第六回会議(2007/05/24)

まあえんえんとブレストが続いた第五回よりは聞いてる方としては楽でしたが,展開としてはそれほど新しい話もでず。「基本的な考え方(素案)」に対して委員がああだこうだ言う,という話に終始して,結局のところはそれを聞いて委員長と委員長代理がまとめる,という話だそうで。改めてやっぱり基本的には伝統的な審議会だなぁ,という印象を持ったわけですが。どんなに情報を公開しようとしても,会議という「場」でものごとが何も決まらないのであれば,それは本質的にはあまり意味のある情報公開ではなくて,単にガス抜きを公開しているだけに過ぎないのではないか,と思えてしまうのですが,たまに強調しているように委員長がリーダーシップを見せている場面もあるので「基本的な考え方」以降の実質的な審議に期待したいところでしょうか。
というわけで,この日の会議の主要な部分については,とりあえずこちら。
地方分権改革推進に当たっての基本的な考え方(素案)
すでに各メディアで取り上げられているように,この素案の中で,増田委員長代理は特に立法権の委譲を中心とした「地方政府の確立」を強調し,条例による法律の「上書き権」を議論の俎上に載せたことが実質的にほぼ唯一新しい点といえるのではないでしょうか。ただ,この話は冒頭で増田委員長代理が説明した以外にはほとんど出てこなかったうえに,専門家である小早川先生が遅れて入ってきたためにはじめのほうで議論に参加しない,ということになってしまったので,実質的にどういうことを想定しているのかは僕にはいまいちよくわかりませんでしたが。ただ,小早川先生が最後のほうでちょっと触れたように,法律というのは国権の最高機関たる国会で決めたものなので,それに対して上書きするというのは憲法変えない限り無理じゃないかと思うんですがねぇ…。もちろん政令とか上書きすることは法技術的に可能でしょうから,基本的には規律密度の問題として捉えたらいいのかな,という風に(今のところ)考えているわけですが。
主要な話としては,まあ以下のスローガンではないかと。

  • 国民的に危機意識を喚起すべきだ
  • 堅い白書的なものだけではなく一般の国民にわかりやすいものを
  • データやファクトを中心に住民本位の地方分権改革を

その他内容については,この記事が一番まとまっているかなぁ,と。
実質的な議論としてちょっと面白かったのは,自治事務の縛りの話ですかね。露木委員が前々から強調しているように,自治事務といっても結局地方にほとんど自由度がなく,その一方で「自治」の名のもとに補助金がほとんどでないのはおかしい,という全く正論な話なのですが。結局,ここのいわゆる「法定自治事務」に対する一般的な縛り,要は義務付け・枠付けに関してどのくらい緩和するかという規律密度の議論が最も大きなテーマになるような感じがします。小早川委員の説明がわかりやすかったのでちょっと意訳しながら引用すると,「第一次分権改革のときには「個別の」国の関与を何とかすることを目標としていて,その象徴が機関委任事務制度だった。しかし法令による「一般的な」縛りは現在も残されており,積み残しの課題となっている」ということでしょうか。要するに,機関委任事務を廃止することによって,中央各省が「個別に」地方に対してちょっかいをかけることを(制度的に)止めさせることができたものの,国の立法によって地方の事務を決めるという「一般的な」制度自体残っているために,法定自治事務というかたちで縛りが残ってしまった,ということでしょう。
それ以外にちょっと議論になったのは次のふたつの不規則発言(?)

  • 夕張は市の借金300億以上にダムに1500億かけている(猪瀬委員)

「夕張シューパロダム」のことですが,これは直轄河川総合開発事業というやつで,基本的には夕張市ではなく,北海道開発局とか国土交通省(旧建設)の所管になっていると思います。猪瀬委員は「夕張関連の検証で」という話をされていましたが,基本的にはこれは夕張市がどうこうという問題よりも直轄事業の問題なので(夕張市も直轄事業負担金を出していたのかどうかは知りませんが),徒に夕張市財政破綻の問題と絡めると問題がごちゃごちゃになるような。単に直轄の大規模建設事業の意思決定方法について検討して,開発局とかその他の出先機関が必要かどうか,必要ならどういう役割を果たすべきか,という方向で議論した方が趣旨に適うかな,という気はしますが。

  • 地方議会を地方の最高機関として位置づけることを明記する(井伊委員)

二元代表制なんで…という話で。まあ地方政府自体(一般市町村はキツイので都道府県と政令市とかなら)を議院内閣制にすべきだ,という主張ならわからないことはないのですが。あるいは議会が選ぶシティー・マネージャー制にする,というのもひとつの見識だとは思いますが。まあ正直議論というよりは,明らかに首長経験者たちが対応に困っていたのがやや興味深かったというか。最終的には小早川先生が二元代表制の中で住民に近いのは地方議会,という引き取り方をしていましたが,やはり問題になるのはどっちがえらいかという話よりも(条例制定権が大幅に拡大されたとして)誰がアジェンダ設定を行うか,ということではないかと思います。相変わらず首長が条例の素案を提出していると地方議会が意味ないという批判は続くだろうし,とはいえ地方議会のほうで拡大された条例制定権に見合うようにアジェンダ設定能力がつくのだろうか,という問題点はあるわけで。制度設計だけ考えると,議会がアジェンダ設定をした方が,個別利益の強調を抑えるという観点からは好ましいと思いますけどね…。とはいえやっぱり議会の側から大規模な公共事業を辞めよう,という話にはならないのかな。
最後に重要な決定についての議論になったのは,また税源移譲の数値目標,という話だったのですが,しかし本当にこれは不毛な話じゃないかと。日本経済新聞こういう記事を書くのですが,日経という会社では具体的な役割とかを全く審議することなく数値目標を設定してイケイケドンドン,っていう会社なんですかね?普通に考えたらやっぱり中身が決まらないで数値目標っていうのはちょっとどうかと思うんですが,これは社会一般的には学者のたわごと,ということなのでしょうか。特に現在の分権委員会にはそれこそ小早川委員的な議論と井伊委員的な議論が存在するわけで。しかし相変わらず質疑応答でもこの話ばっかりで,委員長は下に引用するように,軽くイヤミを言うくらいだと思うんですが…。根拠のない数値目標を叫んで教条的に「補助金」というものを批判するだけで,その「意図せざる」結果として例えば交付税が減りすぎて地方間の格差が広がったとしても,それはそれで批判すればいい,という業界は学者よりよっぽど気楽なんじゃないか,と思ったり。

(朝日・オオツキ記者)丹羽委員長は民間議員のひとりとして国と地方の税源配分の在り方で,民間議員ペーパーでこれまで5:5にすべきだという提案をもう出されてまして,かたやですね,この推進委員会のほうでは今日のペーパーでは5:5という数字は出しないんですけど,そこらへんでなにか整合性が取れていないな,というふうに表面的には思われるんですけど
(委員長)いや,わたくしはぜんぜん整合性をとっているつもりでございましてですね,やはり数値目標を最初に掲げますと,皆さん方には大変興味のあることでございましょうけれど,数字だけが一人歩きして,数字ばっかり議論される方が多くなりまして,もっと根本的な考え方をまず整理しよう,ということであります。したがって,気持ちの上では先ほど申し上げたように,仕事とかですねいろいろな権利が地方に移っていくわけですね,我々の地方が主役ということは。当然ヒトとカネが移るのは当たり前のことでありまして,ヒトとカネが移らないで仕事と権利だけ地方に移るということでしたら地方はやってられませんよね。ということでありますから,当然のことながらこの委員会の考え方もやはりそちらの方へ,地方に傾斜していくということは当然ですが,最初からこの数値だ,ということは今の段階では差し控えたいということであります。経済財政諮問会議も去年の10月か11月に,もう5:5といっております。したがってそれはある意味では暗黙の了解のようにですね,経済諮問会議の中ではそうなっておりますし,それが決定されたわけではございませんけれども,そういう方針を諮問会議で打ち出しまして,私もそういう考えはもっておりますけど,しかし現時点では先ほど申し上げたような理由からむしろもっと根本的な議論を先にしよう,ということでございます。分権の話をするとすぐ道州制という話が出まして,道州制というとどことどこを一緒になるかという話にまたすぐ集中してしまう,と。蛸壺の議論はやめようや,と。とりあえずまず根本的な問題から議論して,そしてその議論のあとでこういうかたちにすべきだという数値目標が出ていくと思います。