国際関係いろいろ

頂いているものが色々溜まってしまっているのですが,最近の国際関係に関する書籍から。まず東京大学の板橋拓己先生から『分断の克服1989-1990』を頂きました。ありがとうございます。東西ドイツ統一期の西ドイツ・ゲンシャー外相の外交思想・政治指導を中心として統一までの過程を分析するもので,ドイツ政治どころか外交史について私は全くの素人ですが,それでもとても興味深く読むことができました。なるほどなあと思った,というか全く理解していなかったこととして,ドイツが統一することがどれほど周辺国に脅威として捉えられていたか,ということがあり,それをテコにして統一に向かっていくというストーリーは,私には非常に説得的でした。統一自体が既成事実化していく中で,統一されていくドイツをヨーロッパの中に埋め込む/NATOを通じてアメリカがドイツを抑えることにする,ということ通じてドイツの完全な主権が取り戻され,結果的NATOが「勝った」ようになったことで現代のロシア-ウクライナ戦争までの流れができる,と。もちろん,ウクライナとヨーロッパの関係とかも複雑なわけですが,現状を少しでも理解するために非常に参考になるご研究だと思います。

板橋先生からはさらに『民主主義に未来はあるのか?』もいただいておりました。こちらでは「現代ドイツの右翼ポピュリズム」というタイトルで,ドイツ政治で一定の存在感を見せるAfD(ドイツのための選択肢)のナチズムとは連ならない反リベラルという歴史的・思想的ルーツをたどる検討もされています。CDUという右派政党が長く強かったドイツでの右翼ポピュリズムの進出についての知見は,同じように自民党という右派政党が長く強い日本にとっても重要かもしれません。歴史から現代から幅広く興味深い研究で素晴らしいですね。

政策研究大学院大学の竹中治堅先生からは『「強国」中国と対峙するインド太平洋諸国』を頂きました。ありがとうございます。竹中先生は普段国内政治を分析されているわけですが,今回は対外政策の分析をされています。注目しているポイントは国内政治のときと同じく統治機構改革の効果であり,それは国内政策だけではなく対外政策の立案にも大きな影響を及ぼしたということが指摘されています。他の章では,QUADの国々を含め,その他の国と中国との関係が議論されていますが,まさに先ごろの中国共産党大会で三期目に入り専制色を強めたとされる習近平体制とどのように向き合うかを考えるためにも重要な本ではないでしょうか。

もうひとつ,船橋洋一先生から『国民安全保障国家論』を頂きました。ありがとうございます。ロシアのウクライナ侵攻などで安全保障進行が変わる中で,自助ができる国家とはどういうものかについての論考がまとめられています。外交・国際関係だけでなく,アジア・パシフィック・イニシアティブで原発やコロナなどの検証委員会を立ち上げ・運営された経験から,国内での危機にいかに自律的に対応するかということが論じられているのも一つの特徴かと思います。

日本政治:分析対象・方法の広がり

ちょっとですが,福岡工業大学の木下健先生に『政治家のレトリック』を頂きました。ありがとうございます。タイトルの通りですが,政治家がインタビューや国会審議などで話をしている内容だけでなく,やり取りの仕方とか逸話の紹介とか表情とかも含めて検討の対象とされています。テレビ討論番組や国会等の討議を独自にコーディングするというのはとても大変な作業ですし,また,顔の表情についてもデータ化しているというのは非常に興味深いものだと思います*1

私が十分に理解できているかは怪しいですが,全体として特定の主張を展開するというよりも,レトリックについての色々な知見を示しているという印象を受けました。その中でも,日本文化において対面を守る(フェイスへの脅威に対応する)ということが非常に重要な意味を持ち,コミュニケーションにおいて「笑み」が重要な役割を担っているというのは興味深いところです。個人的には,11章での,通常の閣法とは異なって野党議員が答弁者となる野党提案の議員立法の分析を通じて,同じ政党内での質疑には主張の理屈・根拠を示す効果があり,別政党からの質疑が建設的な議論を促すことを示唆しているところは面白いと感じたところでした。検証の方法やデータをもうちょい示してほしいとは思いましたが。

著者のみなさんから『自治体DX推進とオープンデータの活用』を頂きました。DXは個人的にも最近興味を持っているところで,初めの方のオープンデータ活用の流れの整理は有用だと思います。途中からは具体的なオープンデータとして地方議会会議録や選挙公約を使った分析が行われています。プロジェクトで開発されている会議録の検索・可視化システムである「ぎ~みる」の紹介・利用もあり,個人的には会議録を巨大な言語データとしてみて,方言のような言語表現やオノマトペについて分析する,というのがなかなか面白いと感じたところです。

原田久・深谷健・小田勇樹・河合晃一の各先生から,『検証 独立行政法人』をいただきました。実務担当の皆さんとの共同研究の成果として発表されたもので,個人的にも最近パブリック・マネジメントに改めて興味を持つようになっておりまして,非常に興味深く読みました。独立行政法人はデータをなかなかとりづらく,分析が簡単ではない中で,それでも取得できるデータから分析に取り組まれているというのはとても意義深いことで,他の研究者にとっても参考になると思います。

多くの論文で取り組まれているように,独立行政法人の自律性をどう考えるか,どう確保するかは非常に重要なところだと思います。個人的には,特に資産を使ってサービスを提供するようなものは,河合先生が分析されているようにROA(Return on Asset)を中心に考えるべきだと思いつつ,しかしそうはいっても収益の勘定はやはり難しいだろうなあと改めて思いました。単位サービス辺りの収益みたいなことを考えていけば良いとは思うものの,それをしっかり決めるのは難しく,決まらないからこそ投入される国費が不安定になるように感じます。結果として,原田先生の分析でもあるのですが,農水省所管ということで他省庁から攻められる,みたいなことが出てくるとあまり健全でない感じもします。

上の2つの本もそうですが,理論的にもなかなかわかりにくい感じで,データを取るのが難しい,というような分野ではあるわけですが,現実の重要性が大きい中で分析対象を広げていくのは大事な試みだと思います。はじめの分析が終わってデータが公開されて再分析…みたいな感じで少しずつ広がっていくと良いのですが。

 

 

*1:Noldas社のFace Readerというソフトを利用されたとのことです。

日本国憲法の普遍と特異

東京大学のケネス・盛・マッケルウェイン先生から,『日本国憲法の普遍と特異』を頂きました。どうもありがとうございます。ケネスさんの憲法の研究については,ずいぶん前からいろんなところで参照されているわけですが,本書はそのひとつの到達を示すものです。非常に興味深い議論で大変勉強になりました。日本政治や憲法を学ぶ人にとっては必読の研究になるのではないでしょうか。私も同じシリーズの出版があって誇らしいです(便乗ステマ)。

世界の憲法に何が書かれているかについて,比較憲法プロジェクト(Comparative Constitutions Project)のデータベースを用いながら,世界の憲法がどのような特徴を持ち,どのように改正されているか,そして日本国憲法がどのような憲法に似ているか,あるいは異なっているかを分析したうえで,最近の日本での世論調査も使いながら今後どのような展開があり得るのかを論じる非常に興味深い研究です。人権・権利章典については多様なものを並べて硬性に,統治機構については軟性にした方が望ましいとされる/日本についてはそのような特徴を持つ,という議論は非常に説得的でした。第7章以外には記述統計を中心に説明されているのも素晴らしく,元になるデータベースがしっかりしていて,かつ論旨が明瞭であることでそれが可能になったのだと思います。分析の結論から出されていた含意についても,人権については超党派の合意で項目を増やしつつ,緊急事態や統治機構については司法のプレゼンスを高めるかたちでの変更があり得るという議論も納得しました。

統治機構の話は,自分自身も関心を持っているところですが,いろいろと改めて考えるところがありました。司法の役割を憲法に書き込むというのはまずそれで,自分が少し勉強しているからこそ「書いたらどうなるのか/何を書くべきか」ということを考えがちなわけですが,ご著書で書かれているように,法律で変えることができたら別にそれでいいわけですから,より一般的なかたちで司法の役割を向上させる,というご主張は目からウロコというやつでした。その場合,それでは何を敢えて書き込むか,今の憲法でどちらかというと突然詳細を定めているようなものを消すか,と言ったようなことが議論の対象になるかもしれません。

統治機構でもうひとつなるほどと思ったのは,そんなに強く書かれていたわけではないですが,参議院の扱いです。今の日本の憲法改正論議でも,参議院を地方の府にするとか権限を相当弱めるとかいう話がでたりして,聞かれれば私も「そういう考え方もありますね」とは言いますが,本書(89頁)でも国際的には各州への均等配分のようなことはなくなっていると書かれていますし,7章の分析結果からも,人々は一定程度強い参議院を求めているようにも感じます。じゃあどうするか,というとなかなか難しいところで,私はこれまでどっちかというと否定的でしたが,今の衆院小選挙区にして参院を比例にする,みたいなこともあり得るのかもしれません。まあいずれにしても,個々の機関だけではなく,統治機構を総体として考える必要が大きいと思いますが。

 

アジア・民主主義

アジア経済研究所の川中豪先生から,『競争と秩序』を頂いておりました。どうもありがとうございます。民主主義における多様な政治制度とその効果について,非常にわかりやすく書かれていて,東南アジアを研究する人だけではなく,比較政治学に関心を持つ院生・学生にとっては教科書としても利用できると思いました。他方で,そのわかりやすさとは反対に,書く側としてはこれは本当に大変だと思ったところです。政治制度についての知識はもちろんのこと,ご専門とされているフィリピン以外の4か国についての深い知識がないと書くことはできず,しかもそれを制度に即してわかりやすく書くというのは本当に難事業であったかと拝察します。川中先生の英語でのご著書に基づいているのかなと思ったのですが,個人的には,とりわけ第5章が勉強になりました。シンガポールという優秀な権威主義国と,フィリピンという伝統的ながら必ずしもうまくいっていない民主主義国が入る東南アジア5か国で比較をされている中で,コロナ後にありがちな権威主義の評価に流れずに民主主義の機能を評価される内容は広く読まれるべきだと思います。

個人的には,最後に課題として挙げられている政党をどう扱うか,政党が現状にどう対応していくか,という点が,東南アジアを超えて広く重要になる問題だと感じます。第5章でも「社会運動型の政治動員に政党が対抗できる見込みは立たず,政党システムをふたたび制度化するのはもう難しい」と書かれています。おそらくその通りだと思うのですが,他方で,従来とは異なる形で,より流動的になりながらも政党が何らかの役割を果たさないと民主政治を安定させることは難しいだろうとも思います。おそらく単に組織だけの政党というのは成り立たず,リーダー個人と組織のバランスを変えながら,民意を吸収し表出するという機能がより強く求められるようになると感じました。その点でも示唆的だったのがインドネシアの事例のように思います。自分自身も,『民主主義の条件』を書くときに調べてから,インドネシアの政治制度のあり方については学ぶべきところが多いと感じていましたが,本書を読んでその意を強くしました。インドネシアでも近年では個人の部分が強まっているとはいえ,基盤的な制度を不断に見直しつつ,リーダー間で一定の競争を促すというのは,いずれも日本にはない重要な特徴のように思います。

慶應大学の粕谷先生他執筆者の先生方からは『アジアの脱植民地化と体制変動』を頂きました。ありがとうございます。「民主制と独裁の歴史的起源」というサブタイトルからもうかがえるようにバーリントン・ムーアを意識しつつ,しかし階級(とその連合)ではなくて,歴史上の制度と運動――植民地期の自治制度,王室制度,そして植民地解放運動の激しさによってアジアにおける脱植民地化後の政治体制について説明しよう,というものです。脱植民地化と体制変動というテーマについては,一国・あるいは東・東南・南アジアという特定の地域での研究蓄積が多い一方で,それらを包含したアジア全域について,歴史的制度論の共通した枠組みで分析を行うというチャレンジがなされています。それぞれの章で興味深いですが,本書の場合はやはり同じ枠組みで分析する,というのが強みなわけですが,16人という人数で,それぞれの章で独自に分析をする論文集というより,共通の枠組みで分析を行うかたちで一冊の本としてまとめるのは大変で,素晴らしい労作だと思います。

北海道大学の前田亮介先生からは,『戦後日本の学知と想像力』を頂きました。ありがとうございます。優秀な若手研究者,というのはよくある謂いですが,本書に参加されている人たちはまさにそんな感じで,戦後の知識人やさまざまな日本政治論,そして政治の概念について切れのある論説が展開されています。頂いた前田さんのとこだけ読もうと思ったら,そのままほとんど読んでしまった,という感じで。個人的には,対象に一定の敬意をもって残された資料などから接近しつつ,しかしわりと突き放して書いている感じの知識人論が特に面白かったです。本書の取り組みがもともと知識社会学的なものですが,本書それ自体についても知識社会学的な言及が行われており――特にジェンダーについては深刻な問題ですが――,その点についても読みどころのように思います。

 

国会議員・知事,増税への合意

いつの間にか6月が終わろうとしていて,梅雨は明けてました。5月の末から6月にかけてはいつもよりたくさん仕事をした気がします。最近なんちゃってマネジメントの仕事が多くて,多少なりともそういう仕事をしてみると,行政学の教科書は参考になることが書いてあるなあと思ったりもします。そのおかげで,最近は就職してから一番行政学に興味を持って勉強してる気がします…。

近況はともかく,この間もいろいろご著書を頂いてました。他にもあるのですがその一部を。まず大阪大学の濱本真輔先生に,『日本の国会議員』を頂きました。ありそうなタイトルなんですが,実はこのテーマを直接扱っている新書は『国会議員の仕事』くらいで,他には大山礼子先生の『日本の国会』でしょうか。いずれも刊行からちょっと時間が経っている中で,本書は豊富なデータに基づいて特に政治改革後の国会議員について説得的な議論をされていて,長く読まれるものになるように思います。何を書くか,というのは難しかったと思いますが,ちょっと前であればこのテーマで政官関係についてもっとたくさん書いてあったと思われるところ,政党との関係や政治資金に紙幅が割かれているのはやはり改革の効果の一つなのかなと感じました。

本書で論じられている現状認識や,必要とされる制度改革などはいずれも深く同意するところです。拝読していて改めて難しい問題であると感じたのは,特に自民党議員がジェネラリスト志向を強めているということでした。小選挙区制なのでやむを得ないところだろうとは思うのですが,組織内での分業という観点から言えばなかなか難しいところだと思います。ジェネラリスト同士でかつ微妙に選好が違うと一体性を保持するのも大変というのもあるかもしれませんし。このあたりは,政治家の専門性と官僚の専門性というものをやや区別しながら考えていかなくてはいけないのかもしれないな,という感想を持ちました。

ちなみに,ツイッターでも宣伝していますが,濱本先生をお招きしたウェビナーを7月5日に実施します(登録はこちら/4日正午まで)。参議院選挙の直前ということになりますが,この前の衆院選の前に,特に英語圏の研究者のみなさんが日本の選挙についていろいろウェビナーをしているのを見て,選挙を機会に学術的な知見を共有することも重要じゃないかと思っていたところで,日本でもそういう企画があっても良いんじゃないか,というのが狙いでもありました。

濱本先生からは,編者として参加された『現代日本のエリートの平等観』もいただいておりました。ご恵与頂いた他の著者のみなさまにもお礼申し上げます。こちらは,1980年に行われた「エリートの平等観」調査から40年近くを経て,その衣鉢を継いで行われた調査に基づく研究成果です*1。エリートというと定義が難しそうですが,政治家・官僚だけでなく,経済団体・労働団体・市民団体・マスコミなど,全国組織・地方組織のリーダーに対して郵送調査を行ったものです。これまでにさまざまな団体調査をされている方々ならではの成果だと思いますが,調査は本当に大変だったのではないかと…。内容について見ると,やはり経済的(不)平等と,国籍・ジェンダーの(不)平等をどのように考えるかが問題になっているということだと思います。第5章(大倉紗江先生)の,エリートが女性の労働力化を支持しつつ,男女の実質的不平等を十分に認知していない,という点が印象に残りました。

奈良県立大学の米岡秀眞先生からは,『知事と政策変化』を頂きました。ありがとうございます。米岡先生はもともと県庁で働かれていて,大学院では財政学・経済学の研究をされてこられたのですが,本書では財政学・経済学だけではなく,政治学行政学の先行研究にも丹念に当たられながら,知事(の違い)が生み出す変化について検証されていきます。政治学だと知事の党派性に注目しがちなわけですが,本書の場合は党派性だけでなく,知事の出身という個人的な属性に注目しながら議論が進んでいきます。第6・7章とか,市町村データ集めるのほんとに大変そうですが,都道府県の中での市町村という枠組みでマルチレベル分析が行われているのも特徴です。

第1部の分析では,官僚出身の知事が比較的財政状況の悪い地域で選出されており,中央省庁からの出向者の助けを受けつつ財政規律を高め,有権者からも評価されるというストーリーを描いています。第2部では,都道府県・市町村の職員給与の抑制に注目し,官僚出身の知事や自民党系の市町村長など,中央政府からの影響を受けやすい長が職員給与の抑制を行っていることが示されます。第2部の議論では,従来行政学で注目されていた政策の水平的な波及だけでなく,国・都道府県から市町村への垂直的な影響力についても注目されるべきことが指摘されています。これはその通りだと思いますし,財政学・行政学の研究を幅広くご覧になっているからこそのご指摘だなあと思うところです。

東京大学の田中雅子先生から,『増税の合意形成』を頂きました。ありがとうございます。田中さんは,政策秘書として政治の世界を経験されてから大学院に入学され,僕も駒場でご一緒した時期があったのですが,ご苦労されながら博士論文を書かれて出版されたのは本当に素晴らしいことだと思います。

清水真人さんのものをはじめ,消費税に焦点を当てたルポや研究は多いですが,それらは事実の記述と解釈を中心にしているのに対して,本書はは最近の先行研究をきちんと踏まえたうえで理論的な貢献を図る意欲的なものだと思いました。増税を考えるときに,一元的な増やす-減らすだけの話だとデッドロックに乗り上げてしまうわけで,関係ないように見える者も含めて多次元的交渉を行うことで(国際関係論でも用いられるサイドペイメントを意識したものだとありました),不利益政策が選択できるのだ,というのは説得的な議論かと思います。不利益政策については,行政学で柳さんが研究されていた他,最近だと鎮目真人先生がより言説のほうに引き付けるかたちで研究されていましたが(あちらは社会保障),それに対して田中さんのは利益に引き付けて不利益政策の実現を分析したものだという理解もできるように思います。

*1:この意味では,私も参加しております『現代官僚制の解剖』も似たところがあります。

最近の教科書

いろいろ教科書・体系書をいただいておりました。ありがとうございます。まず立教大学の原田久先生から,『行政学[第2版]』をいただきました。トピックや事例をクローズアップしながら行政の制度や政策について勉強するという特徴を持った教科書です。以前のものを改定した第二販ということになりますが,お忙しい中でかなりの部分を書きおろしで更新して第二版を出されるというのは大変なご苦労があったかと思います。第8章の「情報資源管理論」は統計を扱っているところ,私自身も最近関心を持って研究しているところなわけですが,統計に関する制度についてまとめて扱っている行政学の教科書は少なく,この教科書の特徴の一つだと思います。個人的には,第三部の政策論のところ,理論的な話の中で具体的な検証事例として授業などでも使いやすいと感じました。

著者のみなさまから,『テキストブック地方自治の論点』をいただきました。ありがとうございます。従来の地方自治の教科書ではちょっと落とされがちの公営企業や公民連携,住民投票といったところにそれぞれ一章が割かれていて,自分自身最近はこのあたりに関心を持っているところで興味深く拝読しました。自分の授業ではこのあたりの内容についても説明するもののなかなかちょうどよい教科書がなく困っておりましたが*1,トピック・論点ごとに整理されたものとしてとても有用だと思います。前も紹介しましたが(こちらなど),最近の地方自治の教科書は多様になってきて非常に良い傾向だなあと感じるところです。

地方財政審議会の会長である小西砂千夫先生から,『地方財政学』をいただきました。ありがとうございます。初めの方を中心に,関心のある章についてまずは拝読いたしましたが,地方財政の制度と実体が非常に詳細かつ丁寧に描かれていて,今後自分が授業で地方財政関係のところを話すときにはまず確認させて頂かなくてはと感じるものでした。そして,ご用意されるのが大変だったのではないかと想像しますが,最後の演習問題とその解答についても,本書を基盤とした説明として,学生向けの大学の試験のみならず研究者としても非常に有用なものだと感じます。地方財政の特定の論点についてちゃんと説明するのって難しいわけですが,一貫して説明されているのは非常に参考になります。

京都大学の曽我謙悟先生から『行政学[新版]』をいただきました。ありがとうございます。もともと非常に理論的・体系的な教科書として有名ですが*2,その新版ということで,前回出版されたところからさまざまな研究を取り入れた「学界における研究成果のカタログ」を充実させているとともに,図表のアップデート・更新がなされています。初版から図が非常に多いんですが,それをできるものは全部更新するっていうのはすごい作業で本当に大変だったのではないかと…。

個人的にも,2013年に出てからずっと授業で使っている教科書ではあるのですが,この10年で自分が強調するポイントがだいぶ変わってきた気がします。初めのうちは第一部(政治と行政)と第二部(行政組織)を中心に講義をしていたのですが,最近はほとんど第四部(ガバナンスと行政)だけで行政学の授業してる感じがします。まあコロナ禍で授業再編成をして,行政学地方自治(こちらは第三部(マルチレベルの行政))に変えた,というのもあるわけですが。自分自身の志向として,Public administrationからPublic managementの方に移っていったということに加えて,行政のマネジメントをどう考えるかということの研究も少しずつ増えているのではないかと。それを受けて,代表的には野田先生の教科書とかそうじゃないかと思いますが,地方自治の教科書を中心に「管理」ではなく「マネジメント」という観点から接近しようというものも増えているのかもしれません。

*1:まあ連携については自分で書いた『テキストブック地方自治』の章があるのですが!!

*2:ご本人は「読む教科書」とおっしゃってました。

現代官僚制の解剖

宣伝ですが,有斐閣から出版された北村亘編『現代官僚制の解剖ー意識調査から見た省庁再編20年後の行政』に,「なぜデジタル化は進まないか-公務員の意識に注目して」という章を寄稿しました。本書は,村松岐夫先生が実施されてきた官僚意識調査の衣鉢を継ぎ,大阪大学の北村亘先生を中心に20年ぶりに実施した官僚意識調査のデータを利用した研究を出版したものです。予算制約などもあり,対象になっているのは課長級以上が中心で,サンプルサイズも制約されているので,公務員の全体像を明らかにしたとまではなかなか言えませんが,現状で可能な範囲で直接(幹部)公務員の方々の意識に迫ろうとした研究であると思います。もちろん当初はもう少し広い範囲に実施することを考えていたのですがまあいろいろありまして…(という経緯は「はじめに」と10章にちょっと書いてます)。

私自身は最近細々と研究しているデジタル化について,組織文化との関係について考えてみたというものです。「デジタル化は大事だよね,だけど政府はできてないよね」とみんな言うわけです。でも情報通信技術の導入という観点から言えば,電話や電報,FAX,インターネット,ウェブ会議システムなんかも政府はそれなりに導入してきたわけです。でもできてない,と言われるときに「業務を機械で代替する」ということについての組織文化的な抵抗があるのではないか,ということを考えてみました。サーベイの分析結果から言えば,効率より大事なものがある,とか,外部の理解が大事だ,と考えていたりすることと,機械による代替には積極的じゃない感じが相関しているんじゃないか,というような感じになりました。こういう組織文化は測定するのが難しいし,なかなかはっきりしたことは言えませんが,ひとつの議論としてご笑覧いただけると嬉しいです。