宮城県知事選挙ほか

昨日は神奈川・静岡という二つの補選と,宮城県知事選挙・神戸市長選挙川崎市長選挙を始めとする多くの地方選挙が行われた選挙デー。今回の結果は,これまでの流れが変わりつつあるのではないかという点でかなり面白い。
まずは参院補選。両者は似たような構成で似たような結果になったが,このうち注目すべきは静岡だろう。この静岡では今回の補選と「全県一区」という点では同じ制度で,総選挙における民主党大勝の流れを作るひとつの重要な要因であったと考えられる,知事選挙が行われている。この選挙では民主党が分裂しつつも,当時の与党であった自民・公明が推す候補に辛勝したというものだった。そのときの結果と今回の結果を並べると,次のような感じになる。

  静岡県知事選挙 参院静岡補選
民主党支持 728,706 567,374
自民党支持 713,654 404,763
共産党支持 65,669 97,631
幸福実現党支持   12,106
無所属 332,952  
投票率(%) 61.06 35.64
合計 1,840,981 1,081,874

もちろん「全県一区」というだけで両者を比較するのは違う,という意見もあるかとは思うが,逆に選挙という観点からみると,参院補欠選挙と知事選挙というのは他のどの選挙よりも似たものになっている*1。この両者を比べるとまず目を引くのは投票率だろう。知事選挙で60%を超えた投票率は,今回40%を割り込んでいる。補選っていうのはあんまり関心を呼ばないんじゃないの?という気もするので,以前の補選を調べてみると,直近では衆院の山口二区(あの暫定税率廃止の渦中でやったやつ)が69%。参院の補選について見ると,2007年通常選挙の三ヶ月前に行われた福島の参院補選で56.72%,沖縄で47.81%。2005年の神奈川で32.74%となっている。これだけ見ると,投票率は補選かどうかというよりは,選挙が行われた時期に左右されると考えた方が直観的には素直だろう。すなわち,選挙の種類に関わらず,「重要な」選挙がなかなか行われなくて,有権者のフラストレーションが高まると投票率が高くなり,その「重要な」選挙が行われると投票率は下がると。で,たぶん「重要な」選挙というのは参院通常選挙とか衆院総選挙ということではないか。まあこれは一応検証可能な仮説のような気がするが,当たり前といえば当たり前。ただもうちょっというと,「重要」かどうかというのは必ずしも事前には決まらない気がする。あくまでもその重要性は例えば今回のように総選挙で投票の有効性感覚が増大したと考えられるような場合に事後的に強調されるのではないかと。
やや脱線したが,おそらくこの補選で注目できるのは,前回選挙から一番変わったのは,「棄権」が70万票以上にのぼり,ある意味これが一番支持を集めていること。共産党も若干支持を伸ばしてはいるものの,これは知事選挙で無所属候補に流れた分が戻ったということではないか。なので,もしこの選挙の重要性が非常にクローズアップされて投票率が知事選並みに上がり,自民党がその支持を掴むことができれば民主党は一蹴されてしまうし,またその支持を攫う他の候補が出現すれば,民主党自民党のどちらにとっても非常に脅威になるわけだ。今年これまでブログで観察してきた結果と今回の補選を併せてみると,民主党が総選挙で勝利した要因としては「投票率の向上」が非常に重要な要因であり,その向上分がどこに流れるかなかなかわからない,という状況の中で,最近しばしばマスコミが報道するような小沢幹事長による締め付け?ということになるのだろう。ただし,特に無所属がから部場合について,国政・知事選が違うところでこれが重要になるわけだが,知事選挙では無党派の候補でも勝てば次の日から「政権交代」になるわけだが,参院選衆院選でもそうだけど)では全国にひとりだけ地元代表の候補を送り出してもあんまり意味はない。だから有権者が,国会での議席獲得競争を含めて戦略的に考えて投票するとすれば,既存の大政党の方がより有利になるだろうし,また,勝ちそうな政党の方が有利になることが予想されることになる。最近選挙研究でも流行っている(?)concurrence/nonconcurrenceの問題(同日投票かどうか)が応用できるんじゃないかと思う。非常に直観的には,nonconcurrenceの場合は,どこに投票すれば(国会で)死票になるか事前にわかるから,有権者としては現政権に対する反対の意思表示のベネフィットと死票のコストを天秤にかけて投票を行うことになり,concurrenceの場合は結果がわからないために,事前の予測で勝ちそうな方に投票が集中するのかなぁ,と思ったり。これはまじめに考えることもできるかなぁ,という気がする。
民主党が全勝した国政に対して,地方選挙の方では民主党はかなり苦戦している。宮城県知事選挙では,自民党県連の実質支援を受ける現職に,政権与党が推す候補が挑戦するかたちになったものの現職の圧勝。正直言って,政権与党が推す候補がこんだけ負けたのはあんまり記憶にないんですがどうでしょうか。自民党政権下なら,「与党への強い批判」とかなりそうなもんなのに,そうはなってないらしいところも興味深い。この記事で石井一議員が,「国政と地方選は違う」という今更ながらのことを言ってるけど,まあ政治的レトリックの活用のされ方という意味で,国政と地方選の関係を定点観測するのも面白いのかもしれない。
ともに相乗りで当選していた現職が,民主党に単独推薦を申請したものの,一方では断られ,一方では受け入れられたという意味で対照的な構図となった川崎市長選挙と神戸市長選挙は,どちらも現職の勝利。川崎市は議会でも民主党強いし(選挙時点で第一党),民主党候補は若手の県議だし,(市長への支持を食いそうな)自民党系の無所属候補も立候補しているし…と,かなり現職が不利な感じだったのに,蓋を開けてみれば意外と圧勝。投票率がこの三回くらい奇妙に36%台で安定しているところをみると,結局普段投票に行かない層を動員できなければこの結果,ということか。神戸市長選挙についても投票率は上がらず,結局高齢批判を受けた現職があっさり三選。神戸の選挙なんかを見ていると,前総理が「行き過ぎた市場原理主義との訣別」とか言ってしまってる以上,なかなか自民党として民主・現職を攻めるのが難しくなってるのではないか,という気もする。加えて気になったのは,全体的に今年の前半だったら新人が勝っててもおかしくないようなところで選挙で現職が軒並み勝ってるっていうところかな。川崎市長選もそうだし,あとは長野市長選挙(ここも政権与党の候補が惨敗といってもいい),八戸市長選挙(若手の元市議が現職に挑戦)がそう。ひょっとしたら,中央での政権交代を受けて,地方の方ではとりあえず現状で様子を見る,つまり中央と地方で中道を取るという意味での分割投票なのかもしれない。Alesina and Rosenthal[1995]では,大統領と議会の間で中道を取る分割投票の話だったけど,中央と地方の間での中道というのもありうるのだろうか。

Partisan Politics, Divided Government, and the Economy (Political Economy of Institutions and Decisions)

Partisan Politics, Divided Government, and the Economy (Political Economy of Institutions and Decisions)

*1:他に似たものといえば,例えば市長選挙と全市一区の県議選とかがある。これについて言及していたものとして,例えば箕輪允智[2009]「非開発志向の自治(上)」『自治総研』372。