石綿裁判→クボタ

いや最近分権改革がらみでエントリ一個一個が重くなりがちなのですが。どちらかというと本来の趣旨は多くの人がスルーしがちなんだけど,特に地方関係とか環境関係で重要と思われるネタを拾おう,と思ってましたわけで。

石綿被害でクボタ初提訴=「国とともに対策怠った」−中皮腫男性の遺族・神戸地裁
機械メーカー大手クボタ(大阪市)の旧神崎工場(兵庫県尼崎市)近くで勤務し、中皮腫で死亡した山内孝次郎さん=当時(80)=の遺族が、同工場の石綿が原因だとして、同社と国を相手に、約4200万円の損害賠償を求める訴訟を8日、神戸地裁に起こした。石綿被害をめぐり、同社が訴えられるのは初めて。
訴状によると、山内さんは1939年から75年まで旧神崎工場の南50メートルにあるヤンマーの尼崎工場で勤務した。95年に中皮腫と診断され、翌年、死亡した。クボタ工場周辺では昨年3月現在で、住民99人が中皮腫になり、うち72人が死亡しているという。
原告側は「60年以降、被害報告が相次ぎ、海外では石綿の環境暴露の被害が常識化した。クボタと国は危険性を十分認識できたにもかかわらず、長期間にわたり対策を怠った」と主張している。
(後略)
5月8日時事通信

現在の石綿健康被害救済制度は,業務で被曝した人については労災でカバーして,それでカバーしきれないところをカバーすることが中心的なテーマになっていて,基本的に医療費を払う制度になってるわけです。重要なのは,公害健康被害者補償制度のように,「民事責任を踏まえた」制度というわけではないので,実際に健康被害が発生したことに対する損害賠償は原則としてされません。なので,全国でいくつか石綿を扱う企業に対する損害賠償請求が行われています。
医学的なことはよくわからないのですが,もし中皮腫石綿被曝(のみ)が原因だということなら,因果関係ははっきりしているわけで,潜在的な罹患者も含めて中皮腫に罹患している/する人が多いなら,損害賠償請求の行方はかなり大きな問題になりそうです。問題は,使用しているときにその因果関係を知りながら使用を差し止めなかったのか,というところなんでしょうが,こないだの研究会でのM先生の報告を聞く限りここで強弁するのはきついと思うのですけどねぇ。しかもそこで争うと凄く泥沼に嵌りそうだし。限定的に認めたとしても,いつ時点の石綿で発症することになったかなんてわからないでしょうから,長期的に考えると,それほど高い賠償の水準ではなくても,大枠で政治的に決着する落としどころを用意しておいたほうがいいような。