大気汚染・続報まとめ。

なぜか見逃してた。何でだろう。東京都の大気汚染訴訟がちょっと進みそうな,進まなさそうな感じのようです。1月13日の時事通信配信の記事によると,結局のところ東京都の救済案にトヨタ以外のメーカーも乗ってくることになったらしい。

自動車排ガスによる大気汚染で健康被害を受けたとして、東京都内のぜんそく患者らが国と都、首都高速道路会社、自動車メーカー7社を訴えた東京大気汚染訴訟の控訴審で、トヨタ自動車など7社は13日までに、18歳以上の気管支ぜんそく患者に医療費自己負担分を全額助成するとした都の救済案を基に和解協議に応じる意向を東京高裁に伝えた。
1月13日 時事通信

メーカーについては,リーダー以外はやっぱり横並び,という感じで,例えば一度リコールして取り替えたはずの部分をまたリコールしてしまう会社も,こんな感じのコメントで。まあどのへんが前向きなのか僕にはいまいち理解できませんが。

「他社と大体同じ。1社だけ(違う動き)というのは考えにくい」などと前向きな姿勢に転じた。

しかしながら,大きな問題が二つ。
ひとつめは相変わらず強硬な国(環境省)。

国は都の救済案に否定的見解を示しているが、都は今後、国に対して和解協議のテーブルに着くよう働き掛けを強める方針だ。 

朝日新聞でちょっと大きめに取り上げられています。

環境省の田村義雄事務次官は15日の記者会見で「(制度に参加しないという)国としての考えは従来通り」と述べ、大気汚染とぜんそくの因果関係が証明されていないとして、国として協議に応じる考えがないことを改めて強調した。

http://www.asahi.com/health/news/TKY200701150358.html
「大気汚染とぜんそくの因果関係」って公健法のときに一回認めてるんじゃねえか?と思いつつ。ってあれは硫黄酸化物の話だけなのか?まあこれは因果関係に確定性を持たせるというわけのわからないロジックを使ってどんどん引き伸ばしていく水俣病と同じ作戦,ということなのでしょうか。最近の疫学でこの因果関係をどう扱っているのかを知りたいところではありますが。

医学者は公害事件で何をしてきたのか

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もうひとつ,大きな問題が,今日時事通信が伝えた「解決金」の問題。原告のほうが,「解決金なければ和解なし」を表明しているらしい。

自動車の排ガスによる大気汚染で健康被害を受けたとして、東京都内のぜんそく患者らが国や都、自動車メーカー7社などを相手に損害賠償を求めた東京大気汚染訴訟の控訴審和解協議で、原告団団長の西順司さんらが17日、都内で記者会見し、「解決金がなければ、和解は成立しない」と強調した。
(中略)
原告側は被告側に救済案への参加に加え、解決一時金の支払いも求めている。代理人の西村隆雄弁護士は「各地の大気汚染裁判でも、解決一時金を受け取ってきた。今回も一時金が支払われないと、問題は解決できない」と述べた。
1月17日 時事通信

ここは自動車メーカーが難色を示しているらしいので,これからどうなることやら。国としては,水俣病での行動を考えると,とりあえず現状維持=公判維持で最高裁まで引き延ばしたうえでそこで勝ちに行くというのが狙いなんだろう(それが「環境」省というのはやや恐れ入るが…まあ実は今の次官は大蔵出身というのも効いてるのかも)。自動車メーカーも,ここで決裂したらそれはそれで裁判を続けるだけなのかもしれない。それに対して原告のほうはちょっと悩ましい。水俣のように最高裁で勝訴できればそれが望ましいのは間違いないけど(時間はかかるが),必ず勝てるかどうかはわからない。ただここで一時金が取れないと他の地域の裁判にも影響するし…,ということなんだろう。きついのは,地裁で自動車メーカーの責任が認められていないので,この段階で「民事責任を踏まえた」的な解決が難しいところにあるんだろう。東京都が熱心にリーダーシップを発揮しているのは評価されるべきだとは思うけど,ここまでの裁判で民事責任が認められてない以上,うまく落ちないのではないか,という気がする。他の大気汚染訴訟も含めて,「民事責任を踏まえた」的な立法措置があれば,とは思うものの,メーカーもそこまではできないのかもしれない。そうすると,原告は結局裁判官の「良心」を信じて動かざるを得ないのかもしれない。
飯島勲『小泉官邸秘録』を読んでから思い返すと,就任直後に小泉前首相に判断が回ってきたのはハンセン病だったなぁ,と。大気汚染は差別の問題こそないかもしれないけど,ああいう政治的な「決断」が必要なマターであるのかもしれない。前首相のときにこのネタが回ってきたらどういう決断だったんだろうか。ってそういやメディアはこの話をぜんぜんやらないなぁ。やっぱりスポンサー様に弱い,ってことなんでしょうか。

小泉官邸秘録

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