょっと積読を読もうか,と思っていたのに,午前中このサイトをずっと読んでしまった。非常勤職員の契約と雇い止め,という話はこちらも身に詰まされる話なわけですが(しかも当事者は博士号持ってる人だし),立場の弱い人が何とかして自分の権利を守るというのはやはり極めて難しい。このケースは当事者の父が使用者の理事ということもあり(それに付随するいろいろと問題もあるのだろうけど),比較的何とかうまく行った方なのだと思うけど,逆にそういうケースでさえこんなに苦労するというところに驚くべきなのかもしれない。
身に詰まされながら読んでたのですが,やや関係ないところでちょっと気になった。というのは,被害者が相談に行くときに,都道府県労働局と労働基準監督署,それから法務局に行くのですが,都道府県労働局では割と親身な対応がなされたという話があるのに対して(それでもやるのは「相談」業務なので,最終的な結論は自分で出すらしい),規制主体であるところの労働基準監督署はかなり腰が重い,という話。このケースの場合,相手方が公的機関(道の文学館を運営する財団)ということがどのくらい効いているのかよくわからないけれども,労働基準監督署はあまり積極的に介入する姿勢は見せないらしい。労働基準監督署はもちろん国の出先機関で(労働局の下部機関),もちろん都道府県の機関ではないから,都道府県に対して遠慮するかどうかということはなんともいえないものの(というか,そんなことはないと信じたい),この事務が都道府県に権限移譲されるとやっぱり規制主体と被規制主体が重なるって言う問題は出てくるよなぁ,と。特に地方部では都道府県と市町村で働く公務のシェアが大きくなる傾向があると考えられるので,こういう権限が移譲されたときのインパクトは東京よりも大きくなることが予想されてしまう。いやまあ不服があったら司法に訴えるということも出来るのでしょうが,そしたらそもそも労働裁判みたいな事務ってなんだ,って話になっちゃうわけで,やっぱり規制主体と被規制主体の間にある程度ファイアーウォールみたいなものが必要になってくると思われる。少なくとも,こういうときに「職員のモラル」で話をしてもあまり意味がないと思われるわけですが。
実は,労働紛争を解決するために設置された機関としては,「都道府県労働委員会」という都道府県の機関も存在します。しかし,この労働委員会と労働局の違いはかなり難しい。例えば両方とも個別労使紛争のあっせんを行うことができるのですが,次の表で見る限りでは,あっせん(審判者)の性格が少し違うくらいしかその違いが見出せません。いやもちろん他に労働局しかやっていない機能とか,労働委員会しかやっていない機能とかあるのでしょうけども。別に僕はここで「こんなに同じようなことをしてるじゃないか」と二重行政の批判をしたいわけではありません,念のため。もちろんそういう考え方もあるんでしょうが,上記の規制主体と被規制主体の関係という問題を考えたときには,一概にこの手の二重行政が全て悪いと言えるわけではないんじゃないかと思われます。ただ,僕が読んだケースでは都道府県労働委員会は活用されなかった模様ですが,少なくとも両者の関係が不明なままにほったらかしにしておくような二重行政はちょっといかがなものではないかと思われるわけで,ここの整理が必要なのは事実かな,とは思います。要するに,出先機関の整理統合を言うときに,どういうかたちで二重行政になっているのか,また,規制主体と被規制主体の関係を念頭に置いたときにどのように機能を整理すればよいのか,という視点は必要なのではないかと思ったりします,って話なのですが。

労働委員会あっせん 労働局あっせん 地方裁判所労働審判
申請(申立)者 労働者、事業主、労使双方 労働者、事業主、労使双方 労働者、使用者
代理人の選任 代理人の選任可能。ただし、あっせん員の許可必要。 代理人の選任可能。ただし、あっせん員の許可必要。 代理人の選任可能。
あっせん(審判)者 公労使を代表する者 学識経験者 労働審判官(裁判官)と労働審判員(労使の経験者)
手数料その他の費用 無料 無料 申立費用が必要
手続公開 非公開 非公開 非公開
労働審判委員会は相当と認める者の傍聴を許すことができる。
手続参加への強制 ない ない 不出頭に対して過料の制裁
あっせん(審判)の効果 あっせん案の内容で当事者の合意が成立した場合、民法上の和解契約となる。 あっせん案の内容で当事者の合意が成立した場合、民法上の和解契約となる。 異議のない労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有する。審判に異議がある場合、訴訟へ。

北海道労働委員会 個別労使紛争のあっせんより,一部改変してます。