ほんとに?

4月から内閣府に設置される地方分権改革推進委員会のメンバーが与党承認を受けて決まったらしい。実はメンバーは,時事通信なんかで1月末の段階で報道されていた。

政府が4月に新設する地方分権改革推進委員会の委員として、既に委員長候補に挙がっている丹羽宇一郎伊藤忠商事会長とともに、井伊雅子・一橋大教授、作家の猪瀬直樹氏、小早川光郎・東大教授、増田寛也岩手県知事、宮脇淳・北大教授、横尾俊彦・佐賀県多久市長の計7人を起用する方向で調整されていることが、31日までに分かった。
1月31日 時事通信

これは,ある程度まで規定路線だったはず。3月3日の朝日新聞の報道はちょっとした解説付きで人事を伝えている。

政府は、昨年成立した地方分権改革推進法に基づき4月に内閣府に設置される地方分権改革推進委員会の委員に、経済財政諮問会議の民間議員でもある丹羽宇一郎伊藤忠商事会長、作家の猪瀬直樹氏、今春退任する増田寛也岩手県知事らを起用する方針を決めた。今月10日前後に国会の同意を得た上で、安倍首相が任命する。
他の委員は井伊雅子・一橋大大学院教授、小早川光郎・東大大学院教授、宮脇淳・北大大学院院長、地域起こしのアイデアマンとして知られる横尾俊彦・佐賀県多久市長。

分権推進委、にじむ「竹中色」 丹羽・伊藤忠会長ら起用
この記事によると,猪瀬・小早川・宮脇の三氏が竹中前総務省がはじめた「地方分権21世紀ビジョン懇談会」の委員だったことから竹中色が強い,っていうなんだか紋切り型の話になっている。でも,この記事では最後段で「ようやくまとまった」とかかれていて,自民党も納得したような書きぶりになっている(ただし参院幹部)。
それに急転直下が起こったのが先週のこと。それを伝える日経新聞の記事は次のような感じになっている。

政府が4月に設置する地方分権改革推進委員会の人選が迷走している。経済財政諮問会議の民間議員を務める丹羽宇一郎伊藤忠商事会長や作家の猪瀬直樹氏ら7人を起用する方針を固め、7日に国会同意人事を審査する与党会合に諮ったが了承は見送られた。
与党の了承見送りは1月に続き2回目。「人事が事前に報道されたため」というのが表向きの理由だ。だが、選挙を控える参院自民党が、地方に厳しい姿勢だった竹中平蔵総務相が重用した猪瀬氏らの選出に反発したのが真相のようだ。

地方分権、人事で迷走・推進委の政府方針を与党が了承見送り
「地方に厳しい姿勢だった竹中平蔵総務省が重用した猪瀬氏」というのは実はあんまり聞いたことなかったわけですが。同じ頃に日経で,与党が「聞いてない」うちに報道されたことにご立腹だ,という記事が出ていて,この時点では,まあまた自民党恒例の,猪瀬でもめる話かと思いながら様子を見てたら,なんか落としどころがぜんぜん違うところにいってしまった。それを伝える今日の朝日新聞

政府は14日、地方分権改革推進委員会の委員に内定していた宮脇淳・北海道大公共政策大学院院長の差し替えを決め、与党も了承した。委員は国会の同意が必要な人事で、報告前に一部で報道されたことに自民党が「立法府軽視だ」と反発。竹中平蔵総務相の路線に近い識者の起用への抵抗感も根強く、そのうち1人の宮脇氏の差し替えになったようだ。
この委員会は4月に設置され、丹羽宇一郎伊藤忠商事会長や作家の猪瀬直樹氏らが委員になる。宮脇氏の代わりには露木順一・神奈川県開成町長が起用される。塩崎官房長官が14日、与党国会同意人事プロジェクトチームに報告した。塩崎氏は委員名が事前に報道されたことを陳謝し、今後、国会同意人事の公表の仕方について検討することも約束した。
一方、参院自民党には竹中氏に近いとされる猪瀬氏らの起用に難色を示す声が根強かった。このため政府は、別の総務相の諮問機関の座長も務めている宮脇氏の起用をとりやめた。

「竹中色」に自民が難色 分権推進委員、宮脇氏差し替え
なんか妙に叙情的?な入りなわけですが(引用ではカット)。まあそれはいいとして,この人事はどういうことになるんだろう。読み解くのは情報も少ないしちょっと難しい。このメンバーの中で,理論と実務に最も精通しているのはおそらく宮脇先生であって,少なくとも分権を進めるのであれば,丹羽委員長・増田知事と並ぶキーパーソンだったことは間違いない。しかも,これだけ名前が出てるなかで最終的に外す,ということは,「傷をつける」ことに繋がるわけだから,これまで宮脇先生と関係の深かった総務省としてはかなり厳しい判断ということになる。しかも,宮脇先生はこの前終わった「新地方財政再生制度研究会」の座長に続いて,現在,総務省の「債務調整」研究会の座長をしていて,この議論は,地方分権改革推進委員会に引き継がれることが表明されていた(1月26日時事通信)。いわば,宮脇先生はいま総務省が最も「お世話になっている」学者のひとりであることは間違いなく,総務省の判断で猪瀬直樹氏を守り,宮脇先生を傷つけるというような行動を敢えて取るというのはちょっと考えにくい。*1
結局,この人事は何を意味してることになるんだろうか。官邸側が宮脇先生を切ってまで猪瀬氏を残そうとしたのか,それとも他に奥の手があるんだろうか。まあいろいろ奥の手は考えられるんだろうけど,一度人選を替えさせた自民党を含めた関係者全てが納得する手はなかなか難しいだろう。あるいは,単に猪瀬氏を切ることで「改革イメージ」?が薄れることを官邸側が嫌がったのかもしれない。しかし,ここで押し切れないっていうのはやっぱり官邸側の弱さ,というのが出てきてる結果と見るべきなのかなぁ…。そもそも国会同意人事になってる経緯もよくわからんわけですが。ひょっとすると2001年スタートの地方分権改革推進会議の反省から国会同意をつけることにした,っていう話なのかもしれませんが…。いずれにせよ,まだ始まってもいないのに,これだけ動きがあるということは,一応分権改革はまだホットトピック,ということなのでしょうかね。これで議事録が公開されなかったら研究者の欲求不満(?)も高まりそう…。

*1:たぶん,小早川先生の位置づけは行政法学者としてちょっと特殊なので,猪瀬氏と宮脇先生の位置づけが重なりうるんじゃないかと思うのですが