第43回会合(2008/4/23)

そろそろ次の学会の報告論文の〆切が…しかしこちらの方も進まないので気分転換(にしては重いが)分権委の会合をヲチ。今回は農水省との公開討議で,テーマは農地転用・農業振興と農業委員会について。あとは保安林の指定解除を権限移譲できるかどうかについてヒアリング。
まあ結論から言うといつもの通り,できるだろう→無理,という話に終始するわけですが,今回の議論は個人的には考えどころなのかなぁと思ったり。主要な議論となっているのは,保安林も含めた全てのテーマで「利益相反をどう考えるか」というところ。つまり,地方に農地転用の権限を下ろしたり,農業振興計画の協議・同意を外す場合に,地方の方で開発と保全という利益が対立し,開発という利益が推し進められてしまうのではないか,という議論に集約されます。
この問題に対する委員の考え方が出ているのはとりあえず以下の3つのパターン。実は全てきちんと農水省側からの回答があって議論になったわけではないのですが…

  • 事前のコントロール:法律で縛ったり新しい制度を作ったり,農地の代替の確保を義務付けるなど,他のやり方を使うことにして,許認可権限を移すことはできないのか(露木委員)
  • 事後のコントロール:協議・同意のような事前の拒否権で縛ることは止めて,地方自治体が乱開発のような問題行為を進めようとしていないかを事後的に監視するものへと転換したほうが良いのではないか(井伊委員)
  • 各レベルの政府で開発と保全が相互牽制:レベルの違う政府がチェックするということは止めなくてはいけない,市町村・都道府県が完結して部課が相互に牽制するかたちが望ましいのではないか(西尾委員)

農水省のそれぞれに対する回答を見ると,まず露木委員に対しては,そうしたいができない,規則で縛るのは非現実的,という答え。次に井伊委員に対しては,(協議・同意がない)2ha以下でもチェックできていないとのこと(これが答えになってるのかはよくわかりませんが)。西尾委員に対しては,農地が減り続ける一方で増えることがないから限られた資源の活用が問題になるんだ,と答えていて,これはよくわからないのですが,結局地方がやると開発が進むと考えている,ということなんでしょうかね。まあこんな感じで,主要な議論のわりにはあまり論点が深まっていないというか。
なかなか興味深かったのは,農水省側が,農地が足りない中で38万haに及ぶ耕作放棄地を5年間で解消します,そのために官房に食糧安全保障課という課を作りました,という話。もしできなかったら誰がどのように責任を取るのかがなかなか興味深いところなのですが,「具体的にどうやるんだ」という話についてはこれから一年で調査します,という回答。で,その回答に不満な委員とできるできないのやり取りが続きます(45分くらいからですが,これはなかなか…)。まあ話を聞いてる限りでは,どうやってやるのかぜんぜん見えませんが,ここで明言するくらいですからできなかったときはきっと何らかの責任が取られるのでしょうが…。
農業委員会についても基本的には同じ話。農業委員会の仕事として,農業者間の権利調整と,農・農外の土地利用の調整という話があって,本来業務は前者だけども最近は後者が重要だ,というのは委員の認識。*1出てきた論点としては,露木委員から広域連合のように複数の自治体に跨って農業委員会を作れたらいいじゃないか,というのは「選挙があるからダメ」という話。加えて小早川委員が農・農外の広域的な土地利用を扱うわけだから広域化も必要でしょう,と聞いてみるものの,農業者間の権利調整をやるには選挙が必要,という話で,農・農外は「具体的な指摘があれば検討したい」と。まあしてるんでしょうが。ていうか,このときの農水省の代表の方はかなり選挙を強調するのですが,どんな話題でも「選挙によって正統性を確保する」っていうのを繰り返すだけなので,僕には何を言ってるのかあんまり理解できませんでした。ちなみに,その選挙について,横尾委員が「選挙権者が選出の制度を自由に変えることがあってもいいのではないか?」と聞くのですが,「将来の権利者がいるから一定時点の権利者だけで決めてはいけない」というなかなか恐ろしい答えが…。これ言ったら民主主義社会で「ゲームのルール」を変えること自体否定されるような気がするのですが…まあそんなことまで言ってますよ,ってことで(あんまり一生懸命解読しようとするとちょっとキツイので)。
保安林は今回初めて出てきた割に説明も短かったので,聞いてる僕のほうがよく理解できないところがあったのですが,まあ基本的には開発vs.保全という話の延長かと。委員の側の議論としては,領域内の空間管理を(包括的に)地方自治体に任せることに意味がある,という趣旨かと思います。それが通じてるのかよくわかりませんが,農水省側としては,特に重要流域と呼ばれる部分を中心に,国土保全上大きな問題で国が責任を持つべき,事後的なチェックでも遅い,ということで譲らない,という感じでしょうか。
あとはいろんなところで取り上げられている都道府県から市町村への事務移譲の話と,前回も出てきた法定外税(揮発油取引税?)の話。しかし例えばこの東京新聞の記事何かをみると,既に499事務の移譲を勧告することが決定されているような書き方をしてますが,これはむちゃくちゃ。西尾委員は,この中にも慎重に考えるべきものは少なくない,ということをキチンと言っているわけで,こういう風にムダにハードルをあげようとする報道は何が楽しいんですかねぇ。法定外税のほうは,前から特定財源の一部を地方税として地方に回すべきだ,といっていた露木委員が積極的に賛成する,というような感じだったので,中央政府の国会運営の状況にもよりますが,勧告までに議論になるのかもしれません。

*1:そもそも「土地利用」なのかはよくわかりません。ここでは「保全」だって言ってますが,次の保有林の人は農業振興は「土地利用」だって言ってるし…。