最後っ屁?

いや百歩譲ってまあ気持ちはわからんではないのですが,これはちょっといかがなものかと。もはや自分たちが何をやっているのかということもわからなくなっているように思えてしまう。

 社会保険庁は28日の参院厚生労働委員会で、国民年金保険料の未納者に対し、国民健康保険国保)の有効期限を数カ月に限定した「短期保険証」を交付する政府方針の対象者について、「年金保険料の未納期間が13カ月以上」との例を示した。納付免除者を除き、対象者数は推計342万人という。短期保険証の発行は年金保険料の未納防止策として、社会保険庁改革関連法案に盛り込まれている。保険証の更新を市町村窓口で頻繁に行う必要があるようにし、その際に年金保険料の納付を促す意図が込められている。
 また柳沢伯夫厚労相は、08年度に年金の全受給者、加入者に対し年金加入履歴を送付する考えを表明した。いずれも共産党小池晃氏の質問に答えた。
<短期保険証>13カ月以上の年金未納者対象に 社保庁

このブログでは,前に西尾先生も分権委員会で言っていたように,基本的に社会保険関係の事務というのは(少なくとも財源は)中央に一元化したほうがいいとは考えていますが,少なくとも現行制度としては,国民健康保険は「地方の事務」になっていることは間違いない。それにもかかわらず,社会保険庁が地方の国民健康保険事務に過度な干渉をするのはまさに筋違いというものではないだろうか。自分のところで管掌している政管健保や船員・共済関係ならまだしも。まあもちろんこの手の健康保険の場合には(厚生)年金もセットで源泉徴収してるから意味ない,というだけのことなんだろうが。
こういうことが案に出てくるくらいだから,国保は払っているけど国民年金は払っていない,という人たちは少なくないんじゃないかと思う。短期保険証というのは,現在の制度では一年以内の国保の滞納があったときに発行される数週間から数ヶ月の保険証を交付され,納付相談(といっても基本的には「払え」って言われるだけらしいですが)を受けながら保険を利用する,というものです。一年以上の滞納の場合には,病院で自己負担10割で支払いを行ってから,保険料を納めてから保険負担分が還付される「被保険者資格証明書」を受けることになるそうです(詳しくはこのサイトがわかりやすかった)。社会保険庁の人たち(もう「官僚」って書くのも辛い)は,現在の国保加入者が健康保険証を受けるために国保は払い続け,そのために年金も払うと思っているのだろうけど,逆に本質的に負担が重い国保の方を払わなくなる可能性っていうのは考えないのでしょうか。だいたい国保なんてかなりたくさん払ったって付随するサービスは全くないに等しいわけで,健康リスクを抱え込もうとしてもおかしくない。まあ国保では簡単な健康診断すら受けることができず,健康診断書をもらおうとしても病院では保険適用外になるので,そもそも国保で年間数十万払ったって他の健康保険組合と比べて自分で抱える健康リスクは十分大きいわけですが…。あるいは,今のところ短期保険証の話しか出ていないけど,短期保険証すら出なくなって,資格証明証になれば患者は10割負担ができず,今度は病院が踏み倒されたっておかしくない。ただでさえ最近の病院経営は厳しいのに,わけのわからん年金のしわ寄せが来るというのは耐えられないんじゃないか,と。
例えばこういう社会保険庁の政策によって,自治体の国保財政や自治体病院の経営が大きな影響を受けたとき,その因果関係が立証されたとしたら,自治体によって社会保険庁の責任を追及することは可能なのだろうか。まあ責任追及というのはどうせ当事者能力もないとか言う話になって難しいと思われるので,逆に社会保険庁のたぶんこの立法ではなく通知によってなされる指示に自治体が従わないとき(つまり,年金を払ってなくても普通に健康保険事務を執行する),自治体は争訟になったら確実に勝てるのだろうか。地方分権の趣旨から言うと,国保の運営は地方の事務とされているわけで,別にこんな通知に従う必要は全くないと思うわけですが…。もちろん立法で定められたら従う必要があるだろうけど,短期保険証のこの手の話を立法化するっていうのは,規律密度を強化するわけで,どう考えても分権の趣旨に反すると思う。もちろんこれは現行制度を前提にすれば,というところですが。
まあもちろん,国民健康保険制度を地方の事務から国の事務に引き上げるということをして,一体的な運営をするならこういう反論はできないわけですが。国民健康保険の料率や保険料/保険税の選択とかそういうよくわからない地域差を生み出すよりも(保険料/保険税の選択については西川先生のこちらの論文をどうぞ),それこそ一律のサービスを提供すべきものとして,国が責任を持って運営した方が好ましいと思うのですが。財源を含めて責任を持って運営するという辛いところは地方に押しつけて,適当に制度設計のおいしいところだけを持っていき,何か困ったら地方にしわ寄せする,というのはやはり「筋悪」ではないだろうか。