大気汚染訴訟

先週末は某学会で札幌へ。学会についてはまぁ,というとこですが,地方分権改革推進委員会で事務局長を務めている宮脇先生のご報告を聞く機会があって,それは面白かったなぁ,と。お話を思い出しながら例の静止画像でも見るか…と思うわけですが,ちょっと早めに札幌入りしたのと,なんだか仕事が溜まっているのでちょっと停滞中です。でもあれ,三回聞かないと絶対やらなくなりそう…。
というわけで,今日は別件のメモ。まあ感想を一口に言うとやっぱり参院選挙はすごいねぇ,ということになるのでしょうか。

◎国が都に60億円拠出へ=原告側受け入れ、和解へ前進−東京大気汚染訴訟
東京都内のぜんそく患者らが国などに損害賠償を求めている東京大気汚染訴訟控訴審の和解協議で、安倍晋三首相は30日、首相官邸で東京都の石原慎太郎知事と会談し、公害健康被害予防基金から都に60億円を拠出する方針を伝えた。石原知事は国の方針を受け入れる意向を示した。原告団の西順司団長(74)は同日記者会見し、国の提案を評価し、受け入れる考えを表明した。
和解協議では、都が昨年11月、国やメーカーなどとともに、原告に限らない都内の18歳以上の気管支ぜんそく患者に対し、医療費の自己負担分を全額助成する救済案を示した。メーカー側は応じる姿勢を見せていたが、国はこれまで財政負担に応じてこなかった。国が資金拠出の方針を打ち出したことで、助成制度が実現する公算が大きくなり、和解に向けた協議が大きく前進する。
5月30日時事通信

いくつかの報道を見る限り,基本的には東京都が前に提示した医療費助成による救済のスキームに乗っかって,国が必要な部分のお金を出すことにした,ということでしょうか。東京都は国に67億円の負担を求めていたそうですが,そのうち60億円分を出すということでまあこれについては一応決着を見そうな感じになっているのではないかと。1月時点のお話では自動車会社も基本的にはこのスキームに乗る意思は見せているので,どうやら医療費助成による救済については実現しそうな感じ。なので,あとは1月時点でも揉めることが予想されていた解決金(一時金)の扱いということでしょうか。自動車会社としては「法的責任」を認めることができないので解決金を払うことはできない,というスタンスで,しかも裁判所の判決も自動車会社の法的責任を認めていないという状況はやっぱりちょっとデッドロックな感じがする。お金を払うにはやっぱりそれなりの理由が要るわけで,因果関係が(裁判で)認定されていないのに例えば道義的責任とかいってお金を払うのは,結局法的責任とどう違うのかよくわからないし。*1カネミ油症のときにも同じこと書いたけど,やっぱり国や企業の責任が問うことができない,ということならそれはそれでどういう観点から責任を問えないのかを明らかにした上で,補償は補償で実施する,というスキームがあるほうが望ましいように思うのですが。
えっと,あとはまあややマニアックなところですが,今回国が拠出するお金はなんと(でもないか)公害健康被害予防事業の基金だそうで。同じく時事通信の記事によるとこんな感じ。

◎因果関係認めず、資金拠出=基金取り崩し異例の措置−東京大気汚染訴訟・和解協議
東京大気汚染訴訟の和解協議で、国は公害健康被害予防基金を取り崩すという異例の方法で、東京都への資金拠出を決めた。国は都が提示した医療費助成制度に対し、大気汚染とぜんそくの因果関係が不明として、財政負担に応じていなかったが、和解のチャンスを壊したとの非難を避けたい本音もあった。予防基金からの拠出は、基金本来の目的と同じく、公害健康被害予防事業の費用との名目。都の制度に直接、資金を出さないという建前を守った形だ。

要するに国は東京都が行う公害健康被害予防事業にちょっと大目に出しますよ,という体裁をとるということ。年間だいたい12億ほど積み増し×5年,というのが現在の設定らしい。この基金は1988年に公健法の改正によって第一種地域(大気汚染関係)における新規認定を止めて,公害健康被害補償協会が公害健康被害補償予防協会に変わったときに,国が500億円出資して作られたもののようです。しかしどうせこの基金を使うなら,自動車屋さんから賦課金を取るなり重量税を上げるなりすることで東京都だけ第一種地域の認定を復活させて「民事責任を踏まえた」制度にできないもんかねぇ,と思わんでもないのですが,どうもそういう声は聞こえてこない。*2やっぱりその辺は自動車やさんに遠慮してるんだろうか。

*1:今後は責任追及を止めてくれ,的な契約を背景にした見舞金はたぶん水俣のときに無効っていう話が出ていたような

*2:いやまあ「東京都だけ」が政治的に難しいことはわかりますが。それにしても他の地域よりも東京都だけ喘息等に配慮する合理的な理由があるのであったら,そういう政策も必要だと思ったりするわけですが…。